第6話 (その13)
地獄のような光景だった。二階にまだ残っていた数名の兵士が、触手を振り回す彼女を目の当たりにしてさすがに顔色を失った。彼らには他に退路がなかったからだ。手にした銃を、手持ちの弾倉が空になるまでひたすらに発砲し続けても、メアリーアンは小揺るぎもしなかった。いつの間にか触手だけではなく、皮膚の露出している部位すべてが全体的に淡い燐光を放ち始めていた。その彼女がゆっくりと階段を上っていく動きを見ていると、足のひざの関節が人間の姿をしていたときとは逆の向きに曲がっているのが分かった。彼女は悠然とした足取りで階段を上りきると、二階に残っていた兵士達を手近にいる順に次々と切り刻んでいく。もはやこれまで、と思った兵士の一人が吹き抜けのホールの下へと慌てて飛び降りたかと思うと、彼が着地するよりも先に、二階から伸ばされた彼女の触手が空中で心臓を一突きにしていた。胸部に風穴を開けた男の死体が、ホールの床にどさりと投げ出されただけに終わった。
二階だけではない。そこへ続く階段の上から下までも、血を流して倒れる兵士、切り刻まれた亡骸でいっぱいに埋め尽くされていた。先に流れ弾に当たって床にうずくまった兵士も、メアリーアンは忘れずに触手を振るってとどめを刺していく。
メアリーアンは……いや、もはやメアリーアンと呼ぶのはふさわしく無かったかも知れない。イゼルキュロスは銃を構えた兵士達があらかた片付いたのを確認すると、勝ち誇ったような足取りで、ゆっくりと今度は階段を下りてくるのだった。
この場に残っているのは、あとは彼女を連行しようとした背広姿の男達と、そんな彼らを警護するわずかな兵士達ばかりだった。逃げ出さずに踏みとどまっていたのは立派と言えただろうが、もしかしたら足がすくんでその場から動けなかったのかも知れない。イゼルキュロスの視界に彼らの姿が入ったかと思うと、彼らはついに恐怖のあまりに、何かをわめき散らしながらその場から一斉に逃げ出そうとするのだった。
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