第35話

「あ、失礼しました」

「うんうん。冗談だよね?」


「報酬の分配がまだだったな。チョコ、プリン、魔石を全部やろう。高純度に精製してあるから小さくて持ち運びしやすいはずだ」

「そう言う事じゃないわよ!出られたのよ!帰りましょうよ!」


「いや、修行中なんだ。それに魔石も鉱石も地下にいっぱいある。道も何となく覚えた」

「また泉に行く気ですか?一人じゃ危険ですよ?」

「うん、ゆっくり時間を掛けて攻略するつもりだ。次合う時はちょっとはマシになって戻って来る」


「いや、3人でまたダンジョンに潜るのも、悪くないかもねえ」

「お父さん?」


「いやね、ライダー公爵が、2人が落ちた事をアキ君のせいにしているんだよ。3人にはこのまま隠れていて貰って、その隙にライダーの罪を重くする為根回しをしたいんだよねえ」

「なるほど、ライダーに嘘をついたら罪を重くしていいと自分から言わせるんですね?」


「そう言う事、王からライダーに嘘をついていたら罪を重くするぞと言って貰って、具体的に何を差し出すかも言わせる。それを周りの貴族に見せた上でプリン様とチョコが登場する。そしてライダーから財産と優秀な兵を出来るだけ引きはがしたいんだよねえ」


 この国の4公爵は絶大な力を持つ。

 王と言えど公爵を処刑するのは難しい。

 王の意見だけで公爵を処刑出来るとなれば、それより下の貴族も王の意向1つで首を切られる可能性がある。

 そうならないよう他の貴族が止めに入る構造になっているのだ。


 そしてあいつは自分の身が危なくなれば反乱を起こすような事は平気でやって来るだろう。

 今は隣国と戦争中でライダーに有利な環境なのだ。


 更にライダー率いるダッシュドラゴン部隊は軍の規模と兵士の練度の面で、この国最強と言われている。

 ライダーの代になるまで当主は優秀だったらしい。

 そう言った理由で入念な根回しが必要となる。


 グラディウスさんの話を聞いてますますダンジョンに行きたくなった。

 ライダーが弱体して俺は強くなって出てくる。

 これが理想か。


 ライダーはマジでヤバイ。

 試合形式で俺を殺そうとして、ダッシュドラゴン部隊で皆を突き落として最後には俺のせいにしようとしている。


「でも、プリンだけはダンジョン生活に参っていた。チョコもプリンと一緒に街に行って欲しい」


 チョコが口角を釣り上げた。


「仕方ありませんね。私はアキ君と一緒にダンジョンに行きます。アキ君、2人だけのダンジョンですね」


 そう言って後ろから俺に抱きついて両手で俺の口を塞いだ。


「2人でお風呂に入って2人で一緒に寝て、お嬢様の知らない思い出を作りましょう」

「わ、私もダンジョンに戻るわよ!」


「え~?いいんですかあ?お家が恋しくありませんかあ?」

「行くわよ!離れなさい!」


 プリンが俺とチョコを引き離す。


「やっぱりプリンは王女、いや、何でもない」

「王女ですよ。もうさすがに隠してはおけませんよね」

「そ、そうね。それよりダンジョンに戻りましょう。お父様の有利になるように動くわ」


 チョコとグラディウスがにやにやしながらプリンを見つめた。


「な、何よ」

「え?言っていいんですか?アキ君と一緒にいたいだけに見えただなんて、言っていいんですか!?」

「言ってるじゃない!もう手遅れよ!」


「なるほど、王女様はアキ君の事になると感情的だねえ」


 そう言ってグラディウスはプリンが反応する前に素早く距離を取って走って行った。

 残像が見えるほど速い。


「元気でねえ!」


 親子だな。

 英雄の無駄使いだ。


 それにプリンを煽るのもうまい。

 プリンは普通に接している分にはそこまで怒らない。

 チョコはしばらくプリンをからかって遊びながらダンジョンを進む。


 俺は、ダンジョンで過ごす。

 3人なら、楽しい探索になりそうだ。

 プリンはいつでも戻れることが分かった為か表情が明るくなった。

 家に帰りたいというより、一生ここから出られないかもしれない、その思いが強かったか。


 こうしてダンジョンに潜り、レベル上げを再開した。





【グラディウス視点】


 王と段取りを済ませ、クラフトを見つけると素早く近づいた。


「クラフト公爵、元気でやっているかい?」

「グラディウスか。元気ではないな。アキは元気だったか?」

「聞きたいかい?聞きたいかい?」


「……もういい。後で話そう」

「はは、冗談だよ。アキと会ったのは……」


 僕はアキと会ってからダンジョンを出るまでをすべて話した




「ふ、そうか」

「笑った?今笑った?クラフトの笑顔を始めて見たよ」

「そんな事は無い、はずだ」


「僕と会って笑ったのはいつだったかなあ?」

「……うむ……記憶にない」


 そこにエルフの女性、英雄アーチェリーが近づいてくる。


「面白い話をしているわね」


 アーチェリーは竜の英雄にして公爵の爵位を持ち、チョコの親友でもある。

 淡い青色の髪をポニーテールで束ね、同じ色の瞳としぐさはクールな印象を受けるが内面はだいぶ違う。


「ダンジョンに遊びに行きたいんだろう?」

「あら、そんな事は無いのよ。でも親友の様子を見に行きたいのよ」

「クラフトの前で遊びの話は駄目だ。クラフトはここ数年休みなしだからねえ」


 クラフトの元に女性が走って来る。


「何サボってるんですか!仕事してください!」

「MPが切れて散歩をしていたのだ」

「MPが切れているのに歩き回れるわけないじゃないですか!」


 クラフトは常に監視が入り、常に何かを作り続けている。

 錬金術が好きなクラフトでも、あそこまでずっとだと拷問に近い。

 クラフトは英雄ではないが、武具や魔道具を作成することで国の中核を担っている。

 英雄の名は戦いに秀でた者だけに与えられる。


 だが、クラフトの作る武具は英雄の働きに匹敵する力を持っている。

 クラフトがいなければこの国の兵は慢性的な装備不足に悩まされていただろう。


 クラフトは連行されていった。


「ああはなりたくないねえ」

「まったくね」


「……王の、気配がするねえ」

「……そうね」

「僕もクラフトと同じ目に合う気がするよ」

「私も嫌な予感がするわ」


「丁度いい所にいた。魔物が暴れ回っていてな。丁度大きい案件が2カ所だ」


「……」

「……」


 その後2人の英雄は魔物狩りに出かけていった。



 クラフト・ワーク公爵

 グラディウス・ダガー公爵

 アーチェリー・ドラゴン公爵


 この3人はいつも忙しい。

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