46. おとりにされた少女たちの処遇
ひとまずごろごろと転がっていたオークの死体を収納してから体を縮こまらせている少女たちの方に歩いて行く。
そうすると彼女たちの体がビクッと震えて……ちょっと驚かせちゃったかな?
見た感じまだ成人していない12歳から13歳くらいに見えるけど、どうなんだろう?
「大丈夫。あたしたちはあなた方を助けにきたの」
「本当……ですか?」
「本当よ。冒険者ギルドから派遣されてきたんだもの。ねえ」
「はい。これが冒険者ギルドのエンブレムです。ご確認を」
監視員は冒険者ギルドのエンブレムを3人に見せるが、3人の反応は悪い。
ひょっとして冒険者ギルドのエンブレムをみたことがない?
「とりあえずあなたに危害を加えるつもりがないことはわかってくれた?」
「は、はい。エンブレムはわかりませんでしたが、きちんとした身分をお持ちの方々だということはわかりました」
「そう。じゃあまずあなた方の着替えね。あと、足も怪我しているみたいだけど、その傷はどうしたの? 剣での切り傷に見えるけど、オークにでもやられた?」
あたしは自分で問いかけながらあり得ないと感じている。
オークの剣はもっと肉厚で切れ味が悪い。
彼女たちの細い足では、肉を切る前に骨を折るだろう。
「あ、いえ、これは……」
「言いにくいこと?」
「……ご主人様が私たちをおとりにするためにつけた傷です。走って逃げられないよう、足を切りつけていきました」
ご主人様?
どういうこと?
そこまで聞いたとき、ギルドの監視員が話に割り込んできた。
一体どうしたんだろう。
「失礼。ご主人様というのは商人様のことでよろしいでしょうか?」
「はい。表向きは商人をしております」
「表向き……裏ではなにを?」
「その……私たちのような若い娘を借金奴隷として買い集め売り歩いています」
なんですって!?
そんなことできるの!?
「ふむ、あの商人様。裏でそんなことを」
「そんなことをって! それって許されるの!?」
「アウラ様、落ち着いて。正規の奴隷商人であれば奴隷の売買は許されます。ですが、借金奴隷は身を立てていくことができなくなった人間が自分たちを売り払うことでのみなるもの、彼女たちのように売り集められた借金奴隷は違法となります」
「それじゃあ!」
「ですが、彼女たちが本当のことを言っている保証もありません。残念ながら、私たちではあの商人を捕縛できない」
そんな、ここまでひどいことをしておきながらなにもできないの!
でも、ギルドの監視員の目は冷たく光っていた。
なにか策があるんだろうか。
「ともかく状況は把握いたしました。アウラ様はその少女たちをケアしながら戻ってきてください。マナトレーシングフレームがあれば万が一打ち漏らしのオークがいても問題ないでしょう」
「そうだけど、あなたは?」
「一足先に戻らせていただきます。若い少女の肌をいつまでも見続けるのは紳士的行為ではありませんから。……ああそうそう、申し訳ありませんが治療魔法をかけるのはお待ちください。全身の傷も大切な証拠になります」
「……悔しいけどわかった。でも、この子たちはそんな商人の元には返さないからね」
「かしこまりました。それではアウラ様が入手できる段取りで進みましょう」
え、あたしが引受人になるの?
冒険者ギルドじゃなく?
「ともかく、私は魔導車に戻りあちらのおふたりと情報共有、並びにギルドに出す報告書を作成いたします。では、これにて」
「あ、うん」
言いたいことだけ言って、監視員は森の中へと消えていった。
ギルドの監視員だし、あたしが守る必要もないか。
それよりもまずはこの3人のケアだね。
「3人とも聞いての通り怪我は治してあげられないの。街に戻るまで辛抱してちょうだい」
「はい、痛いですけど我慢します」
「いい子ね。とりあえず全身の泥を落としましょうか。水魔法で水を振らせるからそれで泥を落としてしまって。タオルも用意しておくし、着替えの服も用意する。多分、怪我の具合とかも調べられるだろうから肩出しのワンピースになっちゃうけど、しばらくは我慢してね」
「いえ、私たちにこれだけの厚遇をしていただけるだけでも感謝しております」
「そう? ともかく泥を落としましょう」
あたしは水魔法で水を振らせて3人の体に塗りたくられていた泥を洗い流す。
全身に塗りたくられていただけあって、泥を塗りつけられたことによる擦過傷もひどい。
きっと水浴びするだけでも痛いんだろうなぁ。
でも、3人は泣き言一つ言わずに泥を流し終えてあたしからタオルを受け取ると全身の水気を拭き取った。
そして、あたしから下着と靴、ワンピースを受け取りそれを身につけたよ。
これできちんとした女の子になったね。
「さて、それじゃあ、あたしたちはヘファイストスで帰りましょう」
「ヘファイストス? ってなんですか?」
「あたしの相棒よ。でてきてもいいわよ」
あたしの声を受け、ヘファイストスが姿を現した。
あたしたちの北側にずっと陣取っていたのよね。
『その者たちの手当はもうよいのか、アウラ』
「これ以上は街に戻ってからじゃないとできないの。フェデラーたちと合流したら街まで一緒に行くよ」
『一種の示威行為になるが?』
「多分許してもらえるよ。とりあえずこの子たちを手の上に乗せてあげて。あたしはコクピットに乗る。それで、このコロニーは爆破しておしまい。いいわね?」
『心得た。お嬢さん方、少し窮屈かもしれないが我の手の上に乗ってくれ』
「は、はい。潰されません、よね?」
『そんな失態を犯すことはない。安心せよ』
「も、申し訳ありません! では、失礼して……」
3人娘がヘファイストスの手に乗ったことを確認してあたしもコクピットに乗る。
そして宙に浮かび上がったら爆破の魔法で派手にコロニー一帯を破壊してお仕事完了だ。
フェデラーたちと合流したあとは今後の流れについて打ち合わせを行った。
やっぱりあの商人の所業は冒険者ギルドとしても許せるものではないらしい。
おとりに使えばすにでも殺されると考えていたようだけど甘かったようだね。
さて、それじゃ、悪徳商人に鉄槌を下してやりますか!
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