第3話 かつての部下セーヤの変貌

「この星での活動拠点である宿へ、ご案内いたします」

と、かつての部下セーヤはヘルメスに言った。

 その声は以前と比べると少し大人びていたが、相変わらず少女のような、子どものような、愛らしい声であった。


 肩を並べて一緒に歩くと、セーヤの背が以前よりもかなり伸び、高くなっていることにヘルメスは気づいた。一緒に仕事をしていた頃のセーヤは、まだ子どもと言って良いほどの幼さが残っていたのだが、今のセーヤは全く違っていた。


 もともと美しい少年だったのだが、いっそう美しくなり、その美しさは少し危うさを感じるほどの美しさだった。ヘルメスは昔のセーヤを知っていたので、変な邪念に心を奪われ、激情に駆られることはなかったのだが、大多数のものはその美しさに出会った時、戦慄的な激情が心に走り、魂の奧深くに閉じ込めていた、悪魔の声にも似た欲望を目覚めさせてしまうのが常だった。グランドマスターとて、例外ではなかった。


 セーヤと肩を並べて夜道を歩きながら、

『最後にセーヤに会ったのは、いつだっただろう?』

とヘルメスは心の中でひとりつぶやいていた。

『今の部署へ異動する前だから、かれこれ300年前だろうか・・・』


 セーヤは辺境の星の出身で、それも多くの場合、不吉な子と言われる特別変異体だった。


「すっかりもう大人だな」とヘルメスは、笑いながらセーヤに言った。

 その言葉に、嬉しそうにセーヤは微笑みを返した。

 その微笑はやはり美しかった。


 しかし、ヘルメスは美し過ぎるセーヤの微笑みに一抹の不安を感じていた。

普通は大人になるということは、良いことなのだが、ミュータントの場合、

それは色々な意味で、困難が待ち受ける茨の道が始まるということだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る