16. マナストリア聖華国第一王女 エリクシール = マナストリア

 ロマネたちから物騒な話を聞いて2週間、あたしの周りもどんどんきな臭くなってきた。

 いままでは独立組織であり犯罪者処罰以外では不可侵だったはずのルインハンターズギルド内に国軍の徴発部隊が乗り込んで来たんだよ。

 その時はルインハンターズギルドにいた全員の力で押し返したけれど、次はもっと大勢でくるとかほざいていたし、この街に留まるのももう無理かも。


 そういう意味でも別の街に移る準備をしていたところ、ロマネが厳重に周囲を警護された少女を伴いやってきた。

 ロマネの知り合いみたいだけど、誰だろう?


「ロマネ、この子は誰?」


「ああ。このお方はマナストリア聖華国第一王女、エリクシール = マナストリア殿下だ」


 え、お姫様!?

 なんでお姫様がルインハンターズギルドの駐機場なんかに!?


「あ、ええと……」


「気を楽にしてください、アウラ様。私は確かに王女ですが、今日は王女として来たわけではありませんから」


 エリクシール殿下は鈴を転がすような綺麗な声で話しかけてくれた。

 エメラルドの長く美しい髪に同じく緑の瞳、透き通った白い肌にふっくらとした頬と唇、背中には青い蝶の羽。

 完璧なまでの美少女がそこにいた。


「あ、はい、エリクシール殿下」


「殿下も結構ですよ? とりあえず、その話は置いておいて私のお願いを聞いていただけますか?」


「はい。なんでしょう」


「私にも装備を作っていただきたいのです。妖精太陽銀と妖精月銀を使った装備を」


 うわ、大物が来た。

 そういえば、ロマネが妖精太陽銀と妖精月銀はマナストリア聖華国の王族以外扱わないって言っていたっけ。

 エリクシール殿下は王族だからいいのか。


「いかがでしょう? 作ってはいただけませんか?」


「ええと、構わないのですが……妖精太陽銀や妖精月銀って王家の方でも勝手に使っていいのでしょうか?」


「ああ、それ。王家に献上された妖精太陽銀と妖精月銀を勝手に使うのは問題ですが、個人が私有している妖精太陽銀と妖精月銀を依頼として使う分には何の問題もありません。民も使って構わないのですが、これらの鉱物は王家のものだというか考えが根強いせいか誰も使わないのですよ」


 なるほど、ロマネも本当は使ってよかったんだ。

 素材は山だし気にしなくてもいいのに。


「それで、私の依頼は引き受けていただけますでしょうか?」


「あ、はい。引き受けさせていただきます」


「まあ! これで、帰るときは安心です!」


 帰るときは安心?

 そういえばマナストリア聖華国のお姫様って暗殺者に襲われたんだよね。

 やっぱりいい装備がないと不安なのかな。


「それで、どのような装備を作ることができますか? 私としてはレイピアと短剣、マジックライフル、盾、魔法鎧、ドレスなどがほしいのですが……」


 レイピアと短剣、魔法鎧は簡単だね。

 短剣は剣を短くすればいいだけのはずだし、レイピアと鎧は作ったことがある。

 問題はマジックライフルとドレスかな。

 特にドレスなんて着たこともないからイメージが全然できないよ。


「ええと、レイピアに短剣、魔法鎧はおそらく可能です。マジックライフルはやって見ないとわかりません。ドレスは着たこともないので、相当複雑なイメージをもらわないと完成しないと思います」


「そうでしたね。作る側がデザインを決めるのでした。機能は大丈夫でしょうか?」


「剣2種と鎧は問題ありません。でも、マジックライフルとドレスは試したことがないのでヘファイストスと相談です」


「ヘファイストス。このエンシェントフレーム、マナトレーシングフレームですよね。紅い装甲に4つの瞳、なかなかに迫力があります」


『それは恐れ入る』


 おや?

 ヘファイストスが反応した。

 普段は無視しているのに。


「あら、聞かれていましたか」


『普段から聞いてはいる。話しかける必要がないから黙っているだけだ』


「そうだったのですか。今回は力をお借りします」


『アウラがいいと言うなら問題ない。我も力を貸そう』


「是非に。アウラ様、よろしくお願いいたします」


 ヘファイストスが力を貸してくれるなら問題ないね。

 では始めよう!


「まずはレイピアから始めましょうか。機能の希望はありますか?」


「とにかく強力にしていただければ」


「え?」


「強ければ強いほど望ましいです。ダメでしょうか?」


「ダメと言うか……ヘファイストス?」


 困った。

 無制限に強くするとあたしの装備並みに強くなってしまう気がする。

 いいのだろうか……。


『アウラが構わないと思うのなら好きにするといい。個人認証もかけられるだろう? どちらにしても、アウラの装備には傷ひとつつけられない強化までしかできないのだ。脅威に感じる必要はない』


「いや、脅威に感じているとかそういうのじゃなくて……」


 問題はこのお姫様が悪用しないかなんだけど……。

 作ってもその先の責任は取れないからなぁ。


「あの、ダメでしょうか?」


「ああ、いえ。エリクシール殿下、どうしてそこまで強い装備を御所望なんでしょう? 殿下には護衛の方々もいますよね? その方々だけではダメなのですか?」


「ええと、その……」


 エリクシール殿下は答え辛そうに口を閉ざしてしまった。

 なにか問題でもあるのかな?

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