05 妹がお年頃のようです!


「な、なんであんなことに……」


 結局、セシルさんに対する誤解は解けなかった。


 ひたすら怯える彼女にもはや言葉は届かず、諦めてお別れするのでした……。


 足取りは重いままに家に帰宅します。


「ただいまー」


 玄関先にはシャルの外靴に、居間には光が零れています。


 やはり先に帰ってきたようです。


「あ、おかえり。帰ってきたのね」


 素っ気ない声で返事をするシャルは、制服の上にエプロン姿でお料理中でした。


「シャルー、さっきのはやっぱりマズかったんじゃなーい?」


 ここはリアさんとの一件を姉としてガツンと言ってあげないと……。


「はあ?まだ言ってんの?あれはヘルマン先生だって容認してたんだから問題ないのよ」


 うぐ……またわたしの反撃しづらい所を突くなあ。


「先生は容認したとしても、世間一般的に」


「魔法士の常識と、世間一般の常識は違うのよ」


「うう……」


 食い気味で一蹴されました。


「魔族との戦争で、魔法士は人類の絶大な戦力になっている。言わば兵器なのよ、兵器の価値は威力でしょ」


 ここ近年の歴史において魔法士育成機関が乱立するようになったのは魔族との戦争による影響が大きいのです。


 強大な力を持つ魔族との戦いで、最も戦果を上げているのが魔法士だと言われています。


 ですが魔法士の数は絶対的に少なく、前線に不足しているのが実状なのだそうです。


「で、でも協調性がないと戦いにだって……」


「協調性があっても、ラピスのままじゃ魔法士として戦うことも出来ないけど?」


「うぐっ……!」


 ……だ、ダメです。


 わたしは妹に成績だけではなく、口でも勝てそうにありません。


 姉の威厳なんて遥か彼方。


「ま、あんたはまずその位置から脱却することを考える事ね」


「ふーんだ。ステラホルダーさんは余裕があって羨ましいこと」


 わたしは面白くないので口を尖らせて皮肉を言うことしか出来ません。


「まだまだよ、わたしより上がまだ4人もいるんだから」


「え、それで言ったらわたしなんて何人いるのって話になるんだけど……」


「――やるからにはトップを狙うわよ」


 あ、わたしの話完全にスルーされました。悲しい。


「トップと言えば、今日新入生代表として挨拶してたイケメンのギルバートさんって人が首席なんでしょ?」


「そうだけど……。え、なに、あんたああいうのが好みなの?」


 ん……?シャルが妙な所に食いつきました。


「好みっていうか、単純にカッコいいなとは思ったけどね?アレで成績優秀なんだから完璧だよね」


「ミーハー」


  何故か吐き捨てられるように言われました。


「なんか、すごい棘を感じたのは気のせい……?」


「一学年の女子はみんなアイツに熱中しているらしいわよ。フリーなんですって」


「へえ……」


 あんなイケメンさんがフリー。


 お相手になるような人はどんな方なのでしょうか……、きっと知的で気立てのいいお方なんでしょう。


「え、なに。好きなの?」


 ジーッとこちらを見つめてくるシャル。


 何か気になっているみたいです。


「好きっていうか、単純に目を惹かれるよねってくらい、かな?」


「へー、そー、ふーん」


 何か思わせぶりな口ぶりのシャル。


 あ、なるほど……さては。


「そういうシャルこそギルバートさんに気があるんじゃないの!?」


「……はあ!?」


 ふふ、驚いてますね。


 普段わたしに絡もうとしないくせに、急にギルバートさんの話題で食い付いてくるなんて怪しいと思ってたんですよ。


 シャルも早いもので15歳、恋の1つや2つしてない方がおかしいってもんでしょうっ。


 それに2人はステラ同士……お似合いなのは誰の目にも明らかです。


「いいよいいよ。お姉ちゃん分かってるから、隠すな隠すな」


「ちっ、ちがっ……!なんでそういう結論になるわけ!?」


「ふっ、甘いわねシャルロッテさん。その驚いている反応が何よりの証拠じゃなくて?」


 余裕を見せようとしたら、リアさんみたいな口調になっちゃいました。


「突拍子もなさすぎて驚いてんのよ!」


「何とでも言えますわよ」


「違うし!あんな男じゃないし!あとその喋り方ウザい!」


 ふふふふ、ほんとに甘い子ね。


「じゃあ好きな人はいるってことね!?」


「そっ……それはっ……!!」


「わたし、シャルの好きな人なんて聞いたことない!だれっ、誰なのっ!?」


 シャルは珍しくあわあわと慌てています。


「別にいいでしょ!放っといてよ!」


 ふん!とそっぽを向くシャル。


 無視で押し通すつもりですか、そうは行きません。


「えー。じゃあ、ヒント。ヒントちょうだい」


「ヒントって……何よ」


「そうだねえ……あっ、わたしも知ってる人?」


「あ……あんた……」


 シャルはわたしの顔をまじまじと見つめてきます。


 よっぽどこの手の話題が苦手なのか、顔がみるみる赤くなっていきます。


「ん?」


「あんたも……知ってるけど」


 な、ななっ、なんとっ!


 そんな身近にいたの!?


「もー。こうなったら教えてよっ!だれっ、だれ?!」


「言わない!絶対に言わないからっ!ていうか近い!」


 シャルに引っ付こうとしましたが、容易く剥がされました。


 いつの頃からか、シャルはこういうスキンシップも嫌がるようになったのです。


 昔はもっと仲良しだったのに、冷たいモノです……。


「もーいいから!はやくご飯食べてよねっ!」


 シャルはふんふん言いながら台所に戻ります。


 これ以上追求すると本当に怒りだしそうなので、大人しくすることに。


 潮時はわきまえているのです。


 わたしは言われるがままに食卓テーブルに着きます。


「今日はなにかなー?」


 さっきからトマトのいい匂いがしているのは気になってはいたのですが……。


「はい、どうぞ」


 シャルはわたしの前にお皿を置きます。


「あ、パスタなんだねっ!」


 その他にはサラダにスープが続きます。


「好きでしょ、あんた」


「うん!特にシャルの作ってくれるパスタが大好きっ!」


「はぐっ!」


「ん……?」


 急に変な声を出してシャルがまた顔を反らしました。


「どうかした?」


「な、なんでもない……いいから食べて」


「はーい。あ、でも今日がパスタなのは何か理由があるの?」


 ちなみにシャルはあまり麺類が好きではないようなので、我が家の食卓に並ぶことは稀なのです。


 わたしは何でも好きなので、基本的に料理を作ってくれるシャルの好みに合わせています。


「入学祝い。入りたかったんでしょ、アルマン魔法学園に」


 ……全くこの子といったらもう。


「可愛いやつめっ!」


 妹への愛を示そうとわたしは立ち上がりハグを迫ります。


「な、なにっ!?」


 朝は一緒に通うの最悪とか言いながら、やっぱりお祝いしてくれるんだねっ!


 わたしは嬉しいよっ!


 ハグはひたすら拒否されてるけど、これも照れ隠しなんだろうね。きっと。


「こーなったら明日から一緒に登校しようね!」


「あ、それはムリ。ラピスとの一線はわたし守るから」


 ……ええ……。


 やはり全ての元凶はラピスにあるんだと思うわたしでした。

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