第25話

 ミルクさんが落ち着き、魔物狩りに出発するとミルクは女性冒険者のダッシュドラゴンに乗せられて移動する。


 だが変態仙人が妙に笑顔だった。

 あの笑顔が怖い。


「ん、あっちの方向に魔物がいる!」

「ワシがいく!」


 変態仙人が走り出した。

 あのじじい、元気だな。


 変態仙人が戻って来ると、両脇にシャドーウルフを抱えている。

 

「さあ、ミルク!倒すんじゃ!シャドーウルフが暴れてワシにナイフが刺さっても一向にかまわん!さあ、倒してレベルを上げるんじゃ!」


 あいつ!ミルクさんにナイフで刺して欲しいだけじゃないか!

 だが、あれをやってくれるならミルクさんのレベルは思ったより早く上がるだろう。


「ミルクさん、早く!」


「えい!えい!」


 ミルクさんは目をつぶってナイフを突き刺す。

 変態仙人は攻撃を受けていないのに興奮したように吐息を荒くした。


「れ、レベルが上がり、ましたあ」


「うむ、刺されるか分からんこの感覚、たまらんのお!アキ、次じゃ!」

「次は少し遠いけどあっちだ」


 変態仙人とマッチョは走る。 

 俺もついていく。


 2人とも速い!

 追いつけない!

 それでもヒールの為に速度強化は使わない!

 8体のシャドーウルフが唸り声を出しつつ俺達を睨んだ。


「シャドーウルフか。丁度いいぜ」

「ワシが2体を貰う!」


 変態仙人は素早い動きでシャドーウルフを2体捕まえて戻っていく。


「間引きが必要だな」


 マッチョはパンチで4体のシャドーウルフを倒すと、2体を弱らせて両腕に抱える。


「素材はやるぜ。俺も戻る」


 あの2人が別格で強い。

 変態仙人もマッチョのように弱らせて持って行けばいいんだけど、言っても聞かないだろうな。


 俺が戻るとミルクさんのレベルはまた上がっていたようだ。


「思ったより余裕じゃねえか。次は全部捕まえてミルクの経験値にするか」

「ふぉっふぉっふぉ、若かりし頃を思い出すのお」


 変態仙人が何を思い出しているかは分からないがどうせろくでもない事だ。


 先に進むとたくさんの反応を感知した。


「魔物が32体、あっちだ」


 変態仙人が走り出す。


「全員で向かう!変態仙人に続け!」

「「うおおおおおおおおおおおお!!」」


 変態仙人を追うと、シャドーウルフの群れがいた。

 シャドーウルフが多い。

 シャドーウルフは気配を消して奇襲を仕掛けてくるから斥候スキルを持っていないパーティーにとって脅威だ。


 変態仙人は何度もミルクさんにシャドーウルフを持って行く。


「たまらん、おなごにいつ刺されるか分からぬこの緊張感がたまらんぞい!」


 順調だ。

 順調すぎる位ミルクさんのレベルが上がっている。

 冒険者も怪我を恐れずシャドーウルフに向かっていく。


 あっという間にシャドーウルフは全滅する。


「アキ、回復を頼むぜ」

「ヒール!ヒール!ヒール!ヒール!ヒール!」


「アキ君、ありがと」

「助かるぜ」

「また次も頼む」

「ありがと」


「どういたしまして。そろそろ食事の準備をしたい」

「もうそんな時間か。料理は頼むぜ」


 出来た料理をストレージから出すと評判が悪い。

 その場で料理した物をみんな食べたがるのだ。


 俺は調理器具と材料をストレージから取り出す。

 ファイヤで薪に火を起こし、大鍋をセットし、水魔法で鍋に水を入れる。

 ベーコン、野菜、キノコ、ハーブ、を順番に切って大鍋にぶち込んでいく。

 そして塩コショウで味を調える。

 これでスープの完成だ。


 更に串に刺してある魚や肉を火の周りに刺して焼く。


「いい匂いがするね」

「一食いくらだ?」

「無料だ」

「マジでか!」


 マッチョが焼けた肉を食べる。


「塩を振ってないぞ」

「その割には、うまいじゃねえか」


 俺はマッチョに塩と皿を差し出す。


「悪いな」


 そう言いつつマッチョは遠慮せず魚も肉も食べていく。

 串焼きを追加するか。


「ねえ、スープは出来てるの?」

「出来てるぞ」

「貰うね」

「あ、パンもあるから」


 俺はストレージからテーブルと机、パンを出す。


「凄すぎる!」

「パーティーに欲しいわね」


「おい、パンがうまいぜ!」

「ファースト村のパンだからな」


 故郷のパンは評判がいい。

 しかも異様に安い。


「おお!うまい!」


 みんな食欲がある。


 食事は好調で、俺は2時間ほど串焼きを焼き続けていた。

 その間にマッチョが会議を始める。

 その間串焼きを手から離さない。


「アキがいる今の内に効率よく魔物を狩っておきたい。3チームの斥候部隊を編成し、ここを拠点に魔物をおびき寄せる!もちろん斥候チームには報酬を多く出す!」


 編成が決まり斥候部隊が出撃する。


「Aチーム、北を探索します!」

「Bチーム、東に向かいます!」

「Cチーム、西に向かう!」


 街に向かう方向以外すべての探索に向かった。

 どんどん効率化されている。


 俺はひたすらサポートに徹して荷物持ち、回復、斥候、料理、武具修理、キャンプ設営を行った。



 

 ◇




【7日後】


 俺達はギルドに帰還した。

 ミルクさんのレベルは上がり、何故か変態仙人は少し若返って見えた。

 俺はミルクさんをおんぶして歩く。

 ミルクさんは気持ちよさそうに眠っている。



 受付嬢が出迎える。


「お疲れさまでした」

「アキ、解体場に来てくれ」


「い、嫌な予感がします」


 受付嬢が汗を掻く。


 俺は解体場で魔物を吐き出した。


 そこには大量の魔物が詰まれる。


 受付嬢が叫ぶ。


「皆~!ヘルプミ~!」


「ギルド長!多すぎるぜ!」

「がはははは!頑張れよ!」

「事務処理もきついですよ!」

「今月の給料は期待してくれ!たっぷり働こうぜ!」


「皆!残業確定です!」

「冒険者の皆さん、報酬の支払いにはしばらく時間がかかります!最低でも明日、いえ、明後日以降に計算が終わります」

「至急報酬が必要な方は申し出てください!ひとまず1人5万ゴールド以上は確定しています!」


 ギルドの解体班と受付嬢は忙しそうに動き回る。

 俺は宿屋にミルクさんをおんぶして宿屋に帰った。



 ミルクさんを部屋のベッドに寝かせるとミルクさんが俺に抱きついた。


「アキ君、一緒に寝るう?」

「お、俺は子供なので」


「大人になったら一緒に寝るのお?」

「お、大人になったら考えます」


「待ってるよお」


 ミルクさんは眠る。

 寝ぼけているのか、本気なのか分からない。


 俺は部屋を出た。





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