第5話

 司祭が村にやってきた。

 そう、今日は待ちに待ったジョブの授与式だ。


 俺はチョコと両親に連れられて教会にたどり着いた。

 

 村の男がプリンに手を振る。

 だがプリンはプイと顔を背ける。


 プリンの以外な一面に驚くと、チョコが耳打ちした。


「アキ君の悪口を裏で言っているみんなが嫌なんです」


 そう言う事か。

 陰口は言われるだろうな。

 俺は周りから見て美人と一緒にイチャイチャしているように見えるだろう。

 それだけじゃない。

 みんなから俺は、屋敷で遊んでお菓子を食べているずるい人間と思われているらしい。


 俺達は人込みから離れて、儀式の様子を見守る。

 20代ほどの女性司祭が祈り、ジョブを申告する。


「あなたのジョブは剣士です」

 

 俺と同年代の男が飛び上がって喜ぶ。


「やったああ!剣士だ!」


 剣士は当たりだ。

 身体強化と剣術を覚え、戦闘力が高い。

 だが、彼が冒険者になるかどうかは分からない。


 1度冒険者になっても死にかけて戻り、二度と冒険者ギルドに戻らない者、そのまま死んでいく者と様々だが、長く冒険者を続けられる者は多くは無い。

 有利なジョブを授かるだけで続けていけるほど冒険者は楽な職業ではないのだ。


 その後も儀式は続く。


 槍使い

 魔導士

 剣士

 斥候

 運び屋


大体戦士系・魔導士・錬金術・斥候だな。

運び屋は斥候の亜種だ。


 俺、いや、残されたプリンに注目が集まる。


「緊張するわね」

「大丈夫だ。行こう」

「うん」


 プリンが司祭の前に立つ。


「あなたの能力は……忍者!忍者です!おめでとうございます」


 歓声が巻き起こる。


「レアジョブだぜ!」

「ああ、斥候の生存能力と戦士の能力を併せ持ったジョブだ」

「やっぱりお嬢様は違うのね」


 忍者か。

 すばしっこいプリンに向いている。


「アキ!やったわ!忍者のスキルも覚えたの!」

「おめでとう」


「アキ、残るはあなただけよ」


 母さんと父さんが背中を押す。

 やりにくい。

 最初に済ませておくんだった。


 司祭の女性が祈り終ると悲しそうな顔をした。


「その、すいません」


 ステータスを見てその理由が分かった。

 ものまね士か。

 外れジョブだ。


「いえ、いいですよ。気にせず言ってください」

「あなたのジョブは、ものまね士です」


 周りからどっと笑いが巻き起こる。


「ぎゃははははは!ものまね士だって!」

「しー!そんなに言っちゃかわいそうでしょ!」

「最後に面白い落ちだったな、ははははは」


 母さんが僕を抱きしめる。

 父さんは俺の肩を叩いてなぐさめた。


「アキ、ごめん、私!」

「プリン、気にしなくていい。本当に気にしていないんだ。帰ろう」


 俺達はプリンの屋敷に戻った。

 父さんと母さんは悲しそうに家に戻っていく。




 ◇




 チョコがメガネをかけてジョブ訓練の作戦会議を開く。


「まずお嬢様は刀・投てき・感知などの覚えたスキルを伸ばしていきましょう。お嬢様の訓練が大きく変わる事は無いです」


 プリンが心配するように俺を見た。

 

「大丈夫ですよ。アキ君は気にしていませんから」

「そうだぞ」

「ですが困りましたね、ものまね士はメリット以上にデメリットが大きいんです。デメリットはレベルアップとスキルレベル5以降の経験値が2倍に上昇します。更に固有スキルを覚える事が出来ません」


 そう、ものまね士は一言で言えば器用貧乏だ。

 レベルアップに必要な経験値が2倍だから能力値を伸ばす事が難しい。

 スキルは『ものまね』のスキルでレベル5までならすぐに取得できるがそれ以降は伸び悩む。

 固有スキルは剣士の場合スラッシュやラッシュのように剣の斬撃や連撃を使えるゲームで言うアーツのようなスキルだ。


 スキルをものまねで楽に覚えられるけど、固有スキルや占い師の占いなどの特殊なスキルは覚える事が出来ない。


 仮に剣士のスキルをすべて覚えても剣士と同じような固有スキルを覚える事は出来なず、レベルも上がりにくい。

 そしてものまね士のものまねは特殊スキルのカテゴリーに入るが占いのように自分だけが出来るスキルは無いためそこまで重宝されないらしい。


 頑張っても何も極められないけどそこそこ出来るようにはなる。

 そんなジョブ、それがものまね士だ。


「アキ君のステータスを開示してもらえますか?」


 ステータス開示の意志を示す事で他の人もスキルを見る事が出来るのだ。



 アキ 人族 男

 レベル    1

 HP 34/35

 MP   40/65

 攻撃 56   

 防御   31

 魔法攻撃 45

 魔法防御 30

 敏捷   68

 ジョブ ものまね士   

 スキル『ものまねレベル3【NEW!】』『瞑想レベル3』『水魔法レベル3』『炎魔法レベル3』『スタミナ自動回復レベル3』『短剣レベル3』『弓レベル3』『風魔法レベル3』『土魔法レベル3』『光魔法レベル1』『闇魔法レベル1』『訓練効果アップレベル1』



「ものまね士になったばかりなのにものまねのレベルが3なんだ。おかしい」

「本当ですね!きっと今までのスキル取得が効いてるんですよ。レベル3はかなりいいですよ!」


 俺はものまねの能力を確認する。


 メリットは次の2つだ。

 相手のスキル使用を目視する事で取得できる経験値が300%アップする。

 相手が使用したスキルをものまねする事で取得できる経験値が300%アップする。


 強い!

 弱いと言われていたけどものまねレベルが上がれば強い!

 確かものまねレベル2までは経験値上昇の効果が薄かったはずだ。



 ものまねスキルはメリットとデメリットが極端だな。

 でも、固有スキルを覚えられないとはどこにも書いていない?


「まずはスキルレベル5まで上げられるスキルを全部上げたい。そこまで出来たらまた考えたいな」

「いいですね!まずは私と闘ってみましょう!」


「え?」

「私と闘いながらものまねを発動するんです。危機感があった方がスキルは上がりやすいですからね。ものまねの基本はミラー返しですよ」


 チョコは木の短剣を俺に渡して、お互いに構えた。

 チョコが斬りこんでくる短剣をものまねで返す。

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