第18話 可愛いと言われて胸が鳴る


 シオンは姿見の前で呻っていた、それもこれもアデルバートから貰った服のせいである。羽織った白いカーディガンの下からレースのあしらわれたブラウスが見えて、ピンクのキュロットとよく合っている。


 服そのものは可愛らしい、可愛らしいのだが自分が着てみると似合っているのか全く判断できなかった。


 着こなせてはいるはずだけれど、似合っているかと言われると自信がない、無さすぎる。普段が修道服とブラウスやハーフパンツといった服装なので、いざ着飾ってみると違和感が凄まじい。


 これは本当に大丈夫なのだろうかとシオンは不安になる。それでも着ていかねばサンゴに何を言われるか分かったものではない。彼女ならアデルバートに会った時に聞くぐらいのことをしてくるのは想像できた。


 うぅぅと呻ること数十分、待ち合わせの時間が近づいてきたのでシオンは覚悟を決めて家を出た。


 教会の門前でシオンは待つ。傍に居る番犬を撫でながら気を紛らわしていると、犬の視線がシオンの後ろにいく。誰か来たかなと振り返れば、アデルバートが少し先で立っていて目を瞬かせながらシオンを凝視していた。


 時計を確認してみれば、相変わらず時間きっちりだった。シオンが立ち上がってアデルバートのほうへと駆け寄ると、彼は片手で口元を覆いながらじっと見つめてくる。どうしたのだろうかとシオンが見つめ返せば、「……すまない」と自分が見つめすぎていることに気づいてかアデルバートは謝った。



「謝らなくても大丈夫だけど……なんかあった?」

「いや……その服を着てくれたのかと」

「……あー……」



 そうだ、自分は彼から貰った服を着ていた。シオンは「貰ったから着ないと勿体無いし」と恥ずかしさを誤魔化すように言う。アデルバートの反応に服に目を遣れば「似合っている」と返された。



「想像以上に似合っていたんだ」

「そうかなぁ? 自分じゃよく分かんないんだけど……」

「その……可愛らしいと思う」



 少し恥ずかしげにけれど嘘なく言うアデルバートにシオンは固まった。男性からそうやって言われるのには慣れていないので、どう反応していいか分からず、照れを隠すように頬を掻いた。


 アデルバートの視線がなんとも痛いけれど、彼が何処か嬉しそうにしていたのでシオンは着てよかったなとサンゴに少し感謝する。



「あぁ、すまない。そろそろ行こうか」



 見つめすぎていることにアデルバートは謝る。教会の門前で長居をするのもよくないのでシオンは彼に連れられながら歩く。



「アデルさんは今日、休みなの?」

「あぁ。休みの日だと知っていてバッカスが渡してきた」

「なるほど。お仕事大変そうだし、休んだ方がよかったんじゃない?」

「大変ではあるけれど、シオンも言っていた通り気分転換にはなるだろう」



 家でずっといるよりは良いと言われてシオンはそれもそうかと返す、外に出てみるのも気分転換にはなるだろう。



「そういえば、バッカスさんとずっと一緒なの?」

「あぁ、一応バディを組んでいるからな」



 バッカスとは長い付き合いというのもあるが、彼は補助魔法などのサポートを得意とするので、攻撃魔法が得意なアデルバートとは相性が良かった。そういうのもあってバディを組んでいるので、彼と必然的に行動を良く共にしている。アデルバートの話にだから仲良く見えたんだなとシオンは納得した。


 バッカスはアデルバートに気軽に話して、口調も崩していたので仲が良く見えていた。長い付き合いでバディも組んでいるのならばそれも頷ける。



「バッカスさん、彼女さんと行きたかっただろうなぁ」

「いや、恋人ではない。狙っている女性ではあるだろうけれど、あいつはフリーだ」

「え、そうなんだ」

「女性を口説いては振られるをよくしている」



 懲りない男だとアデルバートは呆れていた。彼が呆れるほどなのだから余程、繰り返しているのだろう。それでもめげずに女性を口説いているのだから立ち直りが早いのかもしれない。シオンはバッカスのことを思い出して、そうえいばエルフのグラノラに説教されていたなと苦笑する。


 同僚から説教されるぐらいなのだから彼はきっといろいろやらかしている。それでもガルディアでやっていけているということは、それだけ実力があって仕事はこなしているということだ。とは思うけれど、気になるので聞いてみれば、「異動を重ねて俺の部署まで来た」と教えてくれた。



「対人を特に女性に関してはあいつに任せてはいけないとなって、比較的少ない俺の部署である魔物対策課に配属になった。俺がいるというのもあるだろうな」


「それ、押し付けられてない?」

「俺もそう思うがもう慣れた」



 どうやらバッカスの女性絡みに巻き込まれた経験は多いようで、諦めと慣れでもうどうでもいいのだとアデルバートは話す。その表情が疲れていたのを見るに苦労はしているので、シオンは「その、お疲れ様です」とだけ声をかけておいた。



「まぁ、バッカスさん女性受け良さそうだしなぁ。顔が良いから」

「……シオンもそう思うのか」

「うん? バッカスさんもだけどアデルさんもカッコイイとは思うよ?」



 恋愛などのことは分からないけれど、格好いいや可愛いなどは判断できる。サンゴは美人だし、カルヴィンは男には失礼かもしれないが可愛いと思う。バッカスもアデルバートも顔が整っているので格好いいと感じていたとそう素直に答えれば、彼は「そうか」と小さく呟く。



「好みとかは置いておくとして、誰かをカッコイイとか、可愛いとかは思うよ?」

「確かに、それはあるな……」



 アデルバートは理解したようで、自分でもそれは思うこともあると言っている。けれど、何かが引っかかっているように眉を寄せていた。それにシオンは気づいていたけれど、本人が分かっていなようなので指摘することはしなかった。


 路地を抜けて広い通りへと出ると人通りが多くなっていく。少し行った先に客待ちの馬車が止まっていたのでアデルバートが「乗っていく方が早だろう」と手綱を引く男に声をかけていた。


 男に目的地を伝えるとアデルバートはシオンの手を取って馬車へと乗せる。二人が乗車したことを確認して、馬車はゆっくりと走り出した。



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