第7話 (その3)
「休戦の報を受けて、私が真っ先に案じたのは、クライアントがイゼルキュロスをどうするのか、ということだった。……おそらくは廃棄処分になる可能性が非常に高かったが、あの子はそれこそ私が心血を注いだ一級品だ。おいそれと手放してしまうにはあまりに惜しい。同じ研究の徒たちの中にも、同じような依頼を受けていた者が他にもいて、皆一様に今抱えている研究が中断になるであろうことを憂慮していた。そこで私は、あの子のために余人の手の及ばない新たな隠れ家を用意しようとしていたのだが……彼らの方が、動きが早かったということだ。おかげで君を危険に晒してしまった」
本当にすまない、と兄はもう一度謝罪の言葉を吐いた。
私はため息をひとつついた。兄の言葉に、ため息でもつくより他になかったのだ。
「メアリーアンは、どこかへ行ってしまったわ」
「ああ、そうだな」
「兄様は、これからどうするつもりなの?」
「イゼルキュロスの行方を捜そうと思っている。……そう遠くまで一人で行けるとは思わない。私ももはや追われる身ゆえ、容易ではないかも知れないが、必ず見つけ出さねば」
「あの子を、連れ戻してくれるのね?」
「いや……それは無理だ」
兄はそう言って、静かに首を振った。
「私は、君に詫びを入れなければと思い、ここに戻ってきたのだが、今も言ったとおり私とて追われる身なのだ。あの屋敷にも戻れないし、ひとたびこの国を離れたならばもう二度と戻ってくる事も叶わないだろう。……君ももう子供ではない。そろそろ、私の手を離れて普通の生活に戻った方がいい」
「じゃあ、あの子を捜しに行くのに、私を連れて行ってはくれない、というの?」
「そういう事だ。……君とはこれでお別れだ、メアリーアン」
「――?」
私は思わず、顔を上げた。
今、兄は私を何と呼んだ?
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