第30話

「まず、個室が欲しいよな。そうすると、ベッドと机と椅子。後はライト。白木のこういう家具が、この衣装のクロッピにぴったりだぜ!」


鞄から出したクロピーのミニチュアぬいぐるみを、陳列されてある部屋や家具と照らし合わせて次々に腕に抱えていく梶原を見て、鳴海もふと並べてある家具などを見てみた。王宮住まいのウイリアムは、いつも大理石の柱とふかふかの絨毯、そして滑らかな肌触りのベッドに囲まれている。テリースも王宮の一角に与えられた自室で、同じような待遇を受けている筈だ。あまりにもレベルが違い過ぎてお話にならない。しかし。


「私の推しカプはこんなメルヘンな家には住まないと思うけど、これが唯一の家だと言われたら、やむなく居住するかもしれないし、私も推しカプの愛の巣があるというだけで、心は薔薇色に満たされるから、悪い提案ではないわね。しかし、梶原がシンバルニアを買い漁ってる事実からは、三次元には興味ないけど、私たちの場合は私が攻めで、梶原が受けに決定としか言えないわ……」


「だから俺のクロッピ推しは愛の巣とか必要ないし、息するように俺たちでそう言うこと考えんの止めろ!」


苦々しい顔で鳴海を見る梶原に、しかし罪悪感は覚えない。


「だって、己を顧みてみてよ。シンバルニアの家具を腕一杯に抱えてんのはあんただし、私はいわば梶原の保護者よ」


「保護者とか言うな。腐ったものの見方しか出来ねーやつがよ。お前も童心に帰ってみたらどうなんだよ。少しは清い気持ちで推しのこと見れるんじゃねーの?」


梶原に言われて改めて陳列棚を見る。メルヘンな家具。手仕事の跡が残るファブリック。どれもこれもが王都に住まうウイリアムとテリースには似合わないが、もし彼らが不意のいとまに地方の湖畔の別荘などに赴いたらどうだろう……?


(は……っ、意外といけるかも……!! 年老いた夫婦が管理する別荘に、愛し合いながらも王宮では身分差からなかなか親密な関係になれないウイリアムとテリースが愛を語らうには、緑豊かな湖畔の別荘なんてうってつけじゃない……!!)


一度妄想が始まると止まらなかった。二人で見上げた星空はどんなにきれいだっただろう。王宮での執務をこなすウイリアムがふと見せるやさしい眼差しを、木のぬくもり溢れる部屋で受け止めたテリースは? 暖炉の火が灯るあたたかい部屋で二人ソファに座ったりして、普段隣り合って座らないテリースが緊張しているのを、やさしく肩を抱いてウイリアムが引き寄せて……。それで? それで??


(ああっ、素敵だわ!! 貴族のウイリアムには木の部屋なんて似合わないと思ってたけど、意外とイイかも!!)


無言の鳴海に梶原は、少しは清い心になっただろ、と鼻息を荒くしたが。


「……梶原、GJだわ……。これからは田舎暮らしのウイリアムとテリースにも萌えられる……」


「そっちかよ!!」


梶原のご期待には添うことが出来なかったが、学校を離れた場所での会話は、二人の間に解放感をもたらし、意外と推しが一緒でなくても居心地がいいものなんだな、と思えるようになってきていた……。


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