新現代版「蜘蛛の糸」

芝サカナ

第1話 犍陀多

 ある日のことでございます。犍陀多は地獄の血の池を浮き沈みしながら鬼からの罵詈雑言に耐えていました。血の池から上がれば鬼から金棒で打たれまた血の池に入らなくてはなりません。地獄というのはどんな苦しみでさえ死ぬことすら許されないのでした。犍陀多は生前ありとあらゆる悪事をしていたことを思い出していました。強盗、殺人、放火、強姦、誘拐……。地獄に落ちて当然と言えば当然だが、なんとかならないかと犍陀多は常に思っていました。こんなことなら生前に何か一つぐらい良い事しておけばよかったとも思いました。しかしすぐに想いを打ち消してまた血の池を浮き沈みしているのでした。


 しかし犍陀多はたった一つ良い事をしていたのです。それは一匹の蜘蛛を殺さなかった事でした。それを犍陀多は思い出す事はありませんでした。

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