【完結】異世界おもちゃ道!!~転生おもちゃ屋は『たまごっぴ』の夢をみる~
南星りゅうじ
0◆プロローグ◆
「つ、ついに完成した…」
俺は深く息を吸いこんで、ゆっくりと吐き出した。吐息と共に感じる疲れと、やりとげた充足感が胸を満たしていく。
7歳のときに、異世界おもちゃ道を進む、そう志をたてた。それから約18年、俺の思うおもちゃの完成形の1つを、ようやく作り上げることができた。目を閉じると、これまでのつらくも楽しい日々の記憶が浮かんでは消えていく。
…ここまで来るのに長かった。
作業台の上にあるのは、握り拳ほどのサイズの、平べったい白いたまごだ。絹のような不思議な光沢のたまごの中央には、淡いグレーの四角い画面がある。その画面の下にはタッチボタンが5つついている。
パッと見ると、それは、一時期世界的にブームを巻き起こした、たまご型の携帯ペット育成玩具『たまごっぴ』に似ていた。
1番左のボタンを押すと、四角い画面の中央から光が出て、たまごの正面に数センチ四方の四角い光の画面が現れる。まるでSF映画に出てくる未来ツールのように、その画面は空中に浮かんでおり、中央には上下に揺れる不思議な卵が表示されている。
ピッポーポロロッ!
音が鳴って画面の中の卵が明滅しながら割れると、中からボールに目とくちばしをつけたような、何ともかわいらしい謎生物が生まれ出てくる。ひょこひょこと上下に揺れる謎生物は、左右を見て、次にこちらを向くと、親を見つけたかのようにピーピーと鳴き始める。肉のマークの吹き出し付きで。
俺が2番目のボタンを押すと、画面の左に骨付き肉が表示されて、謎生物がバクバクと食べる。心の中で、生まれたばかりで骨付き肉かよと突っ込み入れながら、しばらく肉を与えていると、謎生物は、ピュッピューと鳴いて体を震わせ、うんちをぷりっとする。俺は慌てることなく、3つ目のボタンを押す。すると画面の右からスライムがわさわさ出てきて、うんちが押し流されていく。
「フフッ…ようやくここまで出来たなぁ」
しみじみと呟く。ここが地球なら、『たまごっぴ』に似たものがあるのは不思議ではない。だがここはアムリリア王国、剣と魔法のファンタジーな異世界だ。その王国の東の端に位置するユリーズ辺境伯領の領都ユーガッズ。その近郊にある研究施設、工場を併設した俺と仲間の商会『スタープレイヤーズ』の本拠地だ。
ピョロロン!ピョロロン!
「お、進化した。よし設定どおりだ!」
謎生物はビカビカと光を発しながら、その姿を一回り大きくした。謎生物が肉マークの吹き出しをさらに出して、エサを要求してきたので、肉をなおも与える。落ち着いたところで、俺は4つめのボタンを押して、画面に手のアイコンを表示し、ボタンを連打して謎生物をなでる。ピュルッポーと喜ぶ謎生物が、やたらと可愛い。
「これ幾らにするかな…。また皆と相談しないとなー」
このおもちゃは、この世界における最新技術の数々が搭載された、俺たち以外には絶対に作れないものだ。魔物由来の厳選素材をふんだんに使っている上に、俺達が汗水流して研究・開発してきた技術だ。相当な金額になるだろう。
「誰に渡すかな。また3辺境伯と国王様かな。どうせ渡すなら小さい女の子がいる人に渡したいんだけどな。でも、同時に渡さないと、絶対にもめるしな…しょうがない、あと何個か作るかな。あぁ、その前に、皆にも1度遊んでもらわないと」
俺は5つ目のボタンを押して、画面を薄暗くする。すると謎生物は鼻ちょうちんを出しながら、すやすやと寝始め、少しして空中に浮かんでいた画面も消える。つられたように俺もあくびをし、作業台の上の魔石ランプの光を消した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます