第6話 パンク

「パンク」


 もうダメですね。

 歳を取ってしまったからか、毎日便利で楽なクルマにばかり乗っているためか、あるいはワシがクルマの声を聞こうとしなくなったためか、とにかくもうダメです。薄々気づいてはいましたが、ワシは自分の能力と言うか「直感」が極端にダメになってしまっていることを痛感しました。

 

 たまたまセルフのガソリンスタンドに寄って給油しながら何となく思いつきで

「そういや最近空気圧のチェックをしとらんかったのう。」

と思って空気を入れていきました。

 ハスラーの空気圧の指定は前後4本とも「2,4kpa」であります。

 右前OK,左前OK,右後OK、そいでもって最後に左後が「1,5」・・・。でも見た目は同じように見えるし空気が抜けている感じでもない。

 ワシは目が点になって、それからまた計ったら、やっぱり{1,5}しかない。ワシは何かの間違いかと思って、とりあえず指定の「2,4」まで空気を入れて、様子を見ることにしました。

 家に帰ってまず行ったのが、空気圧の再測定とバルブのチェック。でも異常なし。でも気になってしょうがない。

 ワシは入念にタイヤをチェックしました。そしたらありました。トレッド面に釘の頭のようなものが見えます。どうやら釘を踏んでしまったようです。

 ワシはさっそく近くのガソリンスタンドに行って見てもらいました。

 馴染みのベテランのスタンドのおじさん(←名人)は、あっという間にタイヤをホイールから外してタイヤの内側をチェックしてくれました。大きなネジが見事に貫通していました。

 それから状態を見て

「このタイヤは内側に一層膜があるので、内側からの貼り付けは難しいのう。」

と言われました。

 ご存じのようにパンクの修理の方法は二通りあります。本格的な補修と簡易補修です。前者はタイヤをホイールから外して内側から補修材を張り付けて補修します。後者はタイヤを外さないで外側から穴にゴムと接着剤をねじりこんで補修します。たぶんですけど。

 当然内側からの方が確実でしっかりしていて頑強で安心です。ワシは内側から方がえかったのですが、タイヤの内側がそういう構造になっているならどうしようもありません。もう3年目だし、あと2年したら交換するのでええか、という思いもありました。

 結局、スタンドの名人と相談して、外側からの簡易補修を行うことにしました。

「このタイヤは絶対に前輪に使わないこと。連続した高速走行は避けること。2年ぐらいしたら補修部分が劣化して空気が漏れ始めること。一週間ぐらいしたら必ずチェックに来ること。」

などを名人から教わって、ワシはスタンドを後にしました。

 最近はなかったのですが、パンクは何度かやりました。ワシはそういうことを何も考えていなかったというか考えたこともなかったので、また、誰も教えてくれなかったので、外側からいあゆる簡易補修したタイヤを普通通りに使っていました。高速も平気で乗ったしローテーション時に前輪に取り付けたこともあるし、それでも事故も故障も起こらずに無事に済んだのは、運が良かったのか、簡易補修でも思いのほかしっかりしていたからでしょうか。日本の自動車界の技術はすごいものだと今さらながら感心してしまいました。

 でも、知ってしまったら気になってしょうがない。名人の言いつけを良く守って、気をつけようと心に誓ったのであります。

 それにしてもワシはこの状態で一週間近くも走っていたような気がします。ワシは割とこまめにタイヤの空気圧をチェックしているのですが、たまたま空気圧のチェックの間が開いた。大丈夫じゃろうと思いこんでいた。それから雨で、たまたま広島に遊びに行くのをやめた。たまたま入ったスタンドでたまたま空気圧のチェックをして気がついた。

 いろいろな「たまたま」がワシを守ってくれたと思います。ワシは守護霊とご先祖様に感謝して仏壇の前に行って手を合わせてしまいました。


 以前のワシなら乗り心地などで絶体に気がついていた。でもまったく気づかなかった。ワシは自分の能力というか直感というか感覚と言うか、そういうものの衰えを痛感しました。

 そういえばバックモニター等のおかげで、バックが下手になりました。昔ならそんなもんなくても感で30cmまで寄せる自信がありました。

ナビなんかなくても地図を感だけで、九州でも長崎オランダ村でも、博多でも鹿児島でもどこでも行く自信がありました。レンタカーのバイト時代は、広告の裏に適当に書いてもらった地図だけを頼りに、広島までクルマを届けていました。

 ABSなんかなくても、右足でブレーキロックを感知して旋回をする自信がありました。ハンドルから伝わってくる手ごたえでスリップを感知しながら雪道を走ることもできていました。

 ワシだけではなくて、すべてのドライバーは、そうやって自分で「上手い運転」をしていました。昔のドライバーは今のドライバーに比べてずっと運転が上手かったと思いますし、上手くなければ運転できませんでした。そういう時代で、それが「運転免許証」を持っているという誇りだったのです。


 ワシは毎日エアコン効いた快適な室内で、ナビやらバックモニターやら全周囲モニターやら自動ブレーキやらABSやら、それからトラクションコントロールなどのあらゆるクルマ任せの運転支援システムに守れられて楽に安全に快適に過ごしています。でもこれって、慣れればなれるほど運転が下手になっていることをひしひしと実感しています。

 楽で安全って素晴らしい進化だと思いますが、人間は逆に猛烈なスピードで退化していることを実感し恐ろしくなってきているワシの毎日です。

 ワシは以前から、

「トヨタのクルマは運転感覚が希薄で、ドライバーをどんどんダメにする。」

と言いふらしていましたが、トヨタのクルマに限らずとも、いまどきのクルマはドライバーをどんどんダメにするんだなあと思いました。すみませんトヨタ様。

 たかがパンク、されどパンクです。みなさんもお気をつけください。


追伸

 なんとハスラー純正OEMダンロップエナセーブの1年落ち9分山ボッチ付のウソのように程度のいいタイヤを2本1万円で見つけてさっそく購入しました。

 ご存じのように純正OEMは高いし同程度のタイヤは銘柄がちょっと違ったり(ダンロップだとEC300+→EC204とか)何よりトレッドパターンが違うので結局4本交換を余儀なくされるのです。

 でもあった。まったく同じタイヤが。新品同様っぽいど(嬉)

 ワシはこの2本を取り替えてフロントに持っていったら当分乗れるしパンクの心配もないし高速も走れるしでラッキーだと思い到着を今か今かと待っていました。

タイヤが来ました。おお。程度がいいしバッチリです。製造年月日も相違ないど。ワシってラッキーじゃのうと思っていたら・・・・。

 なんとタイヤワックスがべっとりとついていてホイールに組み込む部分にもべったりついていてテカテカで絶句しました。売主さんは好意できれいにしてくださったので何の悪気もないことはわかっているのですが・・・。

 このままホイールに組み込んだらスリップしてホイールだけがクルクル回って発車しないという漫画のような状況になりそうで嫌じゃのう。

 このまま組付けても大丈夫なんですかね。誰か教えてください。

 ワシは「激落ちくん」でワイヤワックスを落とそうかと計画しています(泣)



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