第24話 ダンジョン最下層の階層主との激戦 前半

ゆっくりと開かれる扉、その先には、大きな空間が広がっていた。

広がる空間の先にはうっすらと一つの魔法陣が描かれている。

私たちがその空間に足を踏み入れると、その空間に光がとぼされる。


「すごい、広い」

「ええ、そしてなんか、不気味…」

「うん?お前ら、前だ…」


二人が前を向くと、そこには下を向く1匹の魔物が居座っていた。

大きな巨体、背中には大きな斧を携えており、体長は3メートルを超えていた。

そしてその魔物はゆっくりと、顔をこちらにむけ、大きな雄叫びをあげる。


「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」


耳に響き渡る声が反響し、二人は両手で耳を塞ぐ。


「何これ…」

「う、うるさいな!!【沈め】!!」


アスフィアが先制で攻撃を仕掛ける。

しかし、それが効いている様子はなく、容赦なく、こちらに向かって突進する。


「アスフィアちゃん!!離れて!!」


突進してくる魔物を剣で受け止めるが、そのまま勢いで押し込まれる。


「ぐっ、止まらない……」

「な!?止まれ!!【重撃魔弾】!!!」


魔力の塊が空中に生成され、魔物にめがけて、無数に放たれる。

無数の【重撃魔弾】が直撃し、突進の勢いが止まる。


「ありがとう、アスティアちゃん」

「お礼を言ってる場合じゃないよ…あの魔物、相当装甲が硬い」

「みたいだね、それに力も今まで戦ってきた中でも一番かも…」


「とりあえず、突進は基本避けた方がいい、……基本的な戦い方は私が後方であなたが先行でいいね」


「うん!!」


そのままアルカディアは正面に向かって、駆け出す。

とにかく、今は色々試すしかない、闘志を燃やせ、この心熱く高鳴っている闘志を、燃やせ!!

魔物は背中に携える斧を持って、走りかけている敵を捉え、大きく振りかぶる。


「おそい!!」


なんなくと、魔物の攻撃を掻い潜りながら、魔物の懐に入る。


「はぁぁぁぁぁぁ!!!」


大きな巨体の腹部に渾身の一撃を与えるが、かすり傷程度の深さだった。


「浅い!!……しまった!!」


動きが止まった隙を突かれ、大きな斧が巨体に見合わないスピードで迫ってくる。

わずかな隙をつかれた私は、動くことができず、避けることができない。


「【雷槍】!!!!」


稲妻を纏う槍が、魔物にめがけて放たれ、直撃する。

そのまま、後方に吹き飛ばされる。


「アスティアちゃん!!」

「何やってるの、一撃与えたからって、油断しない!!」

「あ、はい」


しかし、アスティアは少し、心配していた。

本当に、この階層主を倒せるのかと。

アルカディアのさっきの一撃、普通の魔物なら即死級の一撃だった、なのにかすり傷程度、それに私の魔法も、直撃したはいいものの、手応えがなかった。


弱点はどの魔物にもあるから、あの階層主の弱点を早く見つけることができれば勝機はある……。

その前に私たちがもつかがだが、そこは正直、かけるしかない。

魔法の直撃を受けた魔物だが、すぐに立ち上がり、こちらを見つめる。


「ねぇ、アスティアちゃん、この後どうする?」

「とりあえず、アルカディアは先人切って魔物と戦ってほしい、私はいろんな魔法を試して、あいつの弱点を探る、その間はずっと戦いを強いるけど、いける?」


「……いけるに決まってるよ」

「………」


自信に溢れた返答、弱さも一切見せない、相手に不安を与えない真っ直ぐな言葉。

私の口角が少し上がる。

別に特別何かを思ったわけでもない、けどただ、なぜか少しだけ頼もしいなと思っただけ。


「さぁ、かかっきなさい!!魔物さん」


今の私は、やる気と同時に心が躍っている。

これは楽しいという感情なのだろうな。


真也は基本、見ているだけだから、こう共に戦うって言うことに新鮮さを感じているだと思う。


魔物は迷うことなく、アルカディアに正面切って、斧を振る。

それは瞬く間の速さだった。

剣で斧を押し当て、受け流し、生まれた隙に、何度も攻撃する。


「くぅ、やっぱり浅い」


いくら攻撃しても、傷が浅く、致命傷に至らない。

運よく、魔物の動きは捉えられないほどの速さではないとはいえ、油断すれば、やられる。

けど、不思議なのが、確かに精一杯の力で攻撃しているはずなのに、与えられるのは浅い傷のみで深く斬り込めない。


一体何が原因?スキルはある程度効力を発揮している…なら一体何が……。


「うぉぉぉぉぉ!!!」


すると魔物が斧を天に掲げた。


「あれは一体……」

「アルカディア!!今すぐ伏せなさい!!!」


少し遠くから聞こえるアスティアの声、私は無意識にその言葉に従った。


「【雷撃の激昂・もって穿つ千撃】【ゴウライ・ライコウ】!!!」


強力な稲妻が掌握され、その強力なエネルギーの塊を、魔物にめがけ高速で放たれる。

それと同時に、魔物が掲げた斧から、稲妻が走る。

斧に稲妻が集まり、それを振り下ろし、稲妻が放たれた。

魔物の稲妻とアスティアの稲妻が衝突し、相殺される。


「今の、私の魔法と同等の威力なの!?」


しかし、アルカディアは見逃さない、稲妻を放った魔物の隙を……。


「キメる……」


剣を深く構え、最も柔らかい腹部を捉える。

そしてそのまま、思いっきり、深く切り込んだ。


「うぉぉぉぉぉ!!!!」

「はいった!!」


すぐさま、魔物から距離をとり、追撃に備える。

魔物は腹部を手で傷を抑えていた。


「はぁはぁはぁ…」

「よく切り込めたね」

「えっへん、こう見えても相手の動きをよく見ているのだよ、アスティアちゃん」

「とはいえ、あの魔物、魔法も使えるみたい…」

「魔法…」


傷を抑えていた手が緑色に輝き、気づけば傷が塞がっていた。



「回復魔法も使えるのね」


「う〜ん、やっぱりおかしい」


「急にどうしたの?」


「なんというか、確かに腹部に深く切り込むことができたし、深傷を負わせることもできたけど、私はその一撃に手応えを感じなかった…」


「つまり、なにが言いたいの?」

「あの魔物は本当に魔物なのか、そもそもあれは階層主なのか……」

「……なら…こうしましょう」


私は時間を稼ぐべき、魔物にめがけて突進した。


アスティアが言うには、今から根源魔法を使うという、私は魔法に関して無知だから、よくわからなかったけど、相当時間が掛かる魔法らしい。


その根源魔法を発動させるまでの時間を稼くのが私の役目として任された。

私の疑問を改善するための策だという。

今、考えても、確信することはできない、ならアスティアちゃんに全てをかける。


「絶対に時間を稼いでみせる!!」


重点的に足を狙いながら、できる限り、私に狙いを定めさせる。


「よし……」


魔物は完全に私を視野に入れている、あとはアスティアちゃんの根源魔法が発動するまでの時間を稼ぐだけ。

その頃アスティアは、詠唱準備を整えていた。


「アルカディアが時間を稼いでいる間に……よし…」


両手を天に掲げ、詠唱を開始した。


「【神の原罪・永久のいとなみ・あまねく奇跡を照らし降臨する・獅子の雄叫び・勇気の乏み・天昇輪廻・ここに聖誕する】」


詠唱の開始と共に、魔物はアスティアに気づく。


「行かせないよ!!!」


右足の膝にめがけて、剣を突き立てる。


「ぐゎゎ!!」

「うわわわわ」


深く突き立て、暴れ回る魔物。


「絶対に行かせるかぁぁぁぁ!!!!」


ダメだ、もう剣もボロボロで刃が通りにくくなってる。

そのまま、剣が刺さったまま、わたしを振り切り、魔物はアスティアを捉えて突進する。


「くっ、しまった!!」


「【至高のいただき・神は全てを見届けている・ここにあらゆる存在を阻害せん】…【絶神障壁ぜっしんしょうへき】」


アスティアを中心に、白い結界が張り巡らされる。

その瞬間、突進する魔物の動きがピタリと止まった。


「この白いのは一体……」

「これが第4根元魔法【絶神障壁】、やっぱりわたしの予想は当たっていた」

「ねぇねぇ、どうして急に魔物が動かなくなったの?」

「それは……」

「それはそもそも、あの魔物が生き物ではなかったからだよ」


突然、真也が姿を現した。


「真也?」


「やっぱり、あなた最初っから知っていたんでしょ」


「ああ、見た瞬間にな、むしろ気づかない方が難しいぐらいだ」


「それってわたしのこと馬鹿にしてる?」


「うん」


「即答!!!」


あまりにも早い返事にアスティアは驚いた。


「けど、それと魔物が動かなくなったことにどんな関係があるの?」

「第4根元魔法【絶神障壁】は生物以外の全てを絶つ事ができるの、これにより魔物が動かないということは他の者があの魔物を動かしていたことになる」

「そういうことかぁ、じゃあつまり、本命は…」

「ええ、別にいる、ねぇ真也」

「まぁ、そういうことだな、だがもう少し気付くのに時間がかかると思ったが、まさかアスティアが根元魔法を使えるとはな、正直、驚かされたよ」

「根元魔法なんて、燃費が悪いから、あんまり使いたくないのだけどね」


話していると空間全体が揺れ出した。


「な、なに!?」

「うっ、アルカディア、本命の登場だよ、警戒して!!」

「う、うん!!」

「じゃあ、俺はまた傍観するとするかな」


そのまま真也は影に紛れるように姿を隠した。


「真也…こんな時でも見守るなんて、ある意味すごいね」

「だよね、けど本当にピンチになったら、助けてくれんだよ」

「あ、そうなの」


真也は一体何が目的なのだろうか。


真也の目的は『英雄』にすることと言っていたけど、それにしては少しアルカディアに厳しすぎる気がする。


念の為、真也も警戒しておこう。


すると突然、重く低い声が響き渡る。


「よく、例の魔物が操り人形だとわかったな、劣等な人間種が…」


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