36. アウラ邸の物集め

 女王陛下の内覧も無事に終わり、家具の製作も完了した。

 ベッドは木枠だけを作ってもらい、その上に敷くマットやシーツ、毛布などはヘファイストスに作ってもらったよ。

 あたしの家でも使っているけど、ヘファイストスのベッドってスプリングを使ってマットを作っているらしいの。

 それで体重を受け止めているらしいんだけど、体が全然痛くならないから不思議。

 とにかく、寝具はヘファイストスが作ってくれたものが性能はいいのでそちらを使うことにした。

 あとは、ここで働いてくれる人を連れてきて食材とかも揃えれば準備完了かな。


 ベッドの準備まで終えてお風呂に入ってから華都に戻ってくると、早速女王陛下から呼び出しを受けた。

 一体なんの用だろう?

 呼び出し先は女王陛下の執務室らしいし大事な用件っぽい。

 あたしは執務室に到着し、入室の許可を取ってドアを開けるとそこには男女ひとりずつの人物と女王陛下がいた。

 この人たち誰?


「来ましたね、アウラ」


「はい。その方々は?」


「まあ、急がないで。このふたりはあなたのところで働く使用人のとりまとめをする者たちよ。ふたりとも、挨拶を」


「はい。初めまして、アウラ様。家宰となります、フェデラーです。以後、よろしくお願いいたします」


「初めまして、アウラ様。私はメイド長となるクスイです。どうかお見知りおきを」


「あ、はい。アウラです。これからよろしくお願いします」


 フェデラーさんはエルフ族の男性、クスイさんは妖精族の女性。

 どちらも長命種だから見た目で年齢の判断がつかないけれど、人間換算で20代後半に見える。

 でも、エルフや妖精族でこの年齢っていうことは結構な年数を生きているよね。

 女王陛下、本気であたしのところにいい人材を送り込んでくれたんだなぁ。


「さて、ふたりの紹介は終わりましたね。次、あなたに渡すものがあります。これを」


「これは……あたしの左手にあるエンブレム?」


「ええ、そうです。それを模したものを紋章官に言って登録させました。あなたはマナストリア聖華国の貴族となります。正式には名誉貴族のため権利も義務もありませんが、立場上は伯爵相当になります。今後はそれに見合った行動をしてください。まあ、私たち王族との関係はプライベートではなにも変わらなくて結構ですよ」


 え、伯爵様……。

 それって上位貴族!?

 こんな簡単になれてもいいの!?


「ちなみに伯爵位はそんな簡単に手に入るものではありません。いままで提供してくれたものの大きさと今後の関係性を鑑みての措置です。領地も伯爵領として相応しいだけの面積を誇っていますからね」


 面積は広いですが、人が住める土地はほとんどありません……。

 喉まで出かかった声をかみ殺し、次の言葉を待つ。


「名誉貴族の伯爵には年給も出ません。出ませんが、最初に屋敷を準備するに当たっての資金は出しましょう。これをお持ちなさい」


 女王陛下から差し出されたのは白金貨20枚。

 貴族のお屋敷の準備ってこんなにお金がかかるの!?


「屋敷に必要なものはフェデラーとクスイに頼めばすべてわかります。今日からふたりを連れて買い物をして回りなさい。私からは以上です。なにか質問はありますか?」


「ええと、貴族位はあたしが望んだらもらえるものじゃなかったのでしょうか?」


「そのこと。ちょっと事情が変わってしまってね。あれだけの土地にそれに見合った規模の防衛隊をつけるとなると貴族位を与えなくちゃってなったの」


 うーん、想像以上に大事になっていた。

 あたし、貴族にはなりたくなかったんだけどなぁ。


「とにかく、あなたはミラーシア湖を治める貴族ね。ほかに質問は?」


「いえ。ありません」


「では、早く買い物にいってらっしゃい。季節的に貴族の代替わりはまだ早いけれど、よい品に目をつけ始める頃だから」


 え、貴族って代替わりするたびそんなに品物を買いあさるの?

 そんなことをしていたらお金が足りなくなるじゃない。

 それが貴族の普通なの?

 ともかく、支度金ももらったし準備しないわけにもいかないよね。

 ふたりと一緒に出かけよう。


「はい。行きましょう、フェデラーさん、クスイさん」


「私のことはフェデラーと呼び捨てに。他の者に示しがつきません」


「私のこともクスイとだけ」


「ええと、わかりました。フェデラー、クスイ、行こう」


「はい」


「承知いたしました」


 うーん、年上相手に呼び捨てって調子が狂う。

 ともかく、フェデラーさんの運転する魔導車で街に繰り出し、調度品を取り扱っているお店へとやってきた。

 初めはうさんくさい目で見られていたけど、女王陛下からもらったエンブレムを見せると態度が一変して奥まで案内してくれたよ。

 登録したばかりだって聞いたけど、そんなに効果があるものなのかな?


 そして案内されたフロアには調度品が所狭しと並んでいたんだけど……ダメだ、さっぱりわからない。

 フェデラーとクスイからは屋敷がどのような雰囲気なのか聞かれてそれに答えるけれど、それでもうまくイメージが伝わらないらしく、いくつかの調度品に手付金を支払って予約しておき、実際にあたしの屋敷を見てから買うことに決めたみたい。


 次に向かったのはガラス細工のお店だったけれど、今度はあたしの方がいまいちぱっとしないと感じてお店を出てしまった。

 車に戻ってから、あたしが鍛冶魔法を使ってクリスタルの置物を作ってみせると、ふたりともこちらの方がいいということになったのでガラスの置物はなし。

 必要なものはあたしが全部作ることになった。

 クリスタル素材もかなり余ってるからいい感じに消費できるかな?


「さて、最後なのですが……人を説得していただきたく」


「人を説得?」


 目的地に向かう途中、フェデラーが変なことを言いだした。

 人を説得ってどういう意味だろう?

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