第8話 普通のクルマの普通のエンジン

 春ですなあ。

 春です。

 春になったので、冬の間に乗り続けて酷使して、雪道走って苦労をかけたハスラーのタイヤを変えて、洗車して掃除機かけて、それから車庫に入れてカバーかけて、しばらくお休みいただくことにしました。

 代わりにカバー外してバッテリー充電してタイヤの空気圧を調整して、3か月ぶりに車庫から出して乗り始めたのが、ワシの大好きなZ12キューブでありました。

「キューブや、久しぶりじゃのう。元気じゃったか。」


 ワシはなしてかしりませんが、この7年落ちの走行4万キロのスオミブルーの内装ロルブーインテリアのZ12キューブVセレクションが大好きです。

 これまでに何度買い替えを進められて考えるには考えたのですが、どうも決断がつかずに、というか、キューブを超えると思われるクルマに出会えなくて、ずっと乗り続けているのです。

 というか、このキューブは元は妻のクルマでして、ワシがおさがりをもらったのですが、なぜか気に入ってしまって以来ずっと乗り続けているのです。

そのキューブに久しぶりに乗って感じたことは、

「やっぱり気持ちええのう。」

ということでした。

 何がええかというとエンジンの感触がええんです。

 なんてことはない1500ccの直列4気筒。ちょっと前までありふれていたスタンダードのガソリンエンジンです。

 ハイブリッドなんかじゃあない。支援システムも電動ブレーキも何にもない。アイドリングストップのシステムはついていますが、キャンセルしているので関係ない。不自然な動きもぎくしゃく感もぶるぶる感も何にも感じない。

 ただ、感じるのは金色のオイルの中でピカピカのピストン、クランクなどのムービングパーツが滑らかに動いているような気持のよさです。

 ザーザーでもざらざらでもなく、滑らか。音もなく滑るように動いているエンジンの感触。今はやりの3気筒にはない自然のバランス感覚。

 ワシはキューブに乗るたびに普通のエンジンの普通の感覚にいつもうっとりしてしまいます。なしてでしょうかねえ。ワシが古い感覚に慣れた古い人間だから。もちろんそれもあるでしょうが、何よりも自然な感じ。無理をしていない感じ。無理やりドーピングして動かしているのではなくて、森羅万象に即した動きというか、そういう気持ちよさをいつも感じるのです。

 ハスラーはワシの好きな愛車ですが、3気筒ターボエンジンはええことはええのですが、エンジンが温まる前はとても無理して走っているような気がしてアクセルを踏む気になりません。クロスビーも同じような不自然さを感じてしまいます。

 フォレスターは、水平対向4気筒ターボエンジンですが、やはりパワーの出方が唐突とういかのんびり町中を平和な気分で流すのはちょっとなあと感じます。

 Zは、まあああいう車なので仕方がないのですが、疲れているときに乗ろとちょっときついものがあります。


 というわけで、普通のエンジンを載せたキューブに乗るたびに、なぜか平和で幸福な気持ちになって、

「ええなあ。楽だなあ。ちょっと海でも見に行きたいなあ。コーヒー飲みに行こうか 

  なあ。ちょっと大回りして帰ろうかなあ。」

「後ろのクルマは急いでいるみたいだから先に行かせてあげよう。」

「対向車が来たから待っていてあげよう。」

などなど、ワシらしくもなくなぜか親切になってしまうのでした。


 最近のクルマ。燃費や排ガスや走行性能や安全性能やなんやらかんやらの要求事項が多すぎて、がんじがらめになって、自然さとか気持のよさとか余裕とかそういう二次的性能をおろそかにせざるを得ないんでしょうなあ。そんなん考えている余裕がないんでしょうなあ。

 そりゃあクルマ離れもするわいな。乗っていて全然楽しくないもん。気持ちよくないもん。旧車乗りの方々の気持ちがよくわかるのです。


 普通のクルマの普通のエンジン。

自然な動きの気持ちのいいエンジン。

最近こんな車やエンジンに出会うことがめっきり少なくなったように感じる今日この頃です。



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