56. 街の骨格作り
街を造る許可は下りた。
次は街を造るための土台、街壁や建物を作る作業だ。
こっちはヘファイストスができそうなんだけどどうだろう?
あたしは水龍に会った翌日、あらためてヘファイストスのところに向かった。
『ふむ。街作りか……』
「難しい?」
『いや、難しくはない。ただ』
「ただ?」
『私に任せると補給基地のようになるぞ?』
ああ、そうだった。
ヘファイストスってそういった美的センスが皆無だった。
後方支援用マナトレーシングフレームにそういうものを求めるのもなんだけど、そういった方面でも手助けしてもらいたいな。
さて、どうしたものか……。
『とりあえず壁や建物は建てられる。そのデザインだけ誰かに任せればいい』
「デザインだけねぇ。わかった、フェデラーに相談してみる」
結局はフェデラー頼みか。
なにかいい解決策を持っているといいんだけど。
あたしは屋敷に戻ると、執務室にいたフェデラーに街のことを相談してみた。
すると意外な答えが返ってきたのだ。
「完全に新規造成の街ですか。建物も好きなように建てられるのでしょうか?」
「それはなにもない更地から始めるからね。フェデラー、あてがあるの?」
「はい。私の知り合いの建築家がそういった街の造成を専門にしております。彼に任せるのがよろしいかと」
ふうん、街作り専門の建築家ねぇ。
会うだけ会ってみましょうか
「わかった。フェデラー、その人と会えるように取り計らって」
「かしこまりました。華都に行くため、お嬢様とヘファイストスにもご協力いただかねばなりませんが構いませんか?」
「華都に行くんじゃ仕方がないわね。すぐに支度を済ませてくるわ」
「よろしくお願いいたします」
たらい回しにされているような気がするけど、お願いは街のデザインだ。
そんな大仕事を引き受けてくれるような相手、そうそう見つかるはずもない。
あたしはそう考えていたんだけど、次に会う人で簡単に決まってしまった。
「お、フェデラーではありませんか! 吾輩の作品を見に来たのですか?」
「違います。こちらのアウラお嬢様があなたにお願いごとがあると」
「アウラお嬢様? ひょっとして、ミラーシア湖のアウラ伯爵でしょうかな?」
「そうよ。あなたは?」
「申し遅れました。私、建築師兼アーティストのクロウラーと申します。気軽にクロとお呼びください。以後、よしなに」
クロウラーさん、略してクロさんはちょっと変わった人みたい。
長年ルインハンターをしていたあたしにしてみればかわいいものだけど。
「クロさんね。私はあなたに建築師としての仕事を持ってきたの。仕事の内容は、新しい街を設計してほしいの」
「はて、新しい街? それはどの程度の段階から設計すればよろしいのですかな?」
「まっさらなところから始めて。ほしいのは農業都市としての機能と観光都市としての機能よ」
「観光都市。それは都市そのものに観光名所を作るのですかな?」
「ううん。ミラーシア湖の一部を観光用に開放するからそこを訪れる人の宿としたいわね。街自体に観光要素があればなお嬉しいんだけど」
街自体に観光要素があればなお嬉しい。
あたしがそう言ったとき、クロさんの目が光った気がする。
「ええ、それではこの依頼是非とも達成してみせましょう! なに、真新しい街を作れる機会などありませんでした! お望み通りの素晴らしい街を作りあげてみせますよ!」
クロさんの中にあるなにかのスイッチが入ってしまったらしい。
急にいきいきとした勢いで語り出したクロさんはフェデラーと条件面での折衝に入ってしまった。
本当に大丈夫かなぁ?
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