第21話

 ミルクさんと宿屋に帰るとチョコとプリンがいた。


「聞きましたよ。訓練が一段落したんですよね?」


  チョコはそう言ってプリンを見た。


「明日は一緒に食事に行きましょう」

「私も行きたいなあ」


 ミルクの言葉でプリンの表情が曇った。


「回復魔法で忙しいんじゃない?」

「アキ君が手伝ってくれてるから半日なら休んでも大丈夫う」

「皆で行きましょう」


 4人で食事に行く事が決まったがプリンは不機嫌だった。





【次の日、宿屋ロビー】


 ゆっくり起きてロビーに向かうと、全員揃っていた。


「おはよう。皆早いな」

「そうですね。お嬢様は朝早くからここで待っていて可愛かったですよ」

「そ、そんなに早く来てないわよ!」


「集合時間より少し早いけど、カフェに向かおうか。朝食を食べてないんだ」

「アキ君、行こう」


 ミルクさんが保護者のように俺の右手を取る。

 プリンが手刀でつないだ手を断ち切り、間に入り込んだ。

 チョコは面白いおもちゃを見つけたような顔をして俺の左腕に絡みついた。


「元気に行きましょう!」

「あー!」

「お嬢様?どうしました?アキ君とこうしたいならそうすればいいじゃないんですか」

「もう着くよお」


「早かったな!」

「宿屋から徒歩3分の場所ですから」


 店に入ると、2人ずつ並んで座る四角いテーブル席に案内された。

 プリンが最初に座り、俺を見て横の席をポンポンと叩く。


 プリンの横に座ろうとすると、ミルクさんが反対側に座って俺に声をかけた。


「アキ君、メニューが面白いですよ」


 そう言って俺の袖を優しく引っ張った。

 俺はプリンではなくミルクさんの隣に座った。


「天然、恐ろしいですね。お嬢様、次からはアキ君が座る前に袖を掴んでおきましょう。それと空気が読めない事もある種の才能です」


 そう言いながらチョコはプリンの横に座る。


「俺はランチセットのライスハンバーグにする」

「私はボンゴレにします」

「私はアキと同じのにするわ」

「私はチーズスペシャルにしますう」


 注文が終わると、プリンが話し始めた。


「最近回復魔法の調子はどう?安く使われてない?」

「1回ヒールを使うだけで10000ゴールド貰える。かなりいいぞ」

「もうヒールを覚えたんだし、ミルクさんと一緒にいなくていいんじゃない?」

「そ、それは困るよお。アキ君がいないと男の人が寄って来るからあ」


「そ、そうなのね。でも魔導士なら撃退できるんじゃない?」

「私、レベル5なのよ。あ、そうだ!アキ君にレベル上げを手伝って貰いたいなあ」

「れ、レベル上げなら私が手伝うわ!」


「え~!でもプリンちゃんはレベル20越えで期待の新人でしょお?」

「もう20を超えたのか!」

「そうね、アキのレベルは13だから、次はレベル26を目指すわ!」


 俺の倍までレベルを上げる気か!


「どんどん置いて行かれるな。あと数日で回復魔法の予約患者を消化できるからレベル上げもしたいけど、それが終わったら他のスキルを学ぶようギルド長にお勧めされてるんだ」

「アキ君、まずはスキルを磨いた方がいいと思いますよ。特にものまね士は万能を目指した方がいいです。覚えられるスキルや上げられるスキルは全部やっちゃいましょう」


「そう、アキ君と一緒に魔物狩りを出来ないかなあ」

「あ、アキはスキルを磨いた方がいいと思うわ!」


 プリンは少し焦ったように言った。


「スキルが先か。ギルド長にどのスキルを訓練するか聞いていなかった」

「食事を食べたら聞きに行きましょう」


「そうだな、プリンの冒険者ランクは?」

「今Dランクよ」

「高いな。おれはFだ」

「お嬢様なら活動を続けるだけでCランクまですぐに行けます」


 プリンはレベル20でDランクか。

 Cランクは熟練冒険者のカテゴリーだ。

 Cランクに指名で依頼が入る事もある。


「レベルを上げたくなってきた」


 そこに食事が運ばれてくる。


 ミルクさんのチーズスペシャルが気になっていたが、大量のチーズが入ったパスタと、ハンバーグが乗っていた。

 店員さんがスマートな動作で食事をテーブルに置いた後、ミルクさんのパスタとハンバーグにこれでもかとチーズを雪のように削りながらかけていく。


 ただでさえ多かったチーズが更にチーズまみれになる。

 店員さんが礼をして去って行くとミルクさんはハンバーグにナイフを入れる。

 すると中からとろとろのチーズがあふれ出す。


 これが、チーズスペシャルか。

 美味しそうだな。


「アキ君、食べたい?」

「そうですね」

「あーん」


 あーん、だと!

 俺は口を開けて中も外もとろとろのハンバーグを口に入れて貰った。


 プリンが目を見開いてそれを見ている。

 チョコは悪戯な笑みを浮かべた。


「アキ君、あーん」


 チョコがパスタを俺に差し出す。

 俺はチョコのパスタを食べる。


「お嬢様はやらないんですか?」

「は、早く食事を終わらせてギルドに行きましょう!ギルド長がアキにどんなスキルを教えるか気になるわね。仙人と呼ばれる人よ。きっとスキルレベルは高いはずだわ!アキ、楽しみね」


「……」

「……」


 ミルクさんとチョコはプリンを見た。


「お嬢様、あーんはいいんですか?」

「プリンちゃん、アキ君の事が好きならあーんをしたほうがいいよお?」

「わ、私トイレに行って来る!」


 プリンは真っ赤になってトイレに向かった。


「ミルクさん、お嬢様のHPはゼロですよ」

「え?でも好きなら好きって言わないと分からないよお」

「……そうですね。ミルクさんは同性から嫉妬されたりしませんか?」

「ど、どうしてわかったのお!」

 

 今回の食事会は変な空気が流れ続けたまま終わった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る