魔法適性ゼロと無能認定済みのわたしですが、『可視の魔眼』で最強の魔法少女を目指します!~友達ゼロのぼっちなのでソロで魔王討伐を決意したら、妹と御三家令嬢たちがわたしを放そうとしない件について~
64 jardin des fleursへようこそ!
64 jardin des fleursへようこそ!
「おーう、やっぱり似合ってる似合ってる!」
ひと悶着ありましたが、結局はお仕事なので断るわけにはいきません。
わたしは渋々更衣室から着替えると、パチパチと手を叩きながらアレットさんは見守っているのでした。
「あ、足が……足がスース―するんですが……!」
なんてハレンチな格好なのでしょう。
もう帰りたいです。
「こういう恰好は初めて?」
「初めてに決まってるじゃないですか……」
「どう、感想は?」
この反応を見てそれ聞いてきます……!?
「制服の可愛さと、わたしの顔が釣り合ってなくて死にたいです」
「随分、悲観的だね……」
ぽりぽりと頭を掻くアレットさん。
「まあ、でも人って不思議なもんで仕事になると慣れるもんだよ」
「えー……?」
「疑うな、疑うな。それじゃ、ほらお店に立ってちょうだいな。私はもう腰が限界なんだ」
「あ、はっ、はい……!」
アレットさんは元々一人でこのお店を切り盛りしていた方なのですが、数日前にケーキの材料が詰まった重い物を運んだ時に腰を痛めてしまったのだとか。
お医者様に診せたところ、“ぎっくり腰”だそうで1~2週間程度で治るとのこと。
それでも痛いことには変わりません。日中は何とか頑張っているそうですが、一日通したら腰が爆発するとのことで、こうして人を雇うことにしたわけみたいです。
「って、そうなるとコレって今回のためだけに用意したってことですよね?」
普段はアレットさんしかいないお店なので、他の人の制服は必要ないのです。
わたしはお店に向かう前に、最後だけそれが気になって聞いてみます。
「うん。エメちゃんの容姿を見た時にビビッとインスピレーションが湧いてね?その情熱をデザインにしたんだよ?」
……普通にデザインして欲しかったです。
◇◇◇
自分で言うことではなないと思いますが、お仕事は結構順調でした。
基本的にはカウンターの前でお客様のオーダーを確認、ショーケースに陳列されているケーキを取って箱詰めしてお渡しするといった作業です。
日中が売り上げのピークで、夕方になるとそこまで人は来ないそうで余裕があったのです。
不慣れながらも何とか丁寧さを意識して行うことでミスらしいミスはせずに出来たと思います。
『あら、店長さん“腰が爆発してもう動けないから、日雇いの子を雇った”って言ってたけど。それがあなた?』
『あ、はいっ!そうなんですっ!』
『うふふっ。これはまた可愛らしいお嬢さんが働いているのね』
『え?えへへ……そうですか?』
と、お客様の層も物腰の柔らかいマダムな方が多く、この住宅街周辺の常連さんで事情を把握している方がほとんどみたいでした。
そのおかげもあって、皆さん優しく接してくれたのでわたしは慌てずお仕事をすることが出来たのです。
「皆さん、まるで娘を見るお母さんのような反応でしたね」
おかげさまで不思議と恥ずかしさもそこまで感じないようになっていました。
同世代の方や男の方はいなかったので、お母様方にちょっとした衣装を見せている……くらいの感覚にはなれたわけですね。
アレットさんも“特に問題ないよ、上出来上出来”と言ってくれましたし。今日は問題なくお仕事を終える事が出来そうです。
「――すみません、注文いいですか?」
おっと、いけません。勝利の余韻に浸るには早すぎました。
もう次のお客様が来られていたようです。
「はい、どちらになさいます……か……」
わたしは笑顔で接客をしようとして、フリーズします。
「えっと、フォンダンショコラとオペラと……」
今、オーダーして下さっているのはとても若い方です。
というかアルマン魔法学園の制服を着ています。
ショートボブの藍色の髪の毛している美少女です……!
「……以上なんですけど?」
ショーケースから視線を反らして、こちらを見てきたので咄嗟に180°回転して思わず顔を反らします。
せ、セシルさん!なぜここに……!?
というかオーダー全然聞けてませんでした!
「えと、あの……?」
店員のおかしな程度に戸惑っているであろう声が聞こえてきます。
ですが、ここで顔を見せては、わたしのこんな哀れな制服姿をセシルさんに見せる事に……!?
同級生にこれはムリです……!!
「あ、セシルちゃん。今日も来てくれたの?いつもありがとねー」
おおっ!?アレットさんが工房から顔を出してきてくれます。
も、申し訳ないですがこのまま接客をお任せして……!
「あれ、アレットさん……?この方は?」
「ああ、新しく日雇いの子をね……って、何で壁向いてるのエメちゃん。ちゃんと接客してよ」
「……エメ?」
ぬああああああああああっ!?
秒で事態が悪化しました!!
アレットさんがわたしの肩を掴んで回転させようとしてきます。
「って、なにこの根っこでも生えたみたいな固定は……!?」
「こら、エメちゃん。この方はあのアルベール家のご息女、うちでは一番の太客なんだ。失礼のないようにちゃんと接客してよ!」
「わ、わわっ……分かってはいるのですが……!このまま裏にはけるのでアレットさんにお任せしてもいいですか!?」
「いいわけないでしょ!仕事なんだからちゃんとやってよ!お給料カットしちゃうよ!」
うわあああああああああああ!!
それだけは避けねばなりません!
こ、こうなったら覚悟を決めるほかないのです……。
意を決して、わたしは振り返ります。
「も、申し訳ございません……もう一度ご注文を伺ってもよろしいでしょうか?」
「……」
今度はセシルさんがわたしを見てフリーズしています。
まさかこんな所で店員とお客様の関係で出会うなど考えてもいなかったでしょう、お互いに。
「……エメ?」
「違います」
「え?どう見ても……」
「他人の空似です」
セシルさんも信じられないのか、きょろきょろとわたしの姿を凝視しています。
み、見ないで下さい……!!
こんな哀れなわたしを見ないで下さい……!!
とりあえずもう押し切って……!!
「あ、そう言えばエメちゃんもアルマンの生徒なんだもんね?なんだ、セシルちゃんと知り合い?」
ムリですよねーーーー!!
そんなわけいきませんよねーーーー!!
「やっぱり、エメなのね」
確信を持ったセシルさんの声。
「ええ。今日から働かせてもらっていますエメ・フラヴィニーです……」
死にたい……。
こんな恥だらけの姿を見られるとは……。
「……可愛い恰好をしてるのね」
ああ、セシルさんがケーキそっちのけでわたしの姿を見ています。
なんか嬉しそうに目をキラキラさせています。
珍動物でも見ている気分なのでしょう。
「……アレットさん、確かここ飲食も出来ましたよね?」
「え、うん。出来るけど、しておくの?珍しいね、いつもお持ち帰りなのに」
なぜ!?持ち帰ってください、セシルさん!
「ああ、でも……他の人に見せるのは惜しい」
ん?なにかブツブツと悩んでいるようなんですけど……。
「あ、全部ください。今日はお店を閉めて、閉店時間までエメに相手してもらう」
セシルさんが全く意味不明なことを言い始めました!
「ダメです!セシルさん!必要な分を持ち帰ってお家で食べて下さい!!」
「ああ!ちょっと、売り上げ下がるようなこと言わないでよエメちゃん!!」
“
どこかで聞き覚えがあるな、と思っていたのですが。
セシルさんがお泊まりのお礼(シャルに押し倒されたみたいなシーンを見られた時)に渡してくれたお菓子の包みに書いてあったお店の名前でした……。
ああ、それにもっと早く気付いていれば良かったのです……。
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