第233話 ギルバートの悪巧み


 眩い光の後に、「エドマンド」が「ギルバート」に、そして「ギルバート」が「春風」になった。


 一体何故そんなことになっているのか?


 その理由は昨夜にまで遡る。


 「いよいよ明日、モーゼス教主がこの帝城に来る」


 執務室ギルバートにそう告げられて、春風は「ハァ」と溜め息を吐きながら、


 「……そうですか」


 と、げんなりした表情でそう返した。


 「オイオイ、そんな嫌そうな顔をするなよ」


 ギルバートはそんな様子の春風を見て文句を言うと、


 「すみません、実は謁見の間で話を聞いた後、イブリーヌ様達にモーゼス教主という人について尋ねたのですが、聞けば聞くほど『碌でもないな』と思ってしまって……」


 と、春風はげんなりした表情のままそう答えた。


 「ああ、わかる、わかるわその気持ち、俺だってあいつ嫌いだし。でも向こうが俺との謁見を望む以上、俺も皇帝としての務めを果たさなきゃいけねぇんだよなぁ」


 そう話し終えると、今度は春風とギルバート、2人して「ハァ」と溜め息を吐いた。


 その時、


 「んお? そういえば……」


 と、ギルバートはふと執務室の机の引き出しを見てそう呟くと、その引き出しを開いて、そこから「あるもの」を取り出した。


 それは、小さな赤い宝石のようなものがついた、2つの黒いチョーカーだった。


 「あ、それって……」


 「そ、以前俺とレイが使った変装用の魔導具だ。ずっとエリーに没収されてたんだが、この前漸く取り返す事が出来たんだ」


 そう言って、ギルバートはその黒いチョーカーのような魔導具をジィッと見つめると、


 「あ、そうだ!」


 と、何かを閃いたかのようにガタッと立ち上がった。


 「ど、どうしたんですか陛下!?」


 春風は驚いてギルバートにそう尋ねると、ギルバートはニヤリと笑って、


 「なぁ、春風。ちょっと俺に『考え』があるんだが……」


 「……はい?」


 キョトンと首を傾げる春風に、ギルバートはその「考え」を教えた。


 数分後、


 「いや、ちょっと陛下。、大丈夫なんですか?」


 「良いんだよ。どうせ向こうはきっと碌でもねぇこと企んでるに違いねぇんだ。ちょっとした『いたずら』するくらい別に問題ねぇだろ」


 「『問題ねぇだろ』って、相手は教会の偉い人なんですよね?」


 「おうよ。だが言っただろ? 俺、あいつ嫌いだって。それに、お前だって向こうの目的、気になるだろ?」


 「それは……まぁ、気になりますけど」


 ギルバートの「考え」を聞いて、春風はどう答えたら良いのか躊躇っていると、


 「あらぁ、面白そうな事企んでるわねぇ」


 「「!」」


 突然の声に驚いた春風とギルバートが、同時にその声がした方を向くと、そこには穏やかな笑みを浮かべるエリノーラがいた。


 いや、エリノーラだけではない、レイモンド、セレスティア、エドマンド、オズワルド、そしてアンジェリカも一緒だった。


 まさかの皇族全員集合に驚いたギルバートは、


 「え、エリー、それにお前達、いつからそこに!?」


 と、エリノーラに向かってそう尋ねると、 


 「何か面白そうな事が起ころうとしていたのを感じて、レイちゃん達と一緒に聞いていたの」


 と、エリノーラは「ウフフ」と笑いながらそう答えた。


 (ぜ、全然、気付かなかった)


 「え、ええっと、聞いてたってんなら……駄目かな?」


 ギルバートは滝のようにダラダラと汗を流しながら尋ねると、


 「勿論、良いわよ」


 と、エリノーラは笑顔を崩さずにそう答えた。


 「え、ホントに良いのか!?」


 「ええ、ただし……」


 「た、ただし?」


 「私達も、その『いたずら』に参加させなさい」


 黒いオーラを纏いながらも笑顔を崩さずに話すエリノーラと、彼女の背後で「うんうん」と頷くレイモンド達を見て、


 「……はい」


 と、ギルバートは屈したかのようにそう返した。


 その後一晩かけて、ギルバートら皇族達と春風は、ギルバートが考えたその「いたずら」についての作戦会議をした。


 そして翌日、謁見の間にて、


 「帰れハゲェッ!」


 「「「「ハゲェエエエエエエエッ!」」」」


 ギルバートが考えたその「いたずら」は、実行されたのだった。

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