5-4

 以前、森の中でアンジェリカたちが倒した禍々しい角を持つ蛇の怪物。

 その名を、ネオルピス。


 その断末魔が場内に響いた。

 軽い地響きをたてて崩れる怪物。


「結構、余裕だったな」


「前より戦力が増えてますからね」


 アルドニスの言葉に、ドミニクさんが頷く。

 特に苦戦せずに怪物を倒すことができた。状況から察するに、蛇の怪物は入り口の門番みたいなものだったらしい。


「おーい、こっちに階段があるぜ」

 ルイーズが叫ぶ。


「行きましょう」


 アンジェリカが歩き出し、その後を追う。



 下を警戒しながら、階段を下っていく。


「…………どうやら、大丈夫みたいですね」


 安全を確認したドミニクさんの言葉に胸を撫でおろす。


「ですが、気は抜かないでくださいね。いつどこで襲ってくるか分からないですから」


 ひとつ階を下りただけなのに、かなり肌寒かった。おまけに、迷宮の中は薄暗く静まり返っている。

 真夏のホラースポットを連想させる。


 不気味な雰囲気が漂っていて、声を荒げたい衝動に駆られる。



「…………おれ、こういうの苦手なんだよなぁ」


 中は狭い通路が奥へと続いているだけだった。

 ドミニクさんが拾った小石を前方に投げながら、安全を確認して先に進んでいく。



 すると、小石が何かに当たり、変な軌道で弾かれた。

 地面ではない硬い音が響く。


「何かいます!」


 ドミニクさんの声が狭い通路に反響する。

 すかさず、剣を握り警戒に入る。


 ズズズっと視界の奥でなにかが動いたような…………。


 黒い物体が地面を這いながらこちらに迫ってきた。


「―――――っ!」


 目の前で火花が弾ける。

 敵の攻撃を、ドミニクさんが弾いたのだ。状況を理解して直ぐに対応に移る。

 ―――――それは、サソリの怪物だった。

 人の腹ぐらいの高さにある顔についている赤い目が不気味で、硬い殻に覆われた真っ黒なサソリの怪物。

 頭の部分には小さなとげが並んでいて、その中のひとつが角のように突き出している。


「スカーピオ!?」


 ルイーズがその怪物を見て声を荒げた。


「そいつは尻尾に毒を持ってる! 気を付けろ!」


 突如、大きなハサミが振り下ろされる。ドミニクさんは冷静にその一撃を避ける。獲物を逃がしたハサミはそのまま床に衝突する。

 床が割れ、小さなクレーターが出来上がる。


 パワーもあると見た。


 サソリの怪物は八本の足で床の上を移動してくる。背中側に仰け反った尻尾には毒があるという。


「こいつの尻尾は伸びるから!」


 ルイーズの注意が響いた瞬間、サソリの尻尾がなんの前触れもなく、俺目掛けて射出された。

 否。射出したかのように錯覚するほどのスピードで尻尾が伸びたのだ。


「―――――ぐっ!」


 ギリギリで尻尾の先端を躱して、体勢を立て直す。


「大丈夫!?」

「あぁ、大丈夫だ」


 キィィィィィ!!


 声を荒げ、サソリが飛び掛かって来る。

 それに合わせ、ローズさんがメイスを振り上げた。

 ガンっという鈍い音が響き、サソリは大きく仰け反った。


 更に、再びサソリの頭部を不自然な衝撃が襲った。

 サソリの頭部の殻が割れ、辺りに飛散する。



 ―――――!?


 俺が驚いている隙に、サソリにとどめが刺される。

 アンジェリカの飛ぶ剣による斬撃と、ドミニクさん、アルドニスの連続攻撃でサソリは断末魔を上げてその場に倒れた。


「尻尾に刺された人はいないですね?」

 ドミニクさんの確認が行われる。


「ま、楽勝だな」

 アルドニスはそう言っているが、俺としてはかなり危なかった。

 避けるのが遅れていたら毒を喰らっていた。


 戦闘が終わった今もまだ心臓がうるさく鼓動を刻んでいる。



「…………それより、今のは?」


「ん?」


「今、サソリの頭に不自然な衝撃があっただろ?」


「ああ、あれはローズの能力よ」


 俺の質問に答えたのはアンジェリカだった。


「ローズさんの?」


「あら、言ってなかったかしら。私の能力は二重衝撃。私が衝撃を与えた個所に二重の衝撃を与えられるの」


 ローズさんはニコニコしながら、メイスに着いたサソリの血を拭っている。


 二重衝撃。

 シンプルだけど強力な能力だと個人的には思う。


「なるほど。結構強力な能力だな」


 使い勝手もいいだろう。敵に衝撃を喰らわせ、更に衝撃を与える。攻撃しながら相手をひるませれる強力な一手となるだろう。


「ところで、今のサソリの怪物の毒はどんな毒なんだ?」


 俺の質問に答えたのはルイーズだった。


「傷を悪化させる毒だな。だから、スカーピオの毒は傷を受ければ受けるほど、きついものになるぜ」


「つまり、毒を喰らっても傷さえ負わなければなんともないってことか?」


「まあ、そういうことになるが、そもそも毒を喰らう時点で傷を負う。更に他の傷を負っていたり、新しく傷を負うとその傷が悪化して最悪死に至る」


 傷に作用する毒ってことか。

 かなり、エグそうだな。

 光景を想像して、吐き気が出てくる。痛々しいのは嫌だ。



「お、瓶があるじゃんか!」


 アルドニスが声を上げて通路を進んでいく。彼の視線の先には大きな瓶が置かれていた。

 …………瓶というよりは水瓶だ。


 水を貯蔵しておく用の大きな瓶にアルドニスが近付いていく。


「なんだ、水入ってねえじゃんか」

 アルドニスが呟く。


「中になんか入ってるかな?」

 そう言って、中を覗き込もうとするアルドニス。


「待ってください!」

 そこに、ドミニクさんから静止の声が掛けられる。

 だが、時は既に遅く…………。



 空の水瓶の底から何かが急に飛び出してきた。


「―――――っ!!」


 アルドニスは咄嗟に身体を逸らしてそれを避けるが、避けきれず飛び出してきたものに左頬を食いちぎられていた。


「アルドニス!!」


「―――――うらぁ!」


 槍を乱暴に振るって後ろに飛び退くアルドニス。

 だが、それを追うようにして水瓶の中から複数の何かが更に飛び出してくる。



 急な展開に、心臓が鼓動を上げる。

 緩んでいた空気が一気に張り詰める。


 水瓶の中から飛び出してきたのは小さな触手だった。だが、その先端は大きく裂けていて、鋭い牙と頭部に小さな角を持っている。


 つまり、あの水瓶は怪物という事だ。

 油断していた。ここは怪物のヴァーテクスの神殿。迷宮だ。

 怪物たちの住処で、獲物を狩る為の狩場だ。


 この迷宮内に人間の領域は存在せず、入ったら最後、殺すか殺されるかの二択でしかないのだ。

 この迷宮内での油断は死に直結する。



「来ます!」


 ドミニクさんの短い呼びかけ。

 それに呼応するように、小さな触手たちはアルドニスを通り過ぎ、後ろにいる俺たちにその牙を伸ばしてきたのだ。



 必死に剣を振るうも、雨の如く迫る触手を全て斬り落とすことは適わない。

 1本目、2本目を斬り落とすのが限界だった。


 3本目、4本目、5本目の触手が皮を裂き、肉を食いちぎっていく。


「ぐっ…………がっ!」


 息がもれる。痛い、痛い。痛い。

 右腕と腹の左側、左脚に攻撃を喰らった。


「―――――くっ!」


 その横で、小さな苦悶の声が響いた。

 アンジェリカのものだ。


 彼女も俺と同じように、怪物の攻撃を喰らっている。



 ローズさんは盾で攻撃を凌ぎ、ルイーズはバルバードを盾として使いながら攻撃を凌いでいる。

 その奥で、ドミニクさんは迫りくる全ての触手を斬り落としていた。


 ―――――!


 遅れて、俺の肉を食いちぎった3本の触手をまとめて斬り落とす。


「アンジェリカ!」


 直ぐにアンジェリカの元へと駆け寄る。


「大丈夫。掠り傷よ」

 アンジェリカの両腕と左脚には攻撃を喰らった跡が残っていた。

 赤い血が流れだし、地面へと垂れ落ちている。


 そこへ、再度触手が迫る。

 鋭い牙を持った触手が餌に群れる魚のように、食欲を剥き出しにする。


「よそ見、厳禁です!」


 それを、全て斬り落とすドミニクさん。

 俺とアンジェリカを庇うようにして立ちながら、複数の触手の頭を斬り落とした。

 そして、その勢いのまま地面を蹴り、触手の発生源へと迫る。


 放たれる牙の悉くを斬り殺し、水瓶へとその刃が届く。

 その圧巻過ぎる剣さばきに息を呑んだ。


 水瓶ごと中に隠れている触手の根元を断ち切る。

 綺麗に割れた水瓶からピンクのブヨブヨした丸いものが真っ二つになって地面に転がった。

 触手たちも勢いをなくし、枯れた植物のようにしおれていく。




 肩で呼吸を繰り返しながら、冷静な声で皆の身を案じる。


「大丈夫ですか?」


「私は問題ないわ」

「俺も」とアンジェリカに続いて口にする。

 血は出ているし、痛みもあるが我慢できない程ではない。傷は薄い方だ。



 ローズさんとルイーズも同じような状態だった。

 流石に、全ての攻撃を凌ぐことは不可能だったようで、俺たちよりも傷は目立たないが、血を流している。

 ドミニクさんは無傷だ。



 問題はアルドニスだった。

 最前線で奴の攻撃を受けていた。


 アルドニスは地面に膝を着き、疲弊した様子で、「大丈夫だ」と口にした。


 顔、腕、腹、脚と全身に傷を負っている。

 20を超える傷の大小は様々で、掠り傷のようなものから、一部骨が露出している部分もみられる。


「早く手当てを!」


 大人しく、ローズさんの手当てを受けるアルドニス。

 その背中にはいつもの覇気が感じられなかった。


「さっきのは不注意でした。この先は更に慎重に進みましょう」


 …………不注意で命を落とすことはあってはならない。

 ここは迷宮。いつどこで怪物に襲われるか分からない場所。

 故に、気を抜くなんてあってはならない。



 さっきのは水瓶のふりをして人間を喰らう怪物だった。


 罠型の怪物だ。

 この手の迷宮やダンジョンのような作品にもよく見られる典型的なモンスターに一種だ。

 宝箱だと思って近付いたら実はモンスターでした、みたいな…………。



 無事に手当てが終わると、アルドニスは立ち上がった。


「すまねぇ」


「…………気にするな。さっきの怪物の事は誰も知らなかったんだろ?」


「そうですね。初めて見る怪物でした」

「あぁ、外じゃ1回も見たことねぇ」

「私も初めて知ったわ」

「聞いたこともないわねぇ」


 全員が同じことを口にする。

 ならば、遅かれ早かれこの状況に陥っていたという事だ。


「これから気張っていこうぜ」


「ああ。そうだな」


 それまで元気がなかったアルドニスの瞳に熱が戻った。そんな気がした。






 その後、俺たちは慎重に進み、地下2階への階段を見つける。


 地下2階でも数回の戦闘を勝ち抜き、地下3階へと降りることに成功した。




「なんとか、3階まで来れたな」


「そう言えば、テラシアは何階にいるんだ?」


「私が聞いた話だと、地下10階にいるらしいわ」


 10階か。先は長いな。

 地下に居ると、外の状況が分からないので、今が何時くらいなのか分からない。

 気を削るような命のやり取りが常に行われ、時間の感覚なんてないようなものだ。

 そんなものに気を使っている暇などありはしないのだから。



「この辺で休息を取りましょう。先ずは私が見張りをしますので」


 ドミニクさんの言葉に従う。

 ドミニクさんを残し、俺たちは狭い通路の壁沿いに腰を下ろして休みを取る。

 皮の袋に入った飲み水を喉に流していく。


 冷たい水が気持ちがいい。

 砂や埃に塗れた場所で戦っているので、水が恋しくてたまらない。


「アルドニス、傷の具合はどう?」


「大丈夫です。気遣い、ありがとうございます」



 その時だった。


 ―――――ヴオォォォォォォォ!!




 通路の先から、獣の雄叫びが反響してきた。


「―――――ち、近い」


「直ぐに警戒態勢を!」

 ドミニクさんの指示に、気を張り詰めなおし、武器を手に立ち上がる。




 ―――――ヴオォォォォォォォ!!



 それはさっきより大きな音となって、迷宮内を揺らしていた。



 通路の先に得体の知れない怪物がいる。

 全身の鳥肌が逆立ち、そこに知れない恐怖に背筋が凍る思いをする。

 気が付けば呼吸が乱れている。

 汗が止まらず、震えて指先に力が入らない。



 何故だ。

 何故、こんなにも怖いと感じるのだ。


 敵はいまだその姿を現さない。


 それなのに、恐怖で身体が動かない。



 ジリッと、自然に足が後ろに下がった。

 その時、通路の先で再び獣が吠えた。


 ―――――ヴオォォォォォォォ!!



 その発生源はすぐそこだった。

 暗闇の中からその獣がついに姿を現した。


 赤黒い毛に全身を覆われた牛の頭を持つ人型の怪物。

 3メートルに達するその巨躯はまさに壁という表現が適していた。


 剥き出しの筋肉に、巨大な戦斧を持ち、その獣は俺たち人間を見下ろしていた。

 ミノタウロス。それがその獣の名前だった。


 ―――――ぐっ!


 その姿を見た瞬間、本能が察した。

 この獣には勝てないと。


 だから、逃げろ! と脳が信号を出していたのだ。

 故に、戦意を失くしたこの身体が、その信号に従おうと動き出した瞬間、奴の膝が曲がった。


「オオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」


 まるでバネのような跳躍だった。

 その突進に、ドミニクさんを含め全員が巻き込まれ、吹き飛ばされる。

 たった一瞬の出来事だった。

 視界の奥で、みんなが血を吐き地面に倒れている。


 ミノタウロスの戦斧が振り上げられる。

 ――――――!!!


 戦斧と俺の間に入り込む人影があった。


 ドミニクさんは、剣の腹でその一撃を受けー――――。


 視界が火花に包まれる。

 赤い閃光と衝撃がこの身を襲う。

 ミノタウロスが振り上げた戦斧に、ドミニクさんの身体は耐えきれない。

 気が付けば、吹き飛ばされるドミニクさんに押され、脚が地面から離れていた。



「が…………っ!」



 迷宮の床で腕の皮が擦れて血が滲み出る。

 腕の皮が大根おろしのように摺り下ろされる。


 電気が走るように熱が伝播する。


「ぁ、あああああああっ!」


「…………ぅ!」

 痛みに叫びを我慢できない。その横で、剣を軸にしてドミニクさんが身体を起こしていた。


「す、ぐに…………立ち上が、って」


 ヴヴオオオオオオオ!


 その蹄は床を踏み砕き、巨体が迫る。

 ドミニクさんに投げ飛ばされ、牛の猛突の

 軌道から外れる。

 また地面を転がり、まるでボールのようだ。今度は直ぐに立ち上がった。


 顔を上げれば、ドミニクさんがひとり、牛の怪物と対峙していた。


 それに続くように、アンジェリカが剣を浮かせてミノタウロスに迫ろうとしているのが見えた。


 …………勝てる勝てないじゃない。


 俺は自分の罪を思い出した。

 ここで逃げれば、俺は成長できない。

 あの時のままだ。


 本能を思考が凌駕する。

 逃げたい、という欲を噛み殺し、剣を握り締める。


 震えはない。

 ただ、腕に痛みと痺れを感じるだけ。

 恐怖はある。

 ただ、それを押し返すほどの勇気が、この身にはあっただけだ。


 地面を蹴り、ミノタウロスと戦う2人に続く。


 あの戦斧は重すぎる。

 正面から喰らえば即死だ。


 だから、迷宮の壁沿い…………幅を使って側面から攻撃に入る。


 足が竦む。それでも身体を駆動させた。

 勇気を燃料にして、腕を振るう。


 ミノタウロスの、割れた腹筋に刃を叩きこむ。


 オオオオオオオオオオオオオオオ!!


 その雄叫びは直接脳を揺さぶるかのようだった。



 ヒットアンドアウェイ。

 攻撃と撤退を繰り返し、狂牛にダメージを与えていく。


 その動きをサポートするように剣が飛来する。

 アンジェリカの操る剣が追撃をし、ミノタウロスの注意を引き付け、俺たちが攻撃しやすい状況をつくってくれる。


 ダメージから回復した他の3人も随時攻撃に参加する。

 ローズさんの二重衝撃に、ミノタウロスは体勢を崩す。



「おらっ!」


 アルドニスも必死に槍を振るい、ルイーズも槍斧を振るって、ミノタウロスの顎を打ち砕いた。



 勝てる。

 このメンバーなら勝てるぞ。


 勝機を確信した瞬間だった。


 ヴヴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!



 それは今までで一番大きな咆哮だった。


 こちらの動きが怯んだ一瞬の隙を、奴は逃がさない。


 ―――――!??



 ミノタウロスはまるで駄々をこねる幼い子供のように、戦斧を振り回した。

 その攻撃に、一時撤退をして距離を取る。

 それぞれがミノタウロスを囲うようにして。


 だが、ミノタウロスは俺たちを追って来ることなく、その場で斧を振り回す。

 たしかに、これでは近付けない。

 だが、奴の攻撃が俺たちに当たることもない。


 無意味とも思われるそれは永遠に続く。だが、変化は直ぐに訪れた。

 迷宮の壁に亀裂が走ったのだ。



「―――――こいつ!」


 だが、俺たちが気付いた時には既に遅い。


 亀裂は止まることなく壁、床、天井に広がっていく。


「―――――っ!」


 アンジェリカの元へと走ろうとした瞬間だった。

 ミノタウロスの暴行に耐久を失った床が崩れ始める。



 しまっー――――!


 崩落に巻き込まれ、体を浮遊感が襲った。



 ヴヴオオオオオオオ!


 ミノタウロスの咆哮が再び響く。

 大きな角が目立つ牛の顔。その口が歪んで見えた。









 ミノタウロスが暴れた振動はどうやら下の階にも響いていたようだ。

 …………というより、俺たちのいた場所は階を越えて縦に連鎖的に崩落を起こしていく。


 長い、長い浮遊感の末、落ちてきた瓦礫で頭を打った。


 気が遠くなっていく…………。
















 ♦♦♦




「…………ぅ」


 砂が顔にかかり、その不快感から目を覚ます。


 頭が重い。どうにか身体を起こす。

 奇跡的に、体が瓦礫に潰されることはなかったみたいだ。




 我ながら運がいい。

 だが…………。



 辺りを見渡す。


 誰もいない。

 人影も物音も辺りにはなかった。



「…………マジかよ」



 本音が零れる。


 迷宮の中で、俺は一人ぼっちになったのである。



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