第69話

【武器の英雄、ウエポン・アーツ視点】


「敵が進軍してきます!」

「いかがいたしましょう?」


「敵の英雄は何人いる?」

「短剣の英雄と竜の英雄2人です」


「兵数は?」

「2500から3500程度と思われます」


 数が少し少ない、陽動だな。

 陽動と奇襲はシンプルな分策が破綻しにくく防ぎにくい手ではある。

 3000と見積もって、1000の別動隊が別角度から奇襲してくる。


 短剣の英雄と竜の英雄。

 何度も本陣で刃を交え、殺しきれなかった相手だ。

 だが、万全に回復したセバスと我、そして姫騎士を投入し、この野営地を捨てる覚悟で戦えば、殺せるかもしれん。


 そうなればものまね士アキに野営地をズタボロにされる。

 そしてサポートスキルを持ったものも多く殺されるだろう。

 だがそれでも、英雄を殺せるなら……安い。


 普通では相手の意表は付けない。

 狂ったような狂気が必要なのだ。

 兵を犠牲にして英雄を殺す。


「兵士9000の内、7000を投入する!包囲陣を張れ!」

「了解しました」


 奇襲部隊とぶつかる2000の兵には悟られぬよう何も伝えぬ。

 犠牲にし、死んでもらうのだ。


「セバス、ワッフル様、出番だ。英雄を、殺す!」


「分かりましたわ」

「かしこまりました」

「敵が迫ってきます!」

「すぐに向かう!」


 我はすぐに敵の元へと向かった。



 王がいる。

 王自らをおとりにするか。

 羨ましいほどに出来た王だ。

 このような王が国を統治していれば我がここまで苦戦する事も無かったのだろうな。

 王直属の近衛1000さえ使えれば初日の戦いで敵軍を一気に敗走に追い込むことが出来た。


「短剣の英雄!竜の英雄に王までいるか!城の守りはどうした!?」


 王が前に出る。


「城は整理してきた!」


 そうだろう。

 出兵した隙に城を奪われれば終わる。

 城は解体し、ストレージに入れているのだろう。


「我の軍は7000、対して貴様らは3000しかおらぬ!死にに来たか!」

「私は命をかけてここにいる!私の命をかけねば皆はついてこない!」


 立派な王だ。

 命を賭け、息子に後を託す、そう決めてここに来たのが分かる。


「言っておく!我はこの洞窟をズタボロにされても陽動で奇襲攻撃があっても王を殺す!陽動をかけてくれて感謝する!」


 これは嘘だ、本当の目的は英雄を殺す事!


「時間稼ぎは終わりだ!始めさせてもらう!総員!攻撃開始!」

「セバス!一番槍は任せた!」

「かしこまりました!」


 セバスが1人で軍に飛び込む。

 今回の切り札はセバスだ。

 敵は消耗したセバスしか知らない。

 それでもなお大戦ではセバスの相手をするしかなかった。

 大戦中、敵本陣はセバス1人の為に追い詰められていた。


 だが今回はセバスに長く戦う事を捨てさせた。

 つまり体調が回復し、その上で短期決戦を挑ませたのだ。

 これにより相手の想定を超える!


「矢の雨を放て!」


 セバスが笑う。


「縮地!縮地!縮地!」


 一瞬だけありえない速度で駆け抜け、矢の雨が落ちる位置を通り過ぎる。

 固有スキルの連続使用は高等技術だ。

 体に負担がかかる。


 そして前回の大戦でセバスはこのような縮地の連続使用を使わなかった。

 それが敵の思惑を超えるのだ。



 敵弓兵の一部は横からも点ではなく面に放つように矢を撃った。

 セバスに対しては矢の雨だけでは不十分だ。

 上から迫る矢の雨と横方向からの矢の攻撃、この多重攻撃が敵のセバス対策ではある。


 狙って矢を放てばセバスにとって矢を避けやすくなる、そこで狙う範囲を広げるように矢を放ったのだ。

 大戦でセバス対策の為に編み出した敵の戦法だが、セバスはそれさえも容易に突破する。


 兵への攻撃を捨て、セバスを弓で狙うがセバスを仕留める事は出来ん!

 そして兵への攻撃がおろそかになれば包囲陣の完成が早まる!



「弓兵!多重攻撃!」


 弓兵は上から降り注ぐ矢の雨、そして弧を描くような斜め上の攻撃、更には横から迫る矢の3重方向による攻撃を行った。


「空歩!」


 セバスは空を走りつつ矢を回避する。

 そして敵の弓兵部隊に飛び込もうとするが、短剣の英雄が邪魔をする。

 予測を超えるセバスの動きになおも対応する。

 流石英雄と言った所か。


 だがそれもこちらの予測通りだ。


「僕も飛べるし縮地のような技も使えるよ!」

「練度不足だ!」


 セバスが短剣の英雄を蹴り飛ばす。


 竜の英雄がブレス攻撃と矢で攻撃してくる。


「そこまでの超速度、長くは続けられないわ!アローラッシュ!」

「私は今万全だ!縮地!」

「な!空中で縮地を使った!」


 セバスは短剣の英雄と竜の英雄の攻撃を躱し、弓部隊に斬りこんだ。

 一瞬で何人も弓兵が倒れ、更に続けて弓兵を倒していく。

 シルフィ王国の弓兵は脅威だ。

 だが、セバスの恐怖は敵に浸透している!

 弓をセバスに向けるしかない。


 セバス対策として短剣の英雄と精鋭部隊をセバス1人だけの為にに割かねばならん!

 竜の英雄は弓とブレスを使う。

 乱戦状態に割り込めず前の兵士を狙うがそれも予想通りだ。


 その隙に戦士部隊が斬りかかる。

 そして王を狙う、と見せかけて英雄を殺すのだ!


 姫騎士が突撃して兵を倒していく。

 我も突撃して王に迫る。


 そしてその間に包囲陣を完成させる!

 我の軍は7000で敵は3000、そして英雄の数はどちらも2人ではあるが、セバスは別格だ!

 その証拠のセバスは何度も敵軍の予測を超え、敵の動きは空回りしている。


 弓兵の懐にセバスが斬りこんだことで竜の英雄は手が出せなくなる。

 セバスを放置すれば弓兵が全滅する。

 短剣の英雄はセバスを対処するしかなくなる。

 思った通り短剣の英雄がセバスに斬りこみ、竜の英雄は王に迫る兵士を倒しにかかるだろう。


 

 竜の英雄は我らの対処をするしかなくなる。

 そうしているのではない。

 そうせざるおえぬよう追い込んでいるのだ。

 味方の兵士を犠牲にしてそれでもなお英雄を殺すために敵を追い込んでいるのだ。


 これによりこの闘いはシンプルな図式に変わる。


 セバスVS短剣の英雄

 我・姫騎士・戦士部隊・弓部隊・魔法部隊VS竜の英雄


 要するに、王を殺すと見せかけて竜の英雄を殺す!

 今までの動きはすべてその為の布石だ!


 竜の英雄が王に殺到する戦士部隊を竜のブレス攻撃を使い、矢で弓兵を射殺す。

 兵はおとりだ。


 竜の英雄よ、兵を殺して構わん。 

 だがここで死んでもらう!

 今だ!一気に行く!


「弓兵!魔法兵!全部隊で竜の翼を狙え!」


 弓兵の攻撃が竜を狙う。

 竜に無数の矢が突き刺さり、魔法が何度も当たり竜が落下する。


「姫騎士、援護に入った戦士部隊を止めろ!」


 援護に入ろうとする戦士部隊を姫騎士が止める。


「我の出番だ!行くぞ!」


 竜め!

 竜の英雄を逃がす気か!

 そうはさせん!

 我は竜の英雄に向かって突撃した。






【竜の英雄・アーチェリー・ドラゴン視点】


「バハムート!」


「ギュウウウウウ!」


 バハムートが私を見た。


 そして私のマントを咥えて後ろに投げ飛ばした。


「ギュウウウウウ!」

「バハムート!バハムート!」


 バハムートはみんなを守るように翼を広げて前に出た。

 まるで私達の盾になるように。


 ブレスを何度も吐く。

 何度も何度もブレスを吐いて、ブレスが出せなくなり、それでも敵を踏み潰すように前に、前に走って行く。

 バハムートはたくさんの矢を受け、たくさんの魔法を受けた。


 そして武器の英雄がバハムートに迫る。


「実に良い死にざまである!バハムートか、名は覚えておこう!」



 武器の英雄が刀で斬りつけ、斧で斬りつけ、槍で突き刺し、剣で斬る。

 何度も攻撃を受けて、たくさんの矢を受けたまま、バハムートの動きが止まった。

 そして、バハムートが倒れる。



 お父さんから受け継いだバハムートが、私のバハムートが、倒れた。

 あっという間に、倒れた。


 私の目からは涙が流れる。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る