第19話 ハングオーバー!! 二日酔い、まさか3話へ股をかける
「わしの知らぬ間に何か面白いことが起こってしまうんじゃないか。そんな不安がわしの胸中を駆け巡っておったんじゃ——この予感は見事に的中じゃった。すぐにアイノエとトウマを見つけたんじゃからの」
「もっと他に気に掛ける事があるだろう」
仮にもこの村の村長なのだから。だからいつまで経ってもお前の家は直してもらえなんだ。
そんな言葉は胸の内に秘めておくことにする。
「もはや運命と言っても過言ではなかったじゃろう。わしは微塵の迷いも無くこの2人について行こうと、瞬時に決意してしまったんじゃからの。さらにネケミコの店に行くと言うんじゃからなおのことじゃった」
「それだっ!」
抜け落ちていた記憶の空白に、ものの見事にピースが嵌ったようだった。
そうだ、一昨日の夕飯時、アイノエの提案でネケミコの店で夕飯を食べようという話をしていたんだった。
僕はアイノエとのデートだと1人で浮かれていたのだが、
「こんな面白そうなことを村長としと見逃せるはずもなかろう——のぉ?」
ベルイノの餌食になったということなのか……
当然のように同意を求めてくるあたり、いったいどういう心境なのだろうか。
そしてベルイノの言う「村長」とは、いったい何をする役職のことを指しているのか。
こいつは一生野宿をしていればいいと思ってしまう。
ところで、
「タトレラさんとクルルクさんたちも一緒だったのか?」
当初の予定ではアイノエと2人で夕飯を食べる予定だったはずだった。
ベルイノが一緒だったの分かったが、それがどうしていつものメンバーみたくなってしまっているのか。
まさかあの2人が、ベルイノのごとく野次馬根性を見せるとも思えないが、
「偶然会ったからわしが連れてった。人数は多い方がいいじゃろ?」
「お前かよっ!」
「いやいやまさか、プルジャはタトレラが声を掛けておったぞ」
「プルジャさんもいたのかよっ!」
想像以上にハチャメチャな夕飯となっていたようだった。
しかし、この程度と言ってしまうと自分でも悲しくなってくるが——この程度のことであれば日常茶飯事。ベルイノの思い付きでもっと酷いことに付き合わされることだってあるのだから。
にも関わらず、ベルイノの口振りではアイノエは相当に怒っていたようだし、なによりも僕を避けている原因が分からない。
「状況は分かったから、事情を話せよ。どうしてアイノエさんは怒ったんだよ」
「……それは、のぉ……クルルクじゃ! クルルクが酔っぱらってみんなに酒を飲ませたんじゃ。わしは止めたんじゃがな、クルルクの奴め酔っぱらっておって全く言うこと聞かなかったんじゃ! わし、村長なのに! それでみんな酔っぱらってしまっての、トウマも酔ってしまったんじゃな……それでアイノエが怒ったんじゃ」
「なるほどな」
「アイノエめ、いつもわしが怒られておるからって、クルルクが悪いのにわしのことを怒っておるんじゃ。じゃからトウマからも、わしは悪くないってアイノエを説得して欲しいんじゃ。こんな理不尽なことはないじゃろ? 悪いのはクルルク達なんだから!」
ベルイノは同情を誘うように、「理不尽じゃろ?」と上目遣いで同意を求めてくる。
たしかに今のベルイノの話では、あまりにも理不尽な話だ。
しかし今のベルイノの話にどれだけの真実があったのだろうか。
「よし、僕はちょっとネケミコさんの店に行ってみるわ」
「それはダメじゃっ!」
「うぉっ⁉ なんだよっ!」
腰を上げた途端、その腰にベルイノが縋りついてきた。
「ネケミコの店へ行ってはならん! 今行くのは良くないんじゃ! ネケミコも困ってしまうはずじゃ!」
「食事をしに行くんじゃなくて、話を聞きに行くだけなんだから問題ないだろ」
「そうじゃっ! そういえば今日は休むって言っておった気がするの。今日行ってもネケミコはおらんかもしれん」
「昨日再開ってアイノエさん言ってたぞ。再開した翌日に休まないだろ」
「……とにかくダメなんじゃ~!」
「おっまえっ! ゼッタイ嘘言ってやがるだろっ!! はなせっ!」
「違うんじゃ~! わしは悪くないんじゃ~!」
そして、纏わりつくベルイノを、半ば引き摺るようにして辿り着いたネケミコの店は、
「……なんだよ、コレ」
随分と風通しの良いことになっていた。
出入口と呼べる箇所というか、出入口があったであろう壁が半分ほど無くなっている。
道の端には瓦礫が山になっていて、細かい破片が道のそこかしこにあるあたり、内側から破壊されたことは明白だった。
「……プルジャの仕業じゃ。あいつたまに理性を失うからの」
ベルイノの話に聞くにあたいせず。
店内の方は目立った損壊はないものの、無造作に床に一つだけバケツが置かれていた。なんだろうと思いながら視線を上げてみると、屋根板にちょうどヒトの頭ほどの大きさの穴が開いている。
「ごめんくださーい」
店内に入って、店に奥に向かって恐々と声を掛けると、明らかに機嫌の悪そうな返事がすぐにあった。
それからバタバタとよく響く足音が聞こえてくると、後ろに控えていたベルイノは「わし用事があったんじゃった」と、呼び止める暇も無く颯爽と走り去ってしまった。
「このクソ忙しい時にどこのどいつだい! 今日のあたしゃ虫の居所が悪いんだよ!」
姿が見えるよりも先に、そんな怒気の混じった声が飛んできて、一人になってしまったことが急激に心細くなってくる。
まさかこんなことになろうとは……あんなベルイノでも、帰らせるべきじゃなかった。
「さっさと用件を言いなっ!!」
「すみませんでしたっ!!」
声の主が姿を現すと同時に——むしろその姿を認めるよりも先に、土下座した。
「本当にっ! すみませんでしたっ!」
「あらっ⁉ あんた人の子の……トウマだっけ? どうしたんだい?」
声からしてマジで怖かったから全力で謝ったが、そう言ったネケミコの声から怒気は消えていた。
「昨日は本当に災難だったじゃないか。あたしゃね、あんたのことが不憫でならなくってね、本当に心が痛むよ」
それどころかメチャクチャ同情してくれる。
しかし今度は今までとは逆で、ネケミコの方が全ての事情を知っているようで、全く話が見えてこない。
「あのー、昨日何があったんですか? 記憶が全く無くって、知っている人を探してたとこなんです」
顔を上げると、三角の耳がツンと立った女性が立っていて、飲み屋のママといった雰囲気があるが気の強そうな顔をしている。
「そうだったかい……まあ、あんなになってたら無理もないね。アイノエとはどうなんだい?」
「……今朝、思いっきり避けられました」
「そりゃ不憫だったね……全部ベルイノのせいだよ! どれもこれも全部ね!」
「そんな気はしてました!」
「ほら、昨日のこと聞かせてあげるからここに座りな」
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