第一章 刑事、獣の主人となる 12
「何をでしょう?」
「とぼけるな、銃だよ。あれは子どもの玩具じゃない。
……さすがに報告は勘弁してやる。処分は俺がなんとかするから……」
「おや、いけませんねえ
たとえ大事な大事な可愛いみはやちゃんでも、罪状は立派な銃刀法違反です。心を鬼にして交番へ突き出し号泣、もうしませんからと一緒に土下座する。それが父親の役目じゃありませんか」
「……だから誰が父親だ」
痛いところを突かれて、那臣は顔をしかめた。
まさしくみはやの言うとおりだ。たとえ暴漢から那臣を守ってくれたのだとしても、銃を隠し持っていてよいことには決してなりはしまい。
葛藤し
「冗談です。大丈夫ですよ、わたし、銃なんて持ってないし、握ったこともありませんから」
「……おい」
「『
ただですね、那臣さんの身の安全は譲れないところだったりしますので、夕べみたいなおじさんたちが遊びにきた際には、他のなにかが視界に入るかもです。予告」
「なにかって何なんだよ」
「美少女忍者は道具を選びませんので。ちなみに最近のお気に入りはクマさんのランチセット、です」
要するに銃ひとつ取り上げても、いくらでも銃以外の他の武器の調達が可能だということか。
なにやらうまくはぐらかされた気がするが。
「…………なら、なるべく襲われないよう努力するよ……で、だな」
これがどれほどの制約になるかは判らないが、言っておかねばならないと思った。
「殺しはするな。極悪非道な奴らでも、人間だ」
みはやがくすりと笑う。きっちりと合わせてきた目線が、意図は判っているぞと応えていた。
「承知しております。以後昨日のような事態になっても、原則無傷、最悪でも半殺しで止めるべく努力します。
きっちり治してしっかり送検、がっつり受刑。このライン希望でよろしいですね?」
「基本そうなんだが、どうにかならないのかその略……っつか、手加減することでお前の方が危険になるなら、その……。
……いや、そもそもいくら強いとはいえお前は子どもなんだ。守ってやるなら俺の方だろう」
いつの間にか、みはやが『
「那臣さん、やっぱり優しいですね、『
でも全く!その心配はありませんから。完全究極美少女みはやちゃんはほぼ無敵。ゲームキャラだったら、そのゲームは間違いなく、ビジュアルのみを楽しむ攻略不能のクソゲーです」
「いちおう女子ならクソとか言うな……」
まあいいか、と、納得半分諦め半分で、那臣は冷めかけたお茶を音を立てて啜った。
とん、とテーブルに置かれた空の湯飲みに、みはやが間髪おかず、お替わりを注いでくれる。
僅か数日で那臣の部屋に馴染んでしまった少女を、また那臣も自然に受け入れている。
そんな自分に呆れてはみたものの、みはやと過ごす時間はなぜだかとても心地よい、まるで、ぬるま湯にまどろむような感じを覚えるのだ。
(なんだかんだで似たもの同士、なんだろうか)
自分と同じもので出来た、自分ではない他人。
みはやがいつか覚えた感じを、知らずまた那臣もなぞっていた。
「さて那臣さん、本日からめでたく再びの本格出勤、ですね。二階級特進後のお仕事、頑張ってきてください」
「……どんだけ針のむしろだか……まあ適当に流してくるさ」
キッチンの椅子から立ち上がりドアに手を遣る。背中にみはやの楽しげな声が掛かった。
「頼もしいです! イジメられて帰ってきたら、またあの鉄板の台詞でお出迎えして差し上げますから。
那臣さん、お風呂にしますか? お食事にしますか? それともわ・た・し?」
「……………………飯。一択だ」
「あっさりすぎます那臣さん、ではせめてお出かけ前のお着替えのお手伝いを」
駆け寄ってきて、また腕にぶら下がりじゃれつく。無邪気な笑顔の横で、今日もぴょこぴょことツインテールが揺れている。
軽やかに野を駆け、跳ね回り、時にその脚は
(兎、みたいだな)
「いらん!」
かくして愛らしく物騒な獣と、那臣の同居生活は始まった。
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