第34話 畏怖の称号
一昨日と昨日、僕は悪の組織とやらに襲われた。連中は僕の名前を知っていたし、僕を狙っているようだった。悪の組織の代表である黒ずくめの彼女は、ビャッコの幼馴染だという。
ビャッコと彼女は因縁がありそうだ、だから僕はビャッコにあることを教えた。
一昨日の夜、僕を襲った連中のある一つの共通点について。
今はビャッコと一緒にギルド組合本部ビルの応接室にて、マケインと相談していた。
「王立銀行に連中のアジトがある?」
「そう、僕の推測だと連中のアジトは王立銀行の建物内にある」
「その話がもしも本当だとしたら、大変なことですよウィル」
何せ、その悪の組織の幹部はのきなみ賞金首の大物。
例の彼女にしたって、ざっと金貨一千枚の懸賞金がかけられている。
「連中にばれないように、王立銀行を捜索することって可能かな?」
と言うと、マケインは口をつぐんでしばらく考え込んでしまう。
「……王銀は、王国貴族の利権の温床でもありますからね。ウィルの推測が的を射ているのなら、悪の組織『666』は国の深部とガチガチにつながっていることになります。少なくとも王銀の建物を捜索する権限は王室メンバーにしか出せないと思いますし、実質、連中を捕えるのは不可能といっていいでしょう」
「僕はね、何もしない貴族が大嫌いなんだ。この世にはちゃんと仕事する貴族と、何もしない貴族の二つしかいないからね。その666とつながっているのだって後者の方だろうし、潰せるのなら潰したいな」
「今回はやけに攻撃的なのですねウィル、少し笑ってしまいます」
と言ったように、正攻法では悪の組織を追い詰めることはできなさそうだ。
話を聞いていたビャッコはもどかしそうに、お茶を飲む。
マケインもお茶を飲み、潤したのどで僕に聞く。
「確証はあるのですか?」
「僕を襲ってきた連中の懐を調べてみたんだ、そしたらその人たちは全員、王銀に口座を持っている人たちだった。恐らく件の組織のボスであるミカエラとは銀行の建物で遭遇したんだろうね。それで彼女のスキルによって支配された」
それが、僕を襲った犯人グループの共通点だった。
灯台下暗しというし、王銀にアジトがあるというのは割りと可能性高いと思う。
「マケイン、王都の冒険者の中で対象をいぶりだすようなことが出来るスキル持ちはいないの?」
「いるかもしれませんね、かと言って個人情報なので秘匿しますが」
マケインの反応をうかがうに、僕の方からギルドに依頼を出さないといけないみたいだ。ならそうしようと思う。なぜなら今回の被害者は僕であり、理由は知らないが僕はその組織から狙われているのは明白だ。
「質問を変えるよ、ギルド組合の本部にいる全ての冒険者を動かすにはいくら必要そう?」
そう言うと、マケインはよくできた営業スマイルを取っていた。
◇ ◇ ◇
後日のある日のこと、自分のお店で仕事しているとマケインが訪れた。
「ウィル、少しお時間よろしいですか」
「いいよ、ミーシャ、僕ちょっとここを外すね」
ミーシャにあとのことを頼むと、快活な声音で了解にゃと言ってくれた。
「で、僕を呼び出した理由は?」
「大詰めになりそうなんですよ、666の件です」
大詰め? たしか僕が666についての依頼を出したのは先々週のことで、まだ十日かそこらしか経ってないのに。
「すごい手際の良さだね」
「王都の冒険者たちを舐めないでください、彼らはみな選ばれし冒険者ですから」
マケインはつけ加えるよう、それにと言葉をつづけた。
「それに、666は悪名高いですからね。元々連中を狙っていた冒険者ギルドまであるぐらいなので、ウィルのお知り合いにもいるじゃないですか、レオという獣人が。彼もその内の一人です」
そうだったのか。
たしかにレオはバウンティハンターを自称していた。
マケインは僕を連れてどこへ向かうのかと思えば、王立銀行の建物に入った。ここは僕が見立てた連中のアジトであれば、待合室の席で一緒に座っているマケインを疑う――まさか、マケインも洗脳されてるんじゃ?
「ウィル、貴方には今回の事件の功労者の代表になっていただきます」
「って言うと?」
「今にわかりますよ、さっそくお出でになりましたね。彼女じゃないですか?」
言われ、前を見ると先日出会った黒ずくめの彼女がやって来た。
隣にいるマケインは片足を組んでおうように座っている。
「やあ、エッグオブタイクーン・ウィル、会いたかったよ」
黒ずくめの彼女――ミカエラは座っている僕たちに対峙した。
先日の一件を考えると、この距離はまずい。
僕たちが今いる場所はミカエラのスキルの効果範囲内だった。
「隣にいる彼は?」
「……彼は僕のよき友達でね、ビジネスパートナーと言えばわかりやすいかな」
「ふぅん、それはそうとウィル、ちょっとついて来てもらっていい?」
「何か用?」
僕は彼女をあからさまに警戒した。
だが、先日襲われた時のように意識がもうろうとし始めて。
「君のこと、もっと知りたいなって」
ミカエラの声が、蠱惑的にこまくに響くと、彼女に取られた手を振り払えずにいた。
しかし、隣にいたマケインが彼女の手をつかみ。
「ウィルをどこに連れていくつもりですか、ミカエラさん」
「……離せよ、堅物の童貞」
「おや、想定外の事態に立ちくわしたからか、急に苛立ち始めたのですか? 貴方はそれでも666の首領でしょうか」
マケインがそう言うと、銀行の建物内にいた他の人たちが変貌した。
それまでは銀行に訪れた客だったのに、今はミカエラに武器を構えている。
「悪の組織666、貴様らは今日限りで終わりだ!!」
銀行の入り口から、レオを筆頭にした冒険者たちが多勢に押しかけ。
王立銀行の建物内に防犯用のベルが鳴り響くと、壮絶な争いが起こり始めた。
「痛っ、痛いんだよ童貞! 離せと言っているだろ!」
「ウィル、貴方の推測は当たっていたようです。王銀の地下に666のアジトがありました。なんでも666は日夜研究に勤しんでいるようで、地下では夜な夜な人の悲鳴がこだましているようです。ミカエラさん、貴方は一体何を研究していたのでしょうか?」
冒険者と悪の組織が目の前で抗争しているというのに、マケインは冷静だった。
ミカエラの手をつかみ、
「マケイン、僕たちは避難しよう」
「大丈夫ですよウィル、貴方の命は貴方の大切な従業員が守ってくださいます」
ふと視界を移すと、マケインに捕まっているミカエラを取り返そうと奥手から数人の男が迫っていた。しかし彼らは横から割り込んだ、ヒーローの姿に変身したビャッコによって一蹴される。
「ミカエラ、今日で終わりにしよう」
「終わりにしよう? 何を終わりにすればいいって?」
「悲しみを断ち切ろう、今日限りで。どうあれ悪の組織666は今日づけで一斉に捕まる。貴方を利用していた連中も検挙される」
「ああ、もう、せっかく面白いことになりそうだったのに、まーたビャッコは僕の邪魔をする」
ミカエラはビャッコに悪態を見せていた。
僕は二人の過去を知らないからなんとも言えないが、隣にいたマケインは違ったようだ。
「ミカエラさん、今日の最大の功労者は彼、エッグオブタイクーン・ウィルです。貴方はウィルの作戦にはまり、このような事態になったのですよ。さすがはウィルと言うべきでしょう」
えぇ? たしかに今抗争を繰り広げている冒険者を雇ったのは僕だけどさ。
ここに来た時、マケインが言っていたことの意味が今にしてわかった。
その後、レオやビャッコの活躍あって悪の組織666は全員捕まり。
銀行から出た僕はマケインにあることを示唆した。
「ミカエラのスキルにかかってるかもしれない」
「大丈夫です、私がそばにいる限りどんなスキルも無力化できます」
「……もしかしてマケインって、実はすごい人だったの?」
と言うと、マケインは失笑をこぼした。
目の端には今回の捕り物の中核であるミカエラが、用意された馬車によって連行されようとしていた。彼女は僕たちの方を恨めしそうに見ると、あるワードを口にしていた。
「エッグオブタイクーン・ウィル! その名前はいずれ世界を恐怖させる畏怖の謂れになるぞ!」
と。
正直どういった意図で言ったのかわからないけど。
悪の組織666のミカエラがその名を口にしたことで、僕の名前は王都中に知れ渡ることになった。
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