第19話 あのときの少女

薫のドスの利いた声に驚いて翼が慌てて階段を駆け降りて来た。


翼「キラリの母さんどしたんすか?」


薫「あっ…ゴメンね…キラリが寝ぼけて訳わかんないことぬかすからつい…」


翼「キラリに何かあったんすか?」


薫「それがさっぱり話が伝わって来なくてわかんないの…探しに行こうにも、あの娘もどこに居るのかわかんないって言うから…」


翼「そのスマホにキラリの位置情報出て無いすか?」


薫「あっ!そういうことね!ちょっと調べてみる」


翼「あっ!ここをタップしてこうすれば…ほら!」


翼は薫のスマホを操作してキラリの居場所を突き止めた。


翼「俺、あいつ探して来ます!ちょっとそれ貸しといてもらえます?」


翼は薫からスマホを借りようとした時、薫のスマホに着信があった。


キラリ「もしもし母ちゃん!バイク見つけたから今から帰ります!」


薫「わかった。気を付けて…」


薫は電話を切って安堵した。


薫「やっぱり女の子を持つ親ってのは疲れるもんだね…私も昔はけっこうヤンチャしたけど、自分のことは意外と何とかなるって思ってたりするんだよね…でも、それってきっと周りからしたらけっこうハラハラしながら見てたんだろうね…」


翼「キラリの母さんもキラリみたいにケンカめちゃくちゃやったんすか?」


薫「どうかな…私の場合は…私に何かあったとき、必ず助けてくれる幼なじみが居てさ…その子は地元では伝説の男って恐れられたほど強くってね…ほんとはその子のことが好きだったんだけど…結局他の男の子が私に猛アタックしてきて、それでそっちの子と付き合ったんだ…でも…その子は暴走族同士の乱闘の中で死んじゃったの…」


翼「そんな悲しい過去があったんすね…」


薫「でね、そのあと今のパパと出会ったんだけど、私は私を守れる強い男じゃなきゃ嫌だったんだけど、まぁ…パパもけっこうケンカは人並み以上に強い方なのよ!でも…私よりは強く無かったかな…」


翼「そ…それって…つまり…キラリママがバケモンってオチっすね…どうりであんなに強いキラリが恐れるわけだ…」


二人がそんな雑談を交わしていると、外からやかましいバイクの音が聞こえて来た。


薫「キラリ帰ったみたいだね」


薫はすぐに玄関にキラリを迎えに行った。


キラリ「母ちゃん心配かけてすみません…」


キラリは薫の顔を見た瞬間に、申し訳なさそうにそう言った。


薫「一応あんたも女の子なんだからその辺で寝ちゃうのは無用心だから気を付けてね!」


キラリ「はい…すみませんでした…」


薫のすぐ後ろに翼の姿を見つけ、キラリは急に目を伏せて何も言わずに2階の自室に閉じ籠ってしまった。


翼「なんか俺…随分キラリに嫌われちゃったみたいっすね…」


薫「うーん…あの娘は素直になれない子だからねぇ…明日になったらまた嘘みたいに機嫌なおってるかもよ?」


翼「だと良いんですけど…」


翼はそう言って2階に上がった。そしてキラリの部屋の前で立ち止まり、ドアをノックして声をかけてみた。


翼「なぁ、キラリ…ちょっと話せないか?キラリ?」


しばらく待ってみたが何の反応も無い。


翼「キラリ?二人で食べようと思ってアイス買ってあるんだけどよ…一緒にどうかな?」


キラリは全く返事もしないので、翼は自分の部屋に戻っていった。


キラリは翼の姿を見て、声を聞いて、再び先程の衝撃的な現場のことを思いだし枕を涙で濡らしていた。



~翌日~



キラリは薫がどんなに呼んでも部屋から出てくる気配が無かった。

そして、昼過ぎてからようやくゆっくりと階段を降りてリビングに顔を出す。

そこには翼が昼飯を食べる姿があった。


薫「キラリ~、昼ご飯食べるでしょ?」


キラリ「うん…」


キラリはムスッとして翼とは目も合わそうとはせず、放っておいて欲しいオーラを全快に出していた。

翼は気まずく、食事を終えたあとすぐに自分の部屋に戻っていった。

キラリも食事を終えて一度自分の部屋に戻り、そしてすぐに家を出て行ってしまった。


翼はどうしてもキラリと話がしたくて、すぐに後を追うがキラリの姿を見失ってしまう。


恐らくキラリの向かった先は…あそこしかないだろ…


翼は例の神社に向かって歩き出した。そして翼の予想通り、キラリは御社殿の前に座って本を読んでいた。


この光景…デジャヴか?過去に全く同じような光景を目にしたことがあるような…



~翼の回想~



あいつ何処に行ったんだ?もう帰る時間だってのに…明日からまた二学期始まるんだから暗くなる前に帰らなきゃならないのに…


翼は弟を探しに二人の秘密基地に着いた。そこには弟の姿はなく、一人の少女が御社殿の前に座って本を読んでいた。


翼「ねぇ、ここに二人の小学生の女の子と男の子来なかった?」


少女「ううん…誰も来なかったよ…」


少女は顔も上げず、真剣にその本を見ていた。


翼「ねぇ?それ…何読んでるの?」


翼は少女があまりに夢中になっている本が気になり尋ねた。

その時初めて少女は顔を上げて、嬉しそうに語り始めた。


少女「これね、王子様の話し!女の子が大好きな王子様に会いたくて、神様に頼むの。王子様を私の元へ連れてきてって…そしたら神様はその願い事を聞いてくれて、本当に女の子の前に連れてきてくれるの!」


少女は目を輝かせながら語っていた。



翼はそんな昔の記憶を思い出していた。



あの時の少女って…もしかしてキラリだったのか!?

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