13. エルフ族と妖精銀の装備について
「いや、申し訳ない。そんなつもりで言いふらしてしまったわけじゃないんだ」
「まったく、言いふらさないでください!」
「そうだな。ルインハンターズギルドも大変だったんだぞ」
「申し訳ない」
ロマネさんの装備を作ってから2週間ほど後、あたしとリンガさんはロマネさんから謝罪を受けている。
なぜかって?
ロマネさんは一昨日まで遠征に出ていたらしいんだけど、その時荷物運びとして同行させたエンシェントフレームがぎりぎり持ち帰ることができる量まで大物狩りをし続けてきたらしいんだ。
さすがに王都の近郊にはドラゴンなんていないみたいだけど、大小様々なゴーレムを打ち倒してきたみたいで、一番の大物マジックシルバーゴーレムは競売にかけられているらしい。
で、その大収穫に気を良くしたロマネさんがついうっかり今回の装備の出所をあたしだって喋ってしまったわけで。
その結果、ルインハンターズギルドに装備目当ての冒険者が大量に押しかけてきたんだよね。
リンガさんが『私の紹介がない者には作らせていない』と機転を効かせてくれたおかげで、不満たらたらながらも追い返すことには成功したんだけど本当に大変だった。
リンガさん、追い返し終わったあとあたしの家でお風呂に入っていったからね。
お疲れ様でした。
「いや、自慢したくもなるだろう。ゴーレムの攻撃を受け止めても無傷で反射する盾、マジックシルバーゴーレムですら木の葉のように切り裂く剣。このような装備を自慢できないで冒険者は務まらない!」
「装備を自慢するのは構わない。私たちを巻き込むなと言っているんだよ」
「それは……申し訳ない」
ロマネさんってどこか抜けてるんだね。
ちょっと意外かも。
「それでだ。フェアリニウムゴーレムの解体は済んでいるか?」
「終わらせてあります。妖精銀と妖精月銀、妖精太陽銀というのが取れました。どれも山なんですけど、どれで装備を作りますか?」
鉱石としての性能を調べた限り、妖精月銀は妖精銀のパワーアップ版、妖精太陽銀は妖精月銀のパワーアップ版だった。
純粋に強化するなら妖精太陽銀だけで作るのが一番なんだけど……。
そう思っていたところで、ロマネさんの動きが止まっていることに気がつく。
一体なにがあったのかな?
「ロマネさん?」
「はっ!? 妖精月銀に妖精太陽銀と言ったか!?」
「言いました。妖精銀と比べれば微量ですが、素材が非常に大きかったのでこちらも山です」
「い、いや。普通の妖精銀でいい。エルフや妖精族にとって妖精銀の装備を手に入れるのはこの上ない誉れになるのだが、妖精月銀や妖精太陽銀は王家がすべて管理することになっているのだ。王家から授けられるもの以外で、それらを使った装備は逆に意地汚さを示してしまう」
へぇ、そうなんだ。
じゃあ、普段は妖精月銀と妖精太陽銀のふたつはしまっておいた方がよさそうだね。
そもそも妖精銀関係はエルフ族と妖精族関係者にしか売れないんだけれど。
「それで、妖精銀ではなにを作りますか? 鎧?」
「それなのだが、全身の鎧と兜、それからレイピアを作ってもらいたい」
「レイピアを? いまの剣ではダメなんですか?」
「いや、普通の敵にはこれで十分だ。エルフ族や妖精族が妖精銀のレイピアを持つのは、一流の戦士の証なんだ。どうだろう、作ってはもらえないか?」
レイピアが一流の証か。
いいね、作ってあげようじゃない。
「わかりました。レイピアも引き受けます」
「おお、助かる! まずは鎧だな。私の鎧にはサイズ自動調整と着脱簡易化、重量軽減、消音がかかっているのだが大丈夫か?」
私は頭の中でそれらのエンチャントを調べ、そこまで容量を消費しないエンチャントであることを確認。
大丈夫なことを告げると、次々あれこれ注文出てきたためにできる範囲で答えておいた。
さて、いよいよ鎧作りなんだけど……デザインがすごく細かい。
サイズが自動で調整されることを考慮してか、非常に女らしいデザインの鎧に仕上がっている。
それでいて急所はすべて複数の板で覆われているなど機能性にも考慮されていた。
やっぱり、最前線で戦う戦士って違うなぁ。
「それじゃあ、作ります……はい、できました」
「おお! って、アウラ。少し疲れていないか?」
「ちょっと魔力を大目に持っていかれました。エンチャントが高度だったのと、素材が高度だったのが原因かも」
「それはすまなかった。それで、早速着てみてもいいのか!?」
「構いませんよ。どうぞ、着てみてください」
「うむ!」
ロマネさんは今着ている鎧を脱ぎ捨てると新しい鎧を身につけ始めた。
濃緑色から若草色まで、緑色で全身統一された鎧だ。
そしてそれらを着け終わるとさらに感動したように言う。
「おお、おお! これだけの鎧を装備しても重さを全く感じない! しかも、エンチャントの効果かいつもよりも力が増していそうだ! 動き回ってもいいか!?」
「はい。壁とかにぶつからないでくださいね」
「わかった!」
ロマネさんは子供のようにはしゃいでそこら中を駆け回り始めた。
ただし、その速度は子供などかわいいものではなく、びゅんびゅん風切り音が聞こえるほどのスピードだ。
そのほかにもジャンプしてどの程度の高さまで跳べるか確認したり、エンチャントで取り付けた空中ジャンプ機能で何回跳躍できるかも確認したりしていたよ。
チェックに抜かりはないね。
「ああ、楽しかった! さて、レイピアの方だが、イメージはもう決まっている。ただ、装飾としてこれらの宝石も使ってもらいたいのだ」
戻ってきたロマネさんは、早速次の作業についての話をし出したが、内容はちょっと難しいものだった。
いままでは鉱石だけで作っていた武器に宝石も混ぜてほしいというのだ。
どうなんだろう?
「ヘファイストス、そんなことできるの?」
『理論上は可能だ。イメージの方がしっかりしていないと失敗するが』
「だそうです。大丈夫ですか?」
「問題ない。では始めてくれ」
「はい。始めます」
鉱石類と宝石に魔力を流し始め、ロマネさんから伝わってきたイメージも確認すると、そこにはすごく複雑な装飾が施されたレイピアがあった。
事前に聞いていたエンチャント内容もかなり強力な武器としての性能を求めるものだし、文字通りの家宝になる武器なんだろう。
イメージには宝石もしっかり散りばめられていたし、これなら失敗しないかな。
では、早速……できた!
「ロマネさん、これでいいですか?」
「……うむ! これで満足だ! 作った鍛冶師の銘を刻む部分にはアウラの左手の模様を刻んだのだな」
「えっと、問題でしたか?」
「いや、まったく問題がない。作った鍛冶師がわかる証明があって初めてこの武器は輝くのだ!」
ロマネさん、ずっとハイテンションだ。
そんなに今日の装備は嬉しかったんだね。
「さて、今日の報酬だが……普通の金で渡しても面白くはないだろう? そもそも、この前渡した白金貨だって手をつけていなさそうだ」
「ええ、まあ。装備も服も揃っていますから。必要なのはこの駐機場の使用料くらいで、食事も自分の手持ちから自炊しています」
「そこでだ。私と一度一緒に仕事に行かないか? それで入手した素材をすべて引き渡そう」
ロマネさんって大物狩り専門だよね。
一体なにを狙うんだろう?
「今回の獲物はダークドラゴン。少し離れた街からの退治依頼がこの街まで回って来ている。冒険者ギルドにまで依頼が来たということは国軍でも倒せなかったのだろう。どうだ、一緒に行かないか?」
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