今日も親父は機嫌が悪い
DITinoue(上楽竜文)
本文
僕の名は、
親父の名前は
ピューマズは最近、毎年Bクラスだ。
僕は二〇二〇年にドラフト四位で入団し、一年目は活躍した。が、それが最盛期だった。
そこからは、打てないし、守れないというものだった。
来シーズンは多分、二軍スタートだろうな……。
一年目のような活躍ができない理由はちゃんとある。その一つが、親父だ。
親父は熱烈なピューマズファンだ。それで、僕が子供の頃は負けた日、めっちゃキレて僕に八つ当たりをした。
だが、ピューマズに入団した今は、負けた日、打てなかった日、悪守備をした日は毎回、テレビ電話をかけてくる。そして、めちゃめちゃ怒られるのだ。
それが怖くて、毎回力んで打席に入り、結局打てない。で、また電話、不調の繰り返しなのだった。
さて、今年も負け越し、五位が確定した。
そんな中で、ホームでのシーズン最終戦。その最終戦も、守備のミスが絡んで、大量失点で負けた。
そして、今日のエラーは僕、佐中もその一人だった。
「おい、お前、今日もエラーしたやないか。アホか、お前は。コーチもあかん。岡野もあかんわ。ホンマに。ドラフトでこんな出来損ないとったんがまずあかんな。でお前、そもそも取ってくれた監督に感謝とかないんか。報いようと思わんのか?」
今日も、親父からテレビ電話があった。
「いや、そら思っとるよ、親父。頑張ってるけど……」
「今のフォームがあかんとか、バット変えようとか思わんのか? コーチに指導頼まんのか? だからお前は打てへんねや。球威に負けとるし、なんでも振る。これやからお前はあかんねん」
話を聞こうとはしてくれない。いや、そりゃあコーチに指導してくれって言ってるし……。
「しかも、守備や。どうやったらこんなエラー多くなんねん。ホンマにあかんわ。さっさと二軍落ちろ、平野に叩きなおしてもらえ。分かったな? けっ、小学生でもできる投球ができへん選手なんか見たくないわ。切るぞ、一生顔を見せるな」
電話が切れた。
――これだから、父のピューマズ愛は。
と思った時、再び電話がかかってきた。
「おい、ずっと悪いこと言うた。悪いな。俺はな、会社立てるときにな、恩師の先生から言われたことがあってな、それができへん子供が見てられへんねん。一球に魂入れなあかんねん。でもな、お前は俺に怒られへんためにやってる。ファンのいうことなんか気にしてたらそんなんプロ出来へんねん。俺はな、ただただ出来るやつのプレイが見たいねん。それが俺の励みとなんねん。頑張れよ、おい。ファンからの手紙を持って帰省して来いよ。じゃあな」
一人だけのベンチで、親父の言葉を考えてみた。
――一球入魂、か。俺は、これまで親父に叱られないために野球をしてきたようなもんじゃないか。練習も正直、あんま参加していなかった。
少しすると、メールが送られてきた。
母からだった。
『お父さんから伝言。素質がある素晴らしい男しか、俺はみぃひんからなって』
はっ、と思った。
そうか、僕がプレイするとき、毎回試合を見てくれる。それは、自分に素質があると言ってくれているのだろうか?
ファンからの手紙を持って帰省して来い、と言った。
あれは、父なりのエールなのだ、ろうか。
「コーチ、バッティングの指導お願いします!」
僕は、魂を燃やし、帽子をかぶり直した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます