第7話 盤上のゲーム、『キャンドル』

 双子の子供を掛けたゲーム、「キャンドル」。


 レイグスにとって、久しぶりのキャンドルではあったが、初戦で勘を素早く取り戻し難なく勝利。その後、厳しい相手とも戦ったが、競り合った末に勝ち進んだ。トーナメント戦で行われた試合だが、意外にもこの双子を欲しがる輩が多く、決勝までに五試合にも及んだ。

 そうは言っても、体力にも自信のあるリョダリである。宣言通り、危なげなく決勝まで勝ち進む。しかし最後の戦いで金髪に目元だけを隠す仮面を被った、いかにも賢そうな男と腹の読み合いをしなければならなくなった。


(……この男、強い)


 細くて白い綺麗な指には、金色の変わったデザインの指輪が右手の中指にはめられている。大抵こういうものは、足が付くので身元を明かしたくない者は付けないが、彼はそうではないらしい。

 闇の取引で、金以外の力で上り詰めてくる奴は頭が切れる。きっとこの男も変わった装飾品を付ければ足が付くことは承知しているはずだ。だが、彼はそれを逆に利用しているのだろう。よくここに来るからこそ、ここでの取引を行う者たちと交流をする際に、自分を覚えてもらう為にその指輪を付けているのだ。


(ちゃんと勝ち上がって来たってわけだな。どうやら容易に勝たせてはくれないらしい……)


「……」


 レイグスは相手の様子を見、考えていることを探りながら、キャンドルを進めていく。

 決勝のゲームが始まって十五分。オウルス・クロウは闇の取引ということもあり、真夜中にしか活動をしない。そのためゲームもその時間内に終わらすため、所要時間が決まっている。準決勝までが十分、決勝は二十分という具合だ。

 相手が打ったら三十秒以内に自分も打ち返さなくてはいけないので、ミスもしやすい。その為、いかに素早く盤上の状況を読むかが勝負のカギとなる。


(今は私が勝っている……かな)


 静かに打ち返しながら考える。相手の男は強いが、レイグスの出方を警戒しすぎて大胆な手を打ってこない。安全に勝ちに行きたいと思っているようだが、それでは彼女には勝てない。しかしレイグスも相手の戦略を正しく読めているかどうか分からないので、いまひとつ強く出られない。


(どうするか……)


 だがその時だった。相手が急に、緩めた手を打ってきたのである。


(……おかしい)


 その一手で、レイグスはこの男があえて負けを選んだことを悟った。彼女は仮面の中で眉をひそめつつも、王手への決定打を打つ。



 そしてその数手後、男は両手を挙げて降参をした。


「……打つ手がありません。負けました」

「勝者が決まりましたね。皆さん、キャンドルのゲームの勝者が決まりました! 勝者はレイグス様です!」


 司会者のアナウンスに、観客用の大きな盤面でゲームの進行を見ていた会場が湧き上がる。一部でブーイングのようなものも上がっているが気にしない。そして問題なのはこれからである。


(さて、どうやってあの子たちを連れてここを脱出しようか)

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