第五話
暖炉の音がパチッパチッとなる。
――私の名前はシュクラと言います
「そうなんだ。改めてよろしく」
――こちらこそ改めてよろしく。では話を続けましょう。
――私は魔王の副官です。本来はエルフの姿で角を持っています。肉体は二回も滅ぼされましたがこのように魂は残っています。新しい魔王が誕生したら魔王を支えるのが私の使命です。……というか本当は『魔王』じゃないんですけどね。
「え?」
――その仮面、本当は『ザムド』という
「へ?」
――初代ザムドの器となった生贄の男の子が力に
「そんなもん?」
――だって副官である私も殺戮を楽しみ、人間を喰らう事が大好物となってしまいましたから。人間を何十人も喰らう事でより強い魔族「オーガ」に進化しましたが私も力に溺れ肉体を亡ぼしました。
(何気に怖いこと言ってるな)
――それに初代ザムドは周りの村々を略奪、炎で消滅、女を魔王城に連れてハーレムまで作ってましたから。魔王の子孫まで残しました。四天王ともども魔王の子孫らは討ち取られましたけど。
(四天王?)
――初代ザムドは特に村から出来損ないといじめられていました。生贄に選ばれたときは既に人間そのものに対して憎悪を抱いていました。
「ふーん」
――六〇個ある仮面は村で蔵に保管されている事は知ってますよね?
「うん」
――封印されてます。敵の部族に取られないように。それどころか呪いを発動しないよう呪術師だけしか仮面の能力を発揮できないようになってます。
「だよなー」
――二代目ザムドは女の子でした。何をやってもダメな女の子でした。でも初代の話をするとこういったのです。「私は死にたくない」と。だって、魔王になれば、ほかの獣人と違い人間の約五倍の寿命を持てますし。
「そうなの!?」
――人間を喰うことで体内の力を増せば寿命が延びます。
「え? じゃ二代目も結局人間を喰ったの?」
――喰いましたよ。極悪非道な者に限りましたが。我々の力をもってすれば強盗団や山賊など一網打尽です。で人間の血肉の一部を我々「討伐隊」が持ち帰って彼女はこっそり地下室で食べてました。彼女が人間を喰う場面を許されたのは私だけ。そして毒見役も私です。今でもその部屋は残っているはず。こうして交易路は誰もが安全に通れるようになったのです。
(やっぱその辺が「魔王」だな)
――で、人間時代の生活の理想郷を魔族の力で作ったのです。でも四天王を形成したとき、その一人が裏で……略奪や殺戮をしていたのです。バロニアという元は熊の者でした。あげくに魔王の座を乗っ取ろうとしたのです。裏切りでした。そして初代魔王城を復活させたのです。
(凄い)
――二代目魔王は自ら勇者の魂を送り込み、ともに勇者と戦いバロニアを討ちました。バロニアは様々な精霊を食い殺して取り込みもはや熊の面影など消えていました。竜に近いおぞましい姿でした。二代目魔王は「この責任を取りたい」と言って最後は勇者に
「ちょっと待って? なんでそんな危険な仮面なのに作ってるの?」
――いい質問ですね。ザムドは炎の精霊です。この神が居ないとこの大地は永久に凍り付くと言われています。ゆえに人間にとっても獣にとっても絶対になくてはならない神なのです。
「そっかー。で、魔王を討ち取った勇者様はどうなったの?」
――勇者は……。魔王に等しい力を持つ勇者は人間にとって恐るべき力なので……。毒殺されたり討ち取られます
「それって、どういう……」
――勇者なんて言ってますが次の魔王になる可能性の高い存在です。人間にとってはもう勇者とは人間じゃないのです。そもそも魔王本体から分離した力を得てる存在ですからね。
(つまり、勇者と魔王は表裏一体!)
――初代勇者は四人で来ました。最後は仲間ごと毒殺されました。仲間の呪術師二人も、戦士も……。
(一人じゃないんだな)
――二代目勇者は三人で来ました。呪術師、行商人でしたね。最後は人間に討ち取られました。最後二代目勇者らは宿屋で闇討ちされたのです。「魔王は、お前だ」と。
「……」
――ところで、貴方様が魔王の姿になれたときまだそれは標準体の姿です。
「へえ」
――第二形態・第三形態と変えられることが出来ます。めったなことで魔王様が第二形態・第三形態なんて現しませんが。……というか第二形態・第三形態を現わす時はピンチの時です。
「そっかー」
――二代目勇者と一緒に戦ったときの二代目魔王も勇者の仲間である呪術師、行商人と共に戦った時魔王様の第三形態を初めて知ったのです。
「一緒に戦ったの?」
――もちろんです。その時命を落としましたけど。二代目魔王様の第三形態の勇姿を見ることが出来たのは光栄でした。初代魔王様は第二形態までしか見ることが出来ませんでした。私が先に討たれてしまったからです。
「そこまで追い詰められたくない」
――第三形態なんてよっぽど追い詰められた時ですよ。ところで、標準体の姿になられた時、魔王様の力で私は本来の姿に戻ることができます。逆にそれまではまだ精霊も獣も魔族にする力は持てません。よっぽど強い精霊じゃないと現時点では精霊すら見えない状態でしょうから。
(シュクラはやっぱ強いのか。そりゃ副官だもんな)
――魔王様、どうなさいます? 引きこもってもダメです。もちろん得られた力に溺れてもダメです。人間に害をなしたとき魔王様の体から力が出て近隣の十歳程度の子に勇者の力を授けるようにも出来てます。
「人間を豊かにしちゃダメなのかな?」
――え?
「害してもダメ、何もしなくてもダメ。だったら人間に良い事すればいい」
――私はあくまで副官です。魔王様の仰せのままに
「ちなみに二代目魔王の城下町に人間は居たの?」
――居ませんでした。
「ガス管だっけ? 水道管とか。あれを人間に与えることはできる?」
――出来ますが……人間は魔王様を恐怖の対象としてしか見てないので。
「僕は死にたくない! 僕はみじめな姿で死にたくない!」
――お気持ちは分かります。
「やってみなきゃわからないよ。僕だって人間が憎い。だけど僕はそんな死に方したくない」
――仰せのままに。ではまずはこの家からやってみましょう。
「それだ!」
――夜もだいぶ
「そうだね……あ、そうだシュクラは寝ないの?」
――寝ますよ
「寝込みを襲われる心配は?」
――大丈夫です。精霊は人間などよりも敏感です。何かあればすぐに起きられます。
「それ聞いて安心したよ」
「お休み……」
追放されてからはじめてまともな場所で寝るサロ。しかしサロは安心よりも不安だらけであった。
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