第5話
第5話 (その1)
叔父が自分の頭をピストルで撃ち抜いた後、母は何かがふっつりと途切れてしまったみたいに、誰の呼びかけにも答えなくなってしまった。屋敷はしばらくの間官憲が出入りを制限していたし、使用人たちもあるじがいなくなったとあって、一人また一人と屋敷を離れて行かざるをえなかった。
叔父の葬儀は叔父側の親族によって執り行われたが、世間の目もあって実にひっそりとしたものだったという。やがて叔父の財産も債権者を名乗る有象無象の人々によって公私区別なくあれよあれよと差し押さえられ、持って行かれてしまった。それでも一応、父が死すにあたっておのが子供達のためにと、おのが弟に託していった信託金が、相当目減りしていたとはいえ幾ばくか遺されていたので、おそらく私一人がこの先慎ましく暮らしていくにはそれほど困らずには済みそうだった。いずれにしても、叔父の家屋敷そのものが人手に渡ることになって、私はそこから出て行かざるを得なかったわけだけれど。
母はすっかり自分を見失ってしまい、療養施設に預けるより他になかった。ただ一人の身の上となって屋敷を出ていくにあたって、私はその前に一人、妹の墓を訪ねてみた。
私がのちに兄と呼ぶことになる男に出会ったのは、その時その場所での事だった。妹の墓のすぐ隣……父の墓標の前に、黒づくめの装束を身にまとった異国風の顔立ちの男が立っていた。
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