第2話 先生、弟子にお世話される
「先生、は~い♪ ボ~ル、転がすよ~♪」
「あぶ~っ♪ (教え子に遊ばれてるけれど、なんか楽しいな)」
「テディもケイ先生も、楽しそう♪」
「そうね、仕事で疲れた心が癒されるわ♪」
日曜日の良く晴れた青空の下。
白い石壁の小屋の庭、丸太のベンチでメープルとベアトリスが談話し赤ん坊になって生まれ変わったケイとテディは緑の芝生の上でボール遊びをしていた。
テディがあちこちに転がすボールをケイは追いかけて、テディにボールを返してはテディがまたボールを転がしてと全身運動をしていたケイであった。
前世の死亡前は、自分が弟子の人生を縛ってしまうのが嫌だったが弟子たちが家族としている今生の暖かさは心地よかった。
ボール遊びはテディが勇者の仕事の時は無しだった。
「先生や皆の為に、勇者のお仕事は頑張るの! 先生みたいに困ってる人達をお助けするの!」
そう言ってテディは鎖鉄球を背負うと、庭に出て空を飛ぶ魔法で事件の現場へと飛んで行った。
「あぶ~~♪ (テディ、気を付けてな~♪)」
「いてらっしゃい、テディ~♪」
ケイとメープルは、出動するテディを見送った。
そんな日々の中、いつの間にか頭にティアラを被ったピンクのドレスのお姫様とテディに似た金髪の熊獣人のジュニアが彼らのボール遊びに加わった。
「先生~♪ ジュニア~♪ 行くよ~♪」
「大賢者の生まれ変わりで聖女の御子様と我が子が遊ぶ、幸せですわテディ様♪」
「僕も、姫がお嫁さんになってくれてジュニアも生まれて♪ こうして、先生達と暮らせて幸せなの~♪」
テディは、何時の間にかお姫様様と結ばれていたんだとケイは気づいた。
大人の姿で祝いたかったと少し悔みつつ弟子が幸せになった事を喜び、弟子の息子と仲良く遊んだ。
ジュニアもケイに何故か懐いて来た。
愛すべき仲間と新たな出会い、ケイは弟子と神が与えてくれたやり直し人生を楽しむ事にした。
「……む、村が凄い都会になってる~っ!」
「先生の前世の最後から、私達で村を大発展させたのよ♪」
赤ちゃんから幼児になったある晴れた日の事。
前世の弟子で今生の母であるメープルに連れられて、テディのお古の黄色のチュニック姿で初めてのお出かけを体験したケイ。
土の道はレンガ敷に変わり、建物や人が増えているわ見知らぬ城が立っているわと世界が変わった事を実感した。
「あれ、ここは雑貨屋さんじゃなかったの?」
「ええ、あれからデパートに急成長したの♪」
「凄すぎる!」
樵の夫婦が経営していたログハウスの雑貨屋が、五階建てほどの巨大な四角いレンガの建物に変わり果てていた。
「売っている物とか働く人は増えたけど、このご褒美飴とかは変わらないの♪」
「うん、している物があって安心した♪」
中身がガラリと変わり、あちこちに野菜や食べ物の売る場ができていて困惑する中でメープルに連れていかれたお菓子売り場。
そこでケイが彼女に見せられたのは、コルクの蓋がされた虹色の飴玉の入った瓶。
前世で弟子達に、ご褒美として買い与えていた物がまだ売られていた。
「あれ? 売り場に何か書いてある? 勇者を育てた伝説の味、ご褒美飴っ! 誇大広告じゃない? しかもテディ達が監修済みって!」
「先生が赤ちゃんの時に、雑貨屋さんに頼まれて♪ この飴、街の名物お菓子になったの♪」
「樵のおじさん達、商売上手だね」
「今じゃ、大商人の仲間入りしてるわ♪」
「この飴買って帰ろう、テディもベアトリスもジュニアも女王様も皆で一緒に食べよう♪」
「……はい、先生♪ 先生も生まれ変わったけど、変わってない♪」
「昔も言ったけど、変えたりしなくて良いのもあるんだよ♪」
買い物をして、デパートを出て向かった先は見知らぬお城だった。
「ここは、ケイ・ローン勇者学園♪ ベアトリスが校長で、先生がこれから通う学校よ♪」
「それはわかったけれど、あの像は恥ずかしいよ~!」
城の中に入って、入り口のすぐそばにあった物にケイは恥ずかしがる。
それは、未來を示すかのように指を天に突き上げた若い男性の足元に三人の少年少女達が集っていると言う内容の銅像であった。
台座には若き賢者と幼き勇者達と記されている、前世の自分と幼い頃のテディ達だと気付いたケイは赤面した。
「ベアトリスが気合を入れて作ったの♪ あの子も先生の事大好きだから♪」
「いや、ベアトリスはやりすぎだよ~!」
「私は、ベアトリスは凄いと思う♪」
「情報量が多すぎる、幼児の頭には疲れたよ」
「あらあら♪ じゃあ、そろそろお家に帰りましょうね♪」
ケイとメープルが歩いて小屋に帰って来ると、庭には四人の人物が待っていた。
「先生~♪ メ~プル~♪ お帰りなさいなの~♪」
明るく伸びた口調で挨拶をする、黄色のチュニックに赤マントの青年テディ。
「お帰りなさいませ、
テディの隣に立つ、ピンクのドレスの女王陛下。
「二人とも、お帰りなの~♪」
父親と服装も話し方もそっくりに挨拶する、ジュニア。
「ああ♪ お帰りなさい、先生♪ メープル♪」
金髪縦ロールに赤いドレスで、少女の姿のままのベアトリス。
「皆、ただいま~♪ 飴を買ってもらったから、皆で食べよ~♪」
ケイが皆に虹色に輝く飴玉が入った瓶を見せた♪
「「わ~~~い♪ ごほうび飴だ~~~っ♪」」
ジュニアとテディとベアトリスは満面の笑みになった、女王様とメープルはクスクスと微笑んだ。
「もう♪ ジュニアまで、ごほうび飴に夢中ね♪」
「ええ、好みもテディ様に遺伝するようです♪ 私もkの味は好きですけど♪」
母となった女王とメープルが笑顔で語り合う。
「テディ? 晩御飯前なんだから、皆で一個ずつよ?」
「わかってるの~っ! ならベアトリスも、魔法で増やすのは無しなの!」
「私は賢いから、校長室に買い置きがあるもん♪」
「ベアトリスはずるっこなの~っ!」
「魔王退治の旅の間、あんた達に私の飴を分けてあげてたじゃない!」
言い合いになるテディとベアトリス。
「……変わらないなあ、二人共♪」
「我が友ケイ~♪ 飴食べたら、パパや校長とボール遊びしよ~♪」
「そうだね、ジュニア♪ おやつを食べた分は、晩御飯までに運動してお腹を空かせないとね♪」
「うん、おやつも晩御飯もしっかり食べるの♪」
「そうそう、食べた後は歯磨きもして夜は楽しく寝よう♪」
弟子の子供にして、新しき友達のジュニアの提案に頷くケイ。
ボール遊びの言葉に、テディとベアトリスが争いを止める。
「……ボール遊び♪ 任せてなのっ♪」
「そうね、今の私ならボール遊びでもテディに負けない♪」
「あらあら♪ なら、私も久しぶりに混ざるわ♪」
「私も参加いたします♪ 新しい国のスポーツのヒントになりそうなので♪」
皆で笑顔で飴を食べて、笑顔でボールで遊ぶ♪
他愛無いけれど、楽しく掛け替えのない忘れられないひと時をケイ達は過ごした。
後にこのボール遊びは勇者テディの名からテディボールと名付けられ、世界に広り時代を越えても遊ばれる球技となった。
そんな幼児時代を過ごしたケイは、自分の名前の付いた学校に通う事になった。
黄色いケープの下は、上下が黒のブレザーにズボンと言う制服姿になったケイ。
メープルが仕事で参加できない為に、一人で学校へと向かう。
「ようこそ、新入生にして一期生の皆さん♪ 皆さんには、勇者候補生としてすこやかに育っていただけるようサポートしていきます♪」
ケイが学校に着くと、体育館兼講堂に他の生徒達とまとめて集められてベアトリスが校長としてスピーチをするのを静聴する。
「特別体育教師として、僕も一緒に教えながら皆とお勉強して行くの♪」
次に登壇した勇者テディのスピーチにケイは、若干不安となった。
「大丈夫なの、パパは僕がサポートするの♪」
「二人のサポートが、僕になるんだね」
クラスメイトとなったジュニアの言葉に、前世より面倒を見る人数が増えたケイであった。
その後は教室や施設の案内、各教科のゴーレム教師の紹介などが行なわれて入学の初日は終わった。
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