第13話 赤字スタート
元ギルドメンバーだったトレントとミーシャは僕の後を追う形であのギルドを脱退した。トレントが王都に訪れた日に僕と再会できたのは偶然だけど、奇跡だ。と再会を喜んでいた。
その後プリンを試作したママがやって来て、今は聖女教会の家で試食している。
先ずは従業員第一号のビャッコの感想から貰おう。
「美味い、悔しいけど、私の負けだね」
彼女の感想だけでわかる、これはもう商品レベルの質が担保されている。
この家の孤児たちも、和気あいあいとしながらプリンを頬張っていた。
「これママが作ったの!?」
「そうだよ、ママを何だと思ってるの?」
「ママすごーい」
「えっへんですよ」
じゃあ、これはもう決定で。
トレントやミーシャの姿を見た時から考えていた飛びっきりの行動に移りたい。
「みんな、ちょっと聞いてくれ。僕から大事なお願いがあるんだ」
そう言うとみんなは一斉に僕に注目しだした。
「ここにいるみんなを、僕のギルドに招待したいと考えている。僕の商人ギルドで一緒に切磋琢磨して、僕の師匠が作った大商人ギルドを超えるような立派なギルドを作ろうよ」
そうだ、僕の目標はいつの日からか、師匠を超える大商人になることだった。
今はまだ遠く及ばないけど、きっといつか超えてみせる。
「あのギルドを追い抜くのは時間の問題だけどなー」
トレントはそう言い、元居たギルドの窮地を物語っていた。
「話そらしちゃって悪い、俺はウィルのギルドに加入したい! よろしくお願いします!」
「にゃー、私もウィルのギルドに入るにゃー」
トレントに続いてミーシャの賛同も得れた。
ビャッコは別のギルドを作っているからしょうがないけど。
「あ、じゃあ私も入るー」
「え? だって君は白猫亭っていうギルドが」
「あはは、実を言うと、ギルド創設に必要な資金がなくて、白猫亭ギルドはまだないんだ」
そうなんだ、なら残すはママと子供たちだけだけど。
「……ウィル、その話だったら、フレイヤ様にご相談してね? ママより」
フレイヤにか、なら早速相談して来よう。
「フレイヤ様は今は仕事中だから、また夜に来てよ」
「わかった、出来ればママは夜までにあと三つほどメニューを増やして欲しい」
「できるだけやってみるよ」
じゃあ、トレントとミーシャとビャッコをギルドに加盟させる手続きをして来よう。そのため、僕たちは教会から離れ、ギルド組合本部のビルに向かった。一階の男性に尋ねると三階を指名されたので向かってみる。
三階に着くと、偶然歩いていたマケインと鉢合わせた。
「おや、ウィル。それにトレントさんにミーシャさんまで」
「マケイン、先日はありがとう」
「様子を見る限り、順調そうですねウィル。こちらも嬉しいです」
「今日はこの三人をギルドメンバーとして迎え入れるよ」
どこで申請すればいい? と聞くと、マケインは笑顔を浮かべる。
「それでしたら私がご案内しますよ、エッグオブタイクーン・ウィル」
「……マケインも、首になったら僕のギルドに入りますか?」
「はは、私は一生公僕でいいのです。性にあってるので」
マケインの案内で僕たちはメンバーの加入申請を進めた。
三階のギルドメンバー加入申請の窓口に腰を下ろし。
「さて、すでにご存じかと思いますがギルドメンバーにはギルマスの指定により役職を設けることが出来ます。それぞれの役職で出来ることと出来ないことがあるので、そこは当ギルド組合のパンフレットをご参考ください。ご確認が終わりましたら加入するメンバー様本人のサインをここに、ギルマスのウィルのサインをここにそれぞれお願いします」
「はい」
僕らは慣れた手つきで書類にサインをしたが、約一名だけ字が汚い輩がいた。
「ごめーん、私書き文字下手なのー」
ビャッコだった。
マケインはこのぐらいであれば問題ありませんとフォローすると、次の説明に移った。
「次にギルマスであるウィルにはそれぞれの役職を記入して頂くことになります。役職なしですと追加料金は掛かりませんが、役職を与える場合は別途料金が掛かりますので一括即金払いでお会計させてください。ウィルにとってははした金ですよね」
「そういう慢心に足元をすくわれるんだ」
「これは大変失礼しました」
役職の割り振りは、正直細かくしても意味はない。
ここは記念の意味も込めて、三人にはギルマスに次ぐ副リーダーの役職を与えておこう。
「これでお願いします」
「ありがとう御座います、金貨三枚になります」
「え!?」
ビャッコが急に驚嘆をあげた。
「一人につき金貨一枚も取るの?」
「そんなものだよ、何せ副リーダーの権限はギルマスである僕とほぼ一緒だから。その分ギルド管理は複雑になるし、金貨一枚だけ払ってその後半永久的に管理してくれるんだから、むしろ安いよ」
というと、目の前にいたマケインが温和な声音で語り掛けた。
「ウィル、それは貴方のような金持ちだからこその発想ですよ」
マケインに金貨三枚を提示しつつ、余計なお世話だと返しておいた。
ギルメンの申請が終わり、本部のビルから出るとトレントが身を震わせていた。
「うぉおおおおお、これで俺もエッグオブタイクーンの一員だー」
「にゃー、私は今日からエッグオブタイクーン・ミーシャって名乗るにゃ」
「え、エッグオブタイクーン・ビャッコ……悪くない」
三人とも喜んでくれたようだ、じゃあ早速で悪いけど。
「トレントとミーシャはビャッコを連れて店舗の視察に行ってきて、今内装工事中だけど、希望や、何かしらの不備があったら工事中でも積極的に声を掛けて相談させてもらってくれ。僕はママの様子見に行って、その後君たちに合流するよ」
◇ ◇ ◇
こうして、王都での卵専門店の開設はその後滞りなくスケジュール通り動いた。
お店が開くまで、僕は毎日忙しなくして、家に帰ってはジニーを出迎える。
ジニーはいつも疲れた顔色してて、たまに彼女の限界を感じるような奇行もしばしば見受けられた。その都度に、彼女を励まし、時には慰めたり、好きだと言ってくれた卵料理をふるまってはお礼を言われる。
僕と彼女の交友は日を追うごとに深まっていく、そんなある日のこと。
「ウィル、いよいよなんですってね」
「ああ、いよいよ明日店が開くよ」
「私、お休み取ってあるから、様子見に行くね」
「ありがとうジニー」
僕が構想した王都の卵専門店がいよいよオープンする。
期待に胸を膨らませてその日の夜は気持ちよく寝れたのだが。
結論から語れば、初日の売り上げは予想よりも大きく――
「ウィル、まずいにゃ。初日の純利益、大赤字にゃ」
初日の売り上げはほとんど伸びず、予想よりも大きく下回った。
僕の卵専門店は、苦々しいスタートを切ってしまった。
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