第7話 三面鏡の人影

「あれ、真っ暗」


 再生された画面は真っ暗でした。


「壊れたのかな?」


 装置の故障を疑った私は、昨日まで散々見てきた、ディスクに入れ替えました。「帰りますーー!!」ここからの再生がはじまった。

 そして、倒れる画面の中に三面鏡が映り込んだ。


「わっ!!」


 私は声を出して飛び上がった。

 全身に寒気が走った。


「嘘でしょ!」


 私は一瞬ですが、鏡の中に人影が見えたのです。

 その姿は、長い髪が目まで隠し、鼻と口だけが見える子供の上半身でした。


 ストップと再生を何度も繰り返し、一瞬だけ映った人影のような物の所で止めることが出来ました。

 でも止めた映像には、黒いもやのようなものがあるだけで私が見た、はっきりとした人影は見つけられませんでした。


「見間違い、それとも気のせいかなー?」


 映像からは、寂しげで悲しそうな雰囲気を感じています。

 その他にも何か違和感を覚えながら、これ以上今は、関係ないと考えるのをやめました。

 私は、渡されたディスクの再生の事を、最優先と考えてしまったのです。


「機械は壊れていないみたい」


 私は別のディスクの再生が出来るのだから、ハードの故障は無いと考えて、もう一度ディスクを入れ替えて再生しました。


「やっぱり真っ暗。なにかしらこの映像」


 音量を少し上げてみました。

 そうすると、誰かの寝息のような物が微かに聞こえます。


「うーー、ううーーっ」


 しばらく黒い画面のまま再生していると、うなり声が聞こえてきました。

 な、何の声。


「はるぅーー」


 なにかしゃべっています。

 でも小さな声なので聞き取りにくいです。

 私は真っ暗な画面に鼻が付きそうなぐらい顔を近づけました。


「……ぅぅ……」


 ガチャーーン!!


「うわああーー」


 私が耳をすましてして、顔を近づけていたら、凄まじい大きな音で何かが倒れました。

 私はビックリして大声を出して椅子から転げ落ちました。

 そして四つん這いで、画面に近づきます。


 ギィ、ギィ


 何かが、きしむ音が聞こえます。


「やった。確実に聞こえた」


 引き戸が開き、隣の部屋の光が入ります。

 その光が入った瞬間、画面の正面のチェストの前に人影が一瞬映りました。


「ちゃんと撮れているよなー?」


 ザブさんがカメラをのぞき込みます。

 私はザブさんのアップの顔を見てしまいました。

 ちょっと昔ヤンチャをしてそうなザブさんの顔でしたが、今映っている映像の中の顔は、目の下に大きなくまが有り、頬がこけ明らかに健康を損なっているように見えます。


 カメラは部屋の天井にセットされているのでしょう。

 部屋をふかんで、写しています。

 そのカメラをザブさんは天井から外すと、部屋全体を写しました。

 どうやらここはザブさんの自宅のようです。

 この部屋には、チェストと洋服ダンスがあるだけです。


 ……?


「じゃあ、あの音は何の音?」


 私は、思わず声を出してしまいました。

 何か大きな金属を倒した様な音でした。

 開け放した扉から隣の部屋が見えますが、ベッドと机、机の上にパソコンが見えます。

 あんな音を出すような物は見えません。


 そもそも、私には暗闇の中から聞こえたように感じました。


「やったぞ、事故物件を借りて住んだかいがあった」


 ザブさんは嬉しそうです。

 この人、事故物件に住んでいるんだ、どれだけ勇者なんだろう。

 私は、心霊に対するザブさんの姿勢に感心を通り越して、あきれてしまいました。


 そして、画面は切り替わり、日付が表示されています。

 今日から九日前です。

 そして、時間は午前一時四十五分。

 先程とは違い電気がついています。

 何の変化もないまま五分が過ぎました


 ガチャーーン!!


 ギィギィ


 何も動きの無いこの部屋で大きな音だけが響きました。

 私はチェストから聞こえたように感じました。


「やっぱりだ、先週廃村へ行ってから、毎日この時間に音がする」


 ザブさんがとなりの部屋から現れました。


「事故物件は、何かがあるとは聞いていたけどやっと撮れた」


 カメラの前で喜んでいるのでしょう、私の見ている画面に、ザブさんの顔がアップになりました。

 ちょっとまって、この現象は少なくとも、事故物件は関係ないでしょう。

 むしろ、廃村の廃墟が関係しているのでは無いでしょうか。

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