第16話 勇者ひなのと柊真也の出会い

ただ暗い…何も見えない、私の視界は真っ暗に包まれていた。

私は今、どうなっているんだろう。

手も足も鉛のように重い、まるで重石を何十個も乗せられているような感覚。

あれ?急に軽くなった。

鉛のような重さが消え、身体中が熱くなり、聞こえていなかった心臓の鼓動を感じる。

徐々に視界が明るくなり、目が覚める。


「う…うぅぅ」


目を見開くと、そこは洞窟だった。

焚き火の音、それだけが洞窟内で響いていた。


「あれ?わたし……」


まだ体が重い…体のあちこちが軋む。

私…たしか、祐樹くんと戦って…それで……あれ?うまく思い出せない……。

身に起きた出来事を思い出そうとすると頭痛が襲ってくる。


「ようやく、目を覚ましたか」

「……だれ?」


私はゆっくりと、声が聞こえた方向に顔を向けた。

そこには顔覚えのある男が焚き火を焚いていた。


この人、どこかで……。


私はゆっくりと立ちあがろうとする。


「おっと、あんまり無理しない方がいい、横になって安静に……、今の君の身体はかなり脆い状態だから…」

「あ、はい…」


彼言葉通りだ、正直、動かすだけで激痛が襲ってくる。

けど、どうして私が今、こんな状態に陥ってしまったているのか、そんな疑問が浮かぶ。

しばらく、安静にしていると、彼の口が開く。


「どうだい?体調は……」

「だいぶ良くは……」

「それはよかった……とても失礼なことを言うけど君はどこまで記憶がある?」

「記憶ですか?」

「うん、君の顔色を見た感じ、いくつか不安を募る表情をしていたから…」


「え、きも」


「ははは、君、なかなかストレートだね」

「あ、ごめんなさい」

「別にいいよ、そういうの慣れてるから……」

「なんか、その…本当にごめんなさい」


なんか、憐れみな感情を感じた。

まぁ、そういうことはよくあるし、俺自身の言動からもその反応になるのは仕方がないことだけど、なぜか心にくる。


「ふん、じゃあ、君の身に起きたことを俺が知る限りの全てを答えようかな」

「お願いします」


こうして、俺は見た限りの全てを嘘偽りなく語った。


「私、死んでません?」

「まぁ、普通なら死んでるだろうな」

「いやいや、死んでいるでしょ!!、何、私もしかして、幽霊?」

「まあまあ、落ち着いて、おそらく、その答えは君のスキルにあると思うよ」

「スキル?」


私はすぐにスキル欄を確認した。

すると私の記憶では一つだけだったスキルが、三つに増えていた。


「え!?増えてる!!」

「だろう…スキル詳細を確認してみろ」

「う…うん」


職業:勇者?




スキル:【感情活性】


・その時の感情の増幅


・増幅量に合わせた身体能力上昇




スキル:【生存願望】


・生きることに対する執着心を増幅させる


・???もしくは???が???していれば死ぬことはない




スキル:【アヴェンジャー】


・憎悪の増幅


・職業:勇者を持つ者に対しての憎悪の増幅


・憎悪の増幅量に合わせた身体能力超上昇


・勇者、魔物、???に対する超攻撃補正



「何これ…この明らかな物騒なスキル名は…」

「すごいよね〜〜、本当に何をしたら、こんなスキルを獲得できるのか、俺が知りたいよ」

「【生存願望】…【アヴェンジャー】、詳細も……」

「それに関してはしょうがないよ、受け入れるんだね」


「う〜〜、てかなんであなたが……ってそもそもまずあなたの名前、教えてもらってないんだけど」

「おっと、俺としたことが、俺は柊真也、見た目通り、日本人だよ、ひなの」


「真也ね…てか私の名前…」

「知っているとも、勇者全員の名前と顔は把握済みだからね」

「ふ〜〜ん、まぁいいや、それより真也、私のスキルが見えているの?」

「おお、いきなり呼び捨てかぁ〜〜嫌いじゃない!!」

「そんなことはいいから」


俺はニヤリと笑った。


「もちろん、見えているよ、俺の目は【千里眼】でね、隠そうとしても全て見えてしまう、もちろん、服の透過も……」


するとひなのからの強烈なストレートパンチが飛んできた。

俺はそのまま後方に吹き飛ばされる。


「いてて、最後の方は冗談じゃないか…」

「ふん」

「まぁまぁ、怒らないで…」

「怒っていませんよ…全然全くね!!」

「ははは」


めちゃくちゃ怒ってんじゃん、少しからかいすぎたかな。


「それより本題に入ろう、ひなの、今君は何が知りたいんだい?俺が答えられることなら、答えるよ」


正直、ひなのは警戒していた。

もう体も動く、問題なのはこの洞窟、ここがどこなのか、それがわからない以上、下手に動けない。

それにこの男も今の所、不穏な動きはないけど…存在そのものが怪しい。

この状況、私は意図的に作られたとしか思えない。


「じゃあ、あなたの目的は何?」


「ふ〜ん、それから聞くかぁ、俺って本当に信用されないな〜〜」


「それは仕方がないよ、だって私は試練を受けていた、そして一度祐樹くんに殺されかけている…ここまではいい、けどその後、あなたが私を保護した、流石に不自然、狙ったかのようにしたか考えられない…ねぇもう一度聞くよ、あなたの目的は何?」


「やっぱり、見込み通り、頭が回るようだ…いいよ、けど知ったとして、ひなの…君はどうする?」


「答え次第ではここで…殺す」


急な重たく、重圧のある重め声で言葉にした。

冷たい瞳、その瞳に宿るのは隠そうともしない殺意だった。

へぇ、俺に殺意を向けるか、度胸も合格点だな、いやこれもスキルの影響なのかな。


「わかった…じゃあ、まず、俺の目的だが、俺は『英雄』をこの時代に生み出したい…それが俺の目的だ」


「英雄?」


「そう、俺はね、この世界には勇者ではなく、英雄が必要だと思っている、かつて遥か昔、この世界にはたくさんの英雄がいた、だが、それは昔の話、今の世界には勇者しかない…だから人類は少しづつ追い込まれている…勇者と魔王の戦いというシステムのせいでね…だから必要なんだよ、英雄が!!希望の光、騎士を!!戦士を!!民間人を!!奮い立たせる英雄が!!俺はね…そんな英雄を生み出すためにこうして動いているだよ、ひなの」


「それと私のどんな関係があるの?」

「俺ねぇ、まず英雄の素質があるかどうかを、見極めていたんだよ、そして君が選ばれた…ほら、君が知りたい答えが出た…以上」

「たいそうな目的ね、けど正直、私に英雄の素質はないと思うけど」


「それは、君自身の観点からだろう?それにね、考えても見てほしい、生まれた時から英雄だった、なんてやつ入るか?いないだろう、俺は君を英雄までの道を作る…そして魔王を倒してもらう」


「え?ちょっと待って、なんか目的増えなかった?」

「う〜ん、目的は多い方がいいだろう?それに、全てを話すと長くなるんだよな……」

「じゃあ、それもろとも話て…」

「ふん、やっぱり、君、素質あると思うよ」


曖昧にするのではなく、全てを知ろうとする貪欲さ、素晴らしい素質だよ。

俺は立ち上がった。

そして語り出した。


「まず、この世界は100年周期で魔王が誕生する仕組みになっている、これは世界の仕組み、決して覆らない、そして必ず、魔王は勇者によって倒される、それを繰り返しているんだ…だが最近の魔王は日に日に強くなっていてね、勇者は各国が召喚してはいるんだが、生き残るのはほんの数人、ほとんどが魔王との戦い前に死んでいる、ここであげられる問題の一つとして勇者が弱すぎる、が挙げられるわけだ」


「それと英雄、なんの関係があるの?」


「俺自身はね、別に勇者が弱いのが問題だと思っていない、これはただ単に国が勇者に対して理想が高すぎるだけなんだ、まぁそのせいで勇者が死んでいるのだが……でだ、そこで俺はこう考えた、この世界に残される英雄譚、その中のお話ではどんな苦難も仲間と乗り越える姿が書き残されてる…どういう意味か、わかるかな?」


「……勇者への過度な期待?」


「お、いい線いっている、けどそれはまた別問題だよ……まぁ簡単にいうと魔王を勇者に任せすぎているという事実だ、実際魔王との戦いで各国は兵を一切、動かしていない」


「それでなんで英雄なの?」


「言っただろう、英雄譚には苦難を仲間と乗り越える姿が書き残されていると、つまり、どの英雄も必ず仲間がいて、仲間と共に苦難を乗り越えているということだ」


「待って、それだと勇者だって一人じゃない、複数人いたはず、それじゃあなんの根拠にも…」


「今までの勇者の歴史で魔王のもとへ辿り着いたのはいつも一人の勇者だけだよ」

「え?」

「俺も理由はわからないがな、でここで英雄が出てくるわけだ、俺が求めるのは仲間を率いることができる英雄だ、そして君にはその英雄になってもらう……これはもう確定事項だ、なんせもう時間がないからね」


「………私にメリットがない」


「へぇ?」

「私にメリットがない!!私が英雄になって私になんのメリットがあるの?」

「あ〜〜なるほどね」


想像していたのと違う返答が返ってきた。

普通は「英雄なんてごめんね」「私はあなたとの道具じゃない!!」という返答を勝手に考えていたのだが、まさかのメリットの提示。


やっぱり、この子は相当変わっている。

きっとひなのが得たスキルも何かしらの意志があるのかもしれないな。


それこそ、『神』とかな。


「それに関しては答えるまでもないんじゃないかな」

「どういうこと…」


「だってさぁ、ひなのは変えたかったんでしょう?」


「なっ!?」


そうだ、私は自分を変えたかった、その為に努力だって…したかな?

けど自分を変えたい、その目的で考えるなら英雄になるのもある意味メリットになりえるのかもしれない。

てか、なんで私の目的を知っているんだろう…余計怪しくみえてきた。


けど、英雄、もし私がなれたら、変われるのかな、私は……。


絶対に変われる保証はないし、むしろ考え方次第では都合のいい道具にされかねない。

ただ、どうしても思ってしまう。

この機会を逃せば、二度と変われるチャンスがないのでは……と。

チャンスは掴みとるもの、なら迷う必要などない。


「わかった、真也の求める英雄になってあげる」

「おお!!これでやっと……」


深夜はなぜか少しだけ悲しそうな顔をした。


「で、これからどうするの?」

「う?ああ、まずはここからの脱出かな」

「え?脱出?なんでそんな話になるの?ここに連れてきたのは真也だよね?」

「あ〜〜それはそうなんだけど、その〜〜実は〜〜」


私はなぜか嫌な予感がした。


「なるほどね…」


「しょうがないんだ、【テレポート】っていう魔法は目的地が設定できない、けどあの時、そのまま運ぶのは無理だったし…うん!!俺は最善な選択を選んだ!!俺は悪くない!!!!」


「馬鹿じゃないの」

「すいません」

「はぁ〜〜でどうするのよ、これから…」

「まぁまぁ、そう急かさない、食べ物は俺がたくさん持っているし、それに君を英雄にする為にもある程度すり合わせする時間がほしい」

「すり合わせって…何を考えているの?」

「ふふふ、俺が何年、この計画を練ったことか…だがまず、ひなのにはどうしてもやってもらわないといけないことがある」

「何?」

「今、ある名前を捨ててもらう」


「あ安い御用ね」


「え?」

「名前に未練なんてないし、変われるなら安い名前よ」

「お、おう」


簡単にひなのは自身の名前を捨てた。

普通はそう簡単に自身の名前なんて捨てられない。

ひなのって結構、あっさりしてるよな。

なんというか、怖いもの知らずというか。


「一様、理由を挙げると、英雄が日本人の名前だと、意味がないし、勇者に間違えられる可能性がある」

「まぁ、納得が一様、く理由ね」

「というわけで名前はひなのが決めていいぞ」

「え!?〜〜急に言われてもな〜〜」


名前を変えることには特に抵抗はない、けど新しい名前を考えるとなると、頭を悩ませる。

どうせなら、かっこいい名前がいい。


「う〜〜ん」

「まだ?」

「もうちょっと待って」


あれこれ、何時間が経っただろうか。

まぁ思ったよりやる気があって俺としては喜ばしいことなのだが。

長い、長すぎる、ただ名前を決めるだけでいいのに。


「まだ〜〜〜?」

「う〜ん、もうちょっとだけ待って」


名前、今考えると本当に難しいな。

お母さん、お父さんも名前を考える時ってこんなに悩んだのかな?

改めてすごいと思った。


こういう時は、自分の人生経験から出すといいと聞く……って碌な人生経験なんて送ってないや、私…。

う〜〜ん、あ!そういえば、この世界にきた時に一冊だけチラッと本を読んだっけ……。

たしか、英雄にまつわる話だったような…で確か主人公の名前が……え〜と〜〜あ!!。



「よし、決めた!今日から私の名前はアルカディア!!」

「え?」

「どうよ…」

「その名前って……一様、理由を聞いてもいいかい?」

「なんかの本に書いてあった…」

「ああ〜〜まぁいいじゃんないか」


まさか、アルカディアの名前を取ってくるなんて……きっと彼女は知らないんだろうな。

アルカディアは英雄でありアルカディアの結末を、けどまぁ彼女が決めたことだから俺が否定することはできない。


それにある意味、いい名前なのかもしれない。


「で、名前も決めたことだし、でこれから本当にどうする?」

「やる気十分だね」

「ふん、どうせやるなら、本気でやる主義なのよ」

「なるほど、じゃあまずはここ周辺の探索だね」

「じゃあ…」

「ああ、この奥に続く道を歩く」


焚き火の光が届かない暗闇の道。

こうして俺とアルカディアはこの洞窟の探索を始めた。

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