第45話

 俺は走って後方に撤退するとチョコとプリンがいた。


「やばい奴がいた!漆黒のやばい奴がいたぞ!あれが黒い死神か!」

「ど、どうしたんですか?テンションが高いですね」

「強敵から逃げ切ったからだ!俺は逃げ切った!」


 水浴び美人を見たと思ったら漆黒の男が凄い勢いで走って来た。

 あの女性は身分が高そうに見えた。

 でもその割には過酷な環境で斥候をしてたっぽいし、意味が分からない。


 色々あった。

 だが1つ言える!

 俺は逃げ延びた、生きている!


「お父様に報告しましょう」

「うん、俺が言うから報告を頼む」

「自分で言おうよ」

「俺平民だから迷惑にならないか?」


「アキ君、報告を重ねるほど情報は劣化します。アキ君が報告しましょう。さあ、行きましょう」

「グラディウス様には私の方からその旨を報告しておきます」


 兵士が俺達に敬礼した。

 俺は2人に腕を掴まれて王の元に向かった。




 本陣中央にはストレージで運ばれた家が建っていて、そこに王がいる。

 俺はまるで罪人のように2人に腕をホールドされたまま入り口前まで連行された。


「お疲れ様です!話は聞いております!」


 入り口を守る兵士が俺だけを連れて行く。


「あれ?チョコとプリンは入らないのか?」

「私は不参加ですよ。普通は報告する本人だけが中に入るんです」



 部屋に案内されると長いテーブルにライダー以外の重鎮が揃っていた。

 グラディウスとアーチェリー、クラフトも座っている。

 全員が一斉に俺を見た。 


「普通に話してくれ。で?何があった?」

「ライダーはいないんだな。まあ、助かる」

「ライダーは休息中だ」


 ライダーが邪魔なんだな。

 グッジョブだ!


「俺が見たのは……」


 水浴びの件、物凄い速さで迫って来た漆黒の男の話。

 そして何故か漆黒の男は俺を追わず水浴びをする者を護衛するように俺を追うのをやめた事を話した。




「水浴びの女性は美人だったかい?」

「は?グラディウス、何を言っているんだ?」

「真面目な話だよ。髪の色は?」

「ピンクだった」

「武器はロングソードだね?」

「そうだ」


「美人だったかい?」

「美人だった」

「王の妹、ワッフル・フレイムの可能性が高いねえ。そして、ワッフルを護衛するように追うのをやめた漆黒の男はセバスの可能性が高いねえ。ライダーを襲った男と特徴が同じだよ。力を隠していたのか」


「セバスと、ワッフル」

「その2人だと仮定して話を進めるよ。ワッフルはロングソード使いの剣聖で、エースの中で上位の強さを持っている、という情報だけどアキ、君はどう思った」

「言った通りだと思う」


「セバスはどう見えた?正直セバスの情報は少ない。少しでも情報が欲しいんだ」

「セバスがその気なら俺は殺されていただろう。俺より速度や身のこなしは上だ」


「……セバスはSランククラスの強さだと思うねえ。恐らくその隠された英雄セバスが最強だね」


 グラディウスの言葉で部屋がざわついた。


「馬鹿な!こちらは英雄が2人、だが向こうは3人ではなく4人だった!しかも1人はSランクだと言うのか!」

「兵の数だけでなく英雄の数でも負けてしますのか!」


「静まるのだ!!」


 王が大きな声で言うと皆が黙った。


「悪い部分だけではない。こちらには3人目の英雄、アキがいるのだ」


 みんなを安心させるための発言だ。

 王は士気を保つのも仕事なのだ。


「そしてフレイム王国の王は従弟や兄弟を殺しているとも聞く。王位争いのごたごたは相手の連携が崩れる隙が作れるかもしれぬ。クラフト!秘密兵器をここへ!」


 王は畳みかけるようにいい条件を出そうとしている。

 王は……苦しい立場だよな。


「ストレージ!」


 クラフトの前に大量の物が現れた。


「これが王の言った秘密兵器なのだ。アキ、お前の力になるだろう」

「こ、これは!」


 こうして会議は早めに終わった。

 王としては好材料を出したまま終わりたかったのだろう。





【3日後、レイス平原】


 森での斥候対決は何故か向こうが引き、大戦は森の中にある平原で行われる事になった。

 この場所をレイス平原と呼ぶ。


 平原でお互いに両行の軍が陣を組む。


 俺達の国シルフィ王国は3万の兵力で英雄の数は俺を入れても3人だ。


 対して敵国フレイム王国の兵は4万、隠された英雄を含めると英雄は4人となる。



 本陣の横に左翼と右翼を展開し、向こうも同じ陣を組んでいた。


 味方本陣2万VS敵本陣2万


 味方左翼5000VS敵右翼1万


 味方右翼5000VS敵左翼1万で、俺・チョコ・プリン・変態仙人・マッチョは右翼に配置された。


 今、大戦がはじまる!

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