33. アウラ邸、候補地選定

 湖の守護者である水龍とも話がついたので、翌日からいよいよあたしの屋敷となる土地の選定作業に入った。

 入ったんだけど……これがなかなか決まらない。

 湖の側でロケーションがいいところは大体王家の別荘が建っているし、そもそもあたしが湖の側に別荘を建てる理由もない。


 そうなってくると、今度は湖から少し離れた平野部なんだけど、こっちもまたいい場所がない。

 なんて言うか、立地的に湖の側よりも悪い気がするんだ。

 面積も狭いし、特になにかあるわけでもないし。


 となると残りは……山か。


「ねえ、水龍。山って住んでもいいの?」


『山か。構わないがあまり遠くの山々は私の管轄外になる。そうなるとモンスター退治なども請け負ってもらわねばならぬから気を付けよ』


「はーい」


 とりあえず、山を切り開いてもよし。

 ただ、遠すぎる場所は水龍の管理範囲外。

 管理範囲外では全部あたしがする必要がある、と。

 近場の山で済ませるしかないね。


 そう考えて山々を回ってみたんだけど……いい場所がない!

 そもそも平らな場所がなかったり、山頂付近は平らでも面積が狭かったり、そこまでが急だったりとあたしが住む分には困らないけど使用人は絶対困る場所ばかり。

 どこかいい場所ないかなぁ。


「アウラ様、お困りのようですね」


「あ、エリス。かなり困ってる。家を建てる場所がない」


「それは困りますよね。それに使用人が暮らすとなると、食料の買い出しなどの問題もあります。王家の別荘は配達に来てもらえているので困りませんが、アウラ様はお困りになるでしょう」


「あ……そこも考えなくちゃいけないのか」


 食料の買い出しとか考えていなかったよ。

 そうなると人が住んでいる街が近くになくちゃダメだよね。

 どこがいいのかな?


「ねえ、エリス。この湖から近い街ってどこ?」


「近い街は全部で6カ所あります。南部に1カ所、西部に2カ所、南東部に1カ所、北東部に1カ所、北部に1カ所です」


「一番近いのは?」


「南部か北部ですね。ただ、南部は川を越えねばなりません。一応、橋はありますが大雨などで増水した場合も考えると北部の街を頼るといいでしょう。北部の街は農業都市なので農作物もたくさん手に入ります。逆に金属製の道具が高いですが……アウラ様ならどうにでもなりますよね?」


「アイアンゴーレムの残りがあるからどうにでもなるね。なくなったらその辺の野良にいるアイアンゴーレムを探しに行けばいいんだし」


「そうなります。華都から遠くなってしまうのは欠点ですが、湖北部に焦点を絞って候補地を探すとよいでしょう」


「わかった。ありがとうね」


「いえ。お役に立てたのでしたら幸いです」


 湖北部か、なにかいい山があるといいな。


 そして迎えた翌日、エリスの勧めに従い湖北部の山々に狙いを定めていろいろと探してみた。

 でも……。


「あんまりいい土地がないね」


『仕方があるまい。あくまでも水龍は湖の管理が仕事であり、山々の管理は手をつけていなかったはずだ』


「だよね。でも、いい感じの山がないかな。日当たりがよくって適度に広くて湖が一望できる、そんな山」


『そううまく見つかるはずもない。さあ、次の山を調べるぞ』


「はーい。ヘファイストスのレーダーでも景観まではわからないからね……」


『木々を切り倒したときどうなるかも考えねばならないからな……』


 結局、その日はいい山を見つけることができずに終了。

 翌日は北西部にある山を中心に探索するもダメ。

 その翌日は北東方面も当たったけどいい山はなし。

 そして今日、北部中央付近の山を見て回ることにしたけど、いい場所があるかどうか。


「見晴らしのいい山あるかなー」


『さあ? 行ってみないとな』


「だよね。とりあえずあの山から行ってみよう」


 そうして山々を巡るもいい場所はなし。

 このまま屋敷の場所が決まらなかったらどうしよう?

 場所を探しつつ携帯食料で昼食を済ませ、日が傾き始めた頃、眼下にいい感じの崖が見えてきた。


「ヘファイストス! あそこ! あの崖に降りて!」


『あの崖か。確かに眺めはよさそうだな』


「早く、早く!」


『わかった。急かすな』


 ヘファイストスに降り立ってもらったその崖は、夕日に照らされる湖が見渡せる最高のロケーションだった。

 だったのだけど、問題がひとつ。

 ここ、崖なんだよね。

 それもかなり切り立った。


「うーん、立地的には捨てがたいんだけど……崖が」


『広さ的にも問題なさそうだな。崖がなければ』


「だよねぇ。この崖を改造してもいいか、ちょっと水龍に聞いてみよう」


 あたしは水龍を呼び出しこの崖を崩れないように金属でコーティングしてもいいか聞いてみた。

 すると。


『そんなことか。確かにこの山は私の管理領域内だがその程度のことは好きにせよ』


「本当!?」


『ああ。それから、この山付近の木々は好きに伐採してもよい。いい建材になる。余ったものは薪にでもすればよかろう。それでは、適切な開発をな。ほかに山を改造したければ呼べ。できる範囲で対応する』


「ありがとう、水龍!」


『気にするな。では、またな』


 やった!

 屋敷の場所は決まった!

 ここなら夕日も朝日も好きなだけ見ることができる!


 次は屋敷の建築だね。

 こっちはどうしようか。

 ヘファイストス任せだとあたしの家みたいな鉄と石の家しかできない気がするし。

 一旦、華都に戻って建築デザインをしてもらった方がいいかな。

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