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「何で、こうなるんだよ?」

「金を強奪しても文句が来る心配が無い所ですから……」

 俺と一緒に居るのは、「社長」こと藤波藤波孝次郎が企画している「魔法使いによるプロレスの興業」に参加する事になった……多分、他に就職先が無いマヌケの1人で、リングネームは「土御門つちみかど充晃みつあきら」。

 二十代後半で役割は「善玉ベビーフェイス」。

 中肉中背で、別れて5分後には顔を忘れそうな平々凡々な顔なんで「善玉ベビーフェイス」として売り出す為にはコスチュームなんかに工夫が必要だろう。だが、良く見ると首や腕は結構筋肉質で、体も、そここそ鍛えてるようだ。

 得意手は……一度に十体以上の「使い魔」を使用出来る事。

 ただし、「使い魔」一体一体は……それほど強くない。

 とは言え、その十数体の「使い魔」と同時に意識を同調させる事が可能で、「社長」は、その十数体の「使い魔」こそが、安倍晴明の使っていた十二体の式神だと言い張るつもりらしい。

 もっとも、こいつの流派は、祭文……早い話が呪文……なんかを見る限り、陰陽道の影響を受けてるのは確かだが、二〇世紀末の陰陽道ブームの頃まで、一族・一門の誰も「陰陽道」の「お」の字も聞いた事が無かったような民間信仰系……早い話が「陰陽道の分派の可能性は高いが、陰陽道の『本家筋』とは明治以前に縁が切れてて、自分達の起源も忘れ去っていた」ような流派らしい。

 要は、同じ若造でも、この間のサイコ野郎よりは遥かにマシそうなこいつは、天賦の才も後天的な技術もスゲ〜が、判り易い「真っ向勝負に強い」「パワーが無茶苦茶」なタイプじゃなくて、偵察その他の「搦手」「縁の下の力持ち」的なタイプだが……。

 そう云う意味では、いくら就職先が無くても、絶対に「プロレス」向きじゃねえような奴だ。

 ともかく、俺とこいつは興業の開催費を稼ぐ為に、ヤクザの事務所を襲撃して金を奪う事になった。

 何でだ? と言われても、必要な金は……並のサラリーマンの年収ぐらいの金額で、そんな金を短期間に合法的に調達するのは無理だ。

 そして……非合法だが、警察も「正義の味方」も出て来る心配が一番少ない荒稼ぎの方法は……「犯罪組織から金を奪う」。

 とは言っても、熊本地元最大最強の暴力団である「龍虎興業」系の組じゃない。

 鹿児島県を本拠にしてる弱小暴力団「勇仁会」が、最近、熊本に進出してきてるらしいので、最近、その「勇仁会」のフロント企業が1フロアを借りた雑居ビルまでやって来ていた。

「おい、社長。問題の組は『魔法使い』系とかじゃないよな?」

 俺は話を持って来た『社長』に携帯電話ブンコPhoneで最終確認。

『「妖怪系」か「変身能力者系」が中心らしいけど……まぁ、普通の人間に毛が生えたぐらいらしいですね。一応、「レコンキスタ」の「レンジャー隊」2個小隊で三〇人以上を逮捕した記録が有りますよ』

 対異能力広域警察こと「レコンキスタ」のレンジャー隊は、二〇世紀のTVの戦隊ヒーローみたいな強化服を着けた連中で、1個小隊の前線メンバーは5〜7人だった筈。

 ただし、レンジャー隊用の強化服は「部品のウン%以上は国産で、組立も日本国内」と云うしょ〜もない条件が有った為に、性能的にはイマイチなモノを採用する羽目になったようで、はっきり言えば「海外のライセンス生産が大半の民生用強化服の最高級機種である高木製作所の『水城みずき』に比べて出力・精密動作性・防御力・制御AIの出来の全てで数ランク劣る上に『水城みずき』よりも値段も高い」と噂されているが。

 とは言え、そんなトホホな強化服着けた「訓練を積んだだけの非異能力者」でも倍以上の人数を鎮圧出来たんだから、異能力者と言っても、大した事は有るまい。

「で、どうだ?」

「ちょっと待って下さい。人数は5〜6人」

 土御門充晃(リングネーム)は、

「へっ? 二〇人近く居てもおかしくない広さのフロアだぞ」

「それと……変です。1人だけ、やたらと『気』がデカいのが居ます。残りは、せいぜい、常人の二倍以下です」

 どうなってんだ、一体?

「まぁ、いい。考えんのは後だ……行くぞ」

 俺達は……雑居ビルの非常口から階段を使って、目指すフロアに移動。

「あと……気になる事が……」

「何だ?」

「『勇仁会』って、鹿児島の組ですよね? 薩摩隼人の『はやと』は……勇気の勇に人って書く場合も有った筈なんですが……」

「それが……?」

 幸か不幸か、俺は近代西洋オカルティズム系の流派を学んでたせいで……日本の「魔法」や「妖怪」系については……一般人より少しマシ程度の知識しかねえ。

「隼人の語源は『え人』だって説が……」

「どう云う事だ?」

 話してる内に目的のフロアに到着。

 一応は持って来た消音器サプレッサー付きの拳銃で、廊下に有る防犯カメラを撃ち……。

「あ……」

「マズい……」

 思い切り外した。

 クソ……。

 そして……消音器サプレッサー付きとは言え、それなりの音。

 電子錠付きのドアが開き……。

「な……何で?」

「伏せろッ‼」

 突然、銃撃音。

 そこに居たのは……。

 おい……何でだよ?

 たしかに……「科学技術」で「魔法」に対抗する場合の定石だ。

 しかし、何で、このヤクザどもは「魔法使い」が襲撃する可能性を予期出来た?

 そして……何で、弱小田舎ヤクザに、こんなモノが買えた?

 そいつは……人のような形をしていた。

 サイズも人間ぐらい。

 人間そっくりの手には軽機関銃。

 ただし……皮膚の代りが強化プラスチックらしい素材。目の代りは小型カメラ。

 そこに居たのは……だった。

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