第4章 ミラーシア湖の整備

31. ミラーシア湖湖畔にあるエリスの別荘へ

 もうすぐ春の訪れ……なんだけど、きな臭い話が本格的に怪しくなってきた。

 リードアロー王国は、冒険者ギルドが撤退したことで各種モンスター退治を国軍や街の防衛隊が担うしかなくなり、相当追い詰められているらしい。


 それ以上に追い詰められているのは地方領主たちで、危険な魔物の繁殖を抑えるだけでも手一杯、根本的に退治してしまうことはできないそうだ。

 そういった地方領主からは冒険者ギルドとルインハンターズギルドに戻ってきてもらうように依頼を出しているようだが、答えはNO。

 冒険者ギルド側からはリードアロー王国からの独立を条件にされているらしい。

 リードアロー王国から独立するだけの経済基盤もなければ、冒険者ギルドからの支援も受けられない地方領主たちは頭を抱えているらしいよ。


 そしてそうなっている以上発生してくるのは、街や村で暮らせなくなり別の国へと逃げ出そうとする難民たちだ。

 難民たちへの対応はそれぞれの国々で分かれており、ここマナストリア聖華国では国境を越えることは認めない代わりに食料などの支援を行っているらしい。

 国にはいれないけれど生きる分の保証はしているってことだね。

 でも、エリスに言わせれば、リードアロー王国が攻めてきたときの盾でもあるそうだけど……。

 政治家って本当に怖い。


 あたしになにか手伝えることがないのかも聞いたけど、これ以上関わればあたしの影響力が強すぎるからよくないって言われてしまった。

 ならせめてということで、聖銀鉱で作った兜と魔銀鉱で作った鎧をかなりの数差し入れておいたけどこれだけでも兵士の士気はかなり上がったそうだ。

 いざというとき最前線に出る兵士たちだけではなく、後方支援の兵站担当部隊にまで装備が行き届き、なおかつ頑丈で動きやすく重さもそこまで重くない。

 そんな装備を軍からの貸し出し品として提供されたのだから、本当に喜んでいたそうだ。


 あたしのところには、もし戦争になった場合、戦功者へ送る妖精銀のレイピアを作ってもらいたいという依頼も来たけど、それも了承しておいたよ。

 なにかとよくしてくれたこの国にできる恩返しはできる限りしたいもの。

 ただ、戦争なんて起こらないことが一番いいんだけど。


 そして今日、あたしとエリスはあたしがもらう予定のミラーシア湖に向かって出発することになった。

 あたしがマナトレーシングフレームを作る前はティターニアがこの国の主力であり、軍の象徴だったため、このような状況で出歩けるものではなかったらしい。

 でも、あたしがたくさん王家用のマナトレーシングフレームを開発した結果、軍の担当は別の機体となりティターニアは民の象徴に変わったそうな。

 だから、エリスも実際に戦争が起きるまでは割と自由が保障されているみたい。

 なので、今日はあたしを連れてミラーシア湖への案内だ。


「エリス、ミラーシア湖までってどれくらいかかるの?」


「一般的な魔導車ですと華都から片道7日ほどです。でも、いまのティターニアとヘファイストスでしたらそんなに時間もかからないでしょう」


「山とか峠とか谷は越えないの?」


「そういった危険な場所は越えません。わりと穏やかな道を通って7日間です」


 なるほど、ショートカットはほとんどない訳か。

 でも、いまの2機なら半日もかからないだろうね。

 華都にいる間にヘファイストスも自分の装備を強化していたし。


「そういうわけですので早速出発いたしましょう。あまり悠長にしているとたどり着いたときには日が落ちているかもしれません」


「わかった。行こうか、ヘファイストス」


『了解した。道案内を頼む、ティターニア』


『任せてください。エリクシールも早く搭乗を』


 こうしてあたしたちは春に向けて動き始めた華都を出発し、ミラーシア湖へと向かった。

 ミラーシア湖へと向かう途中途中で宿場町や大きな街がいくつかあり、魔導車で旅をしている限りは毎日街で休めるそうだ。

 ただ、ミラーシア湖の側に街はなく、一部が国定公園として一般開放されているのだけど、客足は鈍いんだって。

 王族としては客足の鈍さはどうでもよかったんだろうけど、あたしが住むようになってからはどうしようかな?

 うるさかったら公園部分も閉じてしまえばいいし、邪魔じゃなければそのままにしよう。

 でも、宿もない中にぽつんと家があったら目立つよね……。

 本当にどうしよう。


 そのまましばらく飛び続け、目の前には大きな……湖が見えてきた。

 って、かなりの高度を飛んでいるのに向こう側が見えないんですけど!?


「ねえ、エリス。あれがミラーシア湖?」


 あたしはわかりきったことなんだけど、通信機でエリスに聞いてしまう。

 もちろん、答えもわかりきったことだった。


「はい。あれがミラーシア湖ですよ。弓形になっていてもっとも幅が広い部分で41キロメートル余り。先端部分でも12キロメートル余り。横の長さは120キロメートルを超えています」


「それ全部があたしのもの?」


「正確には湖とそれを含めた国有地域一帯がアウラ様のものですから、かなり広い範囲がアウラ様のものになりますね」


 うわーい、あたし大地主。

 これ、どうやって管理しよう。


「まあ、管理はあまりお気になさらず。いまも定期的なモンスター駆除と不法侵入者がいないかの見張りしかしておりませんので」


「うーん、それだけでいいのかは正式にもらってから考えるよ」


「そうしてくださいまし。あ、あそこが私の別荘です。迎えも出ていますね」


「本当だ。あまり待たせてもいけないし、早速行こうか」


「はい。行きましょう」


 エリスの別荘という場所に近づいていくと大勢の使用人たちが出迎えに出ていた。

 エンシェントフレームの駐機場も別にあるらしいので、ヘファイストスたちはそちらに止めておき、あたしとエリスは玄関前へと向かう。

 あたしたちの姿が見えると使用人たちは一斉に礼をして、挨拶をしてきた。


「「「お帰りなさいませ、エリクシール殿下。いらっしゃいませ、アウラお嬢様」」」


 お嬢様、あたしがお嬢様……。

 呼び慣れない言葉に戸惑っていると、エリスがキビキビと指示を出した。


「出迎えご苦労。今日はこの先この湖の管理者となるアウラ様の接待に参りました。この先数日間はここを拠点にミラーシア湖全域を案内いたします。皆も無礼のないように」


「「「はい」」」


 エリスの采配で使用人たちは次々と動き出し、あたしも部屋へと案内されてドレス姿になりエリスと一緒に早めの夕食をとった。

 やっぱり、まだ春先で日が沈むのが早いらしい。

 夕食を食べ終わったあとは明日以降の予定の確認だ。


「アウラ様、今一度明日以降の予定の確認です。明日はまずミラーシア湖沿岸とミラーシア湖内にある島を案内いたします。島には霊獣がお住みになられているのでくれぐれも刺激せぬよう」


「わかった。ほかに気を付けることは?」


「特には。ミラーシア湖は北部から川の水が流れ込み、東側へと水が流れ出している湖です。その流れも穏やかで深さも水辺はそれほど深くありません。沖の方まで歩いて出ない限りは水難事故もないでしょう」


「了解。植生ってどうなっているの?」


「明日、直接見ていただいた方がわかりやすいですが、四季折々の花々や木々が色づいております。この季節ですとブロッサム系の花でしょうか」


「それは楽しみだね。モンスターとかは?」


「いますが湖側までは降りてきません。なぜか湖を嫌っているのです。また、山の食性を荒らすようなこともいたしません。獣系のモンスターがときどき棲み着きますが、植物系のモンスターは棲み着かないんですよ」


 うーん、不思議な場所。

 なにかあるのかもしれない。

 古代遺跡とかなにか。


「わかった。それで、今日はどうするの?」


「さすがにこの地で湯を沸かすのは大変ですので、アウラ様の家で湯に入ってから休むといたしましょう。寝るのはこちらの別荘で、ですよ?」


「はーい」


 あたしの家、お風呂になっちゃってる。

 まあいいんだけどさ。

 でも、この湖もなにか仕掛けがありそう。

 多分、侵入したらいけないヤツだけど、それならそれで厳重に荒らされないようにしておかなくちゃ。

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