第二話
万が一の時のために「闇緑の涙」と「黒闇のローブ」を使いこなさければならない。サロとシュクラはさっそく例の地下室に入る。岩戸を閉める。「闇緑の涙」と「黒闇のローブ」に誤って人間が触れないようにとりあえず地下室に保管した箱を魔法鍵で開けるサロ。サロが「闇緑の涙」を装着するとさらに異形の姿となった。ちなみにサロが第二形態になるとき……鎧は殻を破るかのごとき破壊され己の躰は巨大化するのだそうだ。だから第一形態の時の訓練ともいえる。シュクラも白銀の鎧を着ている。
暗夜の朝の習慣である。外は猛吹雪のため外に出ることが出来ない。だが地下室で十分である。しかもこの「闇緑の涙」という鎧や兜は闇の中に居るほど、夜の方に、そして人間の血を吸うことでさらに防御力が強化される。ゆえにここが最適の修練の場なのだ。なお魔族の血には反応しない。ゆえに「闇緑の涙」の鎧と兜を人間が着ると最悪命を落とすという人間から見たら呪われし防具なのだ。だからこそ「闇緑の涙」と「黒闇のローブ」はここ地下室で厳重に管理している。
(これで魔王の武具としては超・初期装備というのだからすごいぜ)
シュクラは初歩的な炎で攻撃する。うまくよけることが肝要だ。初歩的な剣では「闇緑の涙」を装備すると全く傷かつかないのだそうだ。ためにほんの少し自分で傷つけようとすると全く歯が立たないことが分かった。互いに力を十分の一……いや、下手すると百分の一に落としての訓練である。なおサロが人間の血肉を喰って魔力を最大限にすれば人間の街を一つぐらい吹きとばすことなど造作もない。ゆえにサロはこの村人からもあらゆる意味で畏れられている。同時にサロはこの自分が持つ力を制御し同胞も守る義務が発生する。もちろん、この町を襲われたときもちゃんと村人を守るのだ。ゆえに非常に重要な鍛錬だ。
だから、この部屋にあった生贄の台も再整備した。本意ではないが。ここは魔法の鍛錬だけを行う場ではない。単なる接近戦の鍛錬場でもない。生贄の場でもある。二代目魔王同様自分の本性など見られたくないのだ。なのでサロとシュクラ以外今のところは立ち入り禁止である。
「鎧にもだいぶ慣れて来ましたね」
「ああ! この鎧すげえな!! シュクラ!」
そう、模擬戦である。いくら優れた装備品でも使いこなせなければ意味が無い。
そんな時。
「お茶が入りましたよー」
がらっと石戸を開けるエステル。しまった。鍵をかけるのを忘れていた!! イバン茶(北の大地の住民が飲む松の実のお茶の事)を落とすエステル。陶器が割れる音が地下室に響く。メイドであるエステルはシュクラとサロ以外ここは入ってはいけないことをすっかり忘れていた。サロは自分が「食事」の真っ最中にエステルに見られなくて本当に良かったと思っている。エステルは主君の装備姿をまだ見たことがない。エステルはサロのあまりの異形さに驚いたのだ。
サロは右手の掌を前に出し中断の合図をとった。シュクラも鍛錬を止める。
そしてサロはエステルには使われていない牢屋の清掃を命じていたことを思い出した。きっとエステルは気を使ってくれたに違いない。ここで厳しく接してはいけない。魔王だからと言って暴君になったらおそらく人間を街に呼び込むことすら無理だろう。でもダメなものはダメだから……それなりの対処をせねば。
「み……た……な?」
ライムグリーンの甲殻類は牙をむきながらうれしそうにエステルを見た。
「ふむ。我々は一旦謁見室に行きましょう。エステルは一旦謁見準備室へ。なぜか分かるな?」
シュクラもちょっと怖い顔していた。エステルは泣きそうだった。
◆
「も、申し訳ございません。どうか私めの首を飛ばし……」
「もういいから」
家具も碌にない謁見室で土下座しているのはメイドのエステルであった。ま、鍵を掛けなかった自分にも落ち度があるんだしね。
――ここは犬魔族のケンをモデルハウスから呼び戻してこのエステルをモデルハウスに配置させるのはいかがでしょう
――それはいい、外見的にも人間そっくりだ。耳の部分だけエルフ族だけど
――もう一人のメイドのサーシャはどうだ?
――今のところマジメです。ボケもヘマもしてません。料理の腕もまあまあです
「おほん、お前の処遇が決まった。お前はモデルハウス係とする」
「あ、ありがたき幸せ」
「犬魔族のケンと交代だ」
「はっ」
こうしてエステルは鹿魔族のギンと熊魔族のポポラによってモデルハウスに連れていかれた。
替わりにギン、ポポラと共にモデルハウスからケンが戻って来た。
「ケン、申し訳ないけど風呂掃除とかになっちゃうけどいい?」
「お安い御用です、魔王様!」
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