第26話 天国の一夜、それは…
アストリアとサヤに縛られて放置されたミユウは、森の中で出会った獣人族シュナ・アルペルトによって助けられ、彼女とその一晩を一緒に過ごすことになった。
日が落ちて暗くなり、シュナはミユウの近くで火を焚き、夕食を作り始めた。
動くことができないミユウは“自分がとある理由により要塞に10年間拘束されていたこと”“最近要塞から逃げ出したこと”“逃走中に許嫁であるアストリアと出会い、その時彼女に魔術印を印され、女体化してくすぐりに極端に弱くなったこと”などを説明した。
自分で説明していても、なぜこのようなことになったのか未だに頭で整理できていない。
シュナは料理をしながらミユウの話に耳を傾けていた。
「なるほど。じゃけんさっきこしょこしょしたときにあんな苦しそうじゃったんか。それやのに容赦のうやってすまんのう」
「いいよ。先にいわなかったあたしが悪かったんだから」
「もしかして、今縛られとるんってそのアストリアというやつのせいなん?」
「うん。正確にはアストリアと妹のサヤにだけど」
「おっかないのう。じゃが、そこまでされるなんて只事やないで。君ほんまに何やったん?」
「あまりにもどうでもいい理由だから!き、気にしないで!」
「そうか?まあ、別にええけど…」
「そういえばシュナはどうしてこんな森の中にいたの?」
「実は最近まで数人の仲間と一緒に旅をしとったんじゃけど、数日前に喧嘩してしもうてバラバラになったんよ。その後、一人で旅しよったら迷うてしもうたんじゃ。ボクは昔から方向音痴でのう。いや~、自分のことながら情けない話やで」
「けど、そのおかげでシュナと出会えて助かったんだから、なんだか運命を感じるよ」
「あはは。そんな大げさな……」
しばらくミユウは料理をするシュナの横顔を眺めていると、シュナはそれに気付いた。
「何じゃ?ずっとうちの顔を見て」
「いやね。シュナの耳って何の耳なのかなって思って」
「これはのう犬の耳じゃ。ボク“犬型”なんよ」
「犬型?」
「獣人族と一言でいうてもいろんな種類があってな。猫や熊、猪ていうんもおったな。そん中でもボクは犬の特徴がある“犬型”という訳じゃ」
「へえ。それじゃシュナの一族は全員“犬型”ってこと?」
「そういう訳でもないんよ。獣人族の遺伝はちょっと奇妙で、両親が“犬型”じゃいうても絶対にその子どもが“犬型”になるわけでもないんじゃ。うちのおとんは“狼型”じゃし、おかんは“猫型”じゃし。ちなみに人間と獣の割合いうんも人によって違うんよ。うちはどっちかいうと人間の割合が多い方なんじゃ」
「へえ。それじゃ、その訛りも獣人族独特のものなの?」
「昔のボクはミユウみたいなしゃべり方しよったよ。これは一緒に旅をしよった仲間の訛りを真似しよるんじゃ。何か強そうでかっこええじゃろ?」
シュナは誇らしげにふさふさのしっぽを大きく振る。
「へえ。そうなんだ。あたしは“かっこいい”というよりか“かわいい”と思うけどね」
夕食を作り終えたシュナは彼女用とミユウ用で皿を用意し、それぞれに料理を盛り付けて食べ始める。そして、縛られて手足が動かないミユウのために、シュナは自分の膝上に彼女の頭を乗せて食べさせた。
久しぶりに口にした温かいスープの味がミユウの全身に染みわたる。
「何から何までごめんね」
「えへへ。なんかボクがおかんになった気分じゃのう。ずいぶん大きな子供じゃけど……」
シュナはミユウの頭を優しくなでる。わずかに漂うシュナの香りにミユウは無意識に心を落ち着かせていた。少し恥ずかしいけど悪くない。
「ミユウは甘えん坊じゃのう。今日はボクが一緒にいてあげるけん、安心して寝えや」
「ひゃ~い」
ミユウはそのまま眠りについた。
そして、拘束されてから9日後の夜が過ぎていく。
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