03 ケンカはやめてください!
シャルはズンズンとこちらへ向かい、リアさんがその様子を冷めた目で見つめています。
「貴女は確か……シャルロッテさん、でしたわね」
「へえ、わたしのことも知ってるんだ」
「ステラをお持ちの方は事前に調べてあります」
「ライバルのことは把握してるってわけね」
「ええ。……貴女はギリギリですので念のため、ですけれど」
「あっ、そう……!!」
ああ、やり合ってる!
女の子同士でバチバチやり合っています!!
「それで、二人一組と言われているのに突然入ってきた無作法なシャルロッテさん?私に御用がありまして?」
「他人のことを蔑んで楽しんでいるヤツが作法の話?何かの冗談?」
「蔑む?私は客観的な評価を口にしただけですのよ」
そうかもしれないけど、言い方によっては傷つきますよね……?
「確かにこいつはラピスで無能よ」
あ、あれれ……?
シャル、わたしのことフォローしてくれるんじゃないの?
さらっとヒドイこと言ってない?
「ええ、そうでしょう。それをありのままに言って何の問題が……」
「でもね、それをわざわざ公衆の面前で言う必要はないのよ。あんたみたいなのがいるとステラの価値が下がるわ」
「価値……?ステラの価値……?私より順位の低い方が誰に物申しているのか理解していますの?」
「順位が高いなら高いなりの行動ってもんがあるでしょうが。下品なのよあんた」
「げ、下品……!?言うに事欠いて、この私が下品!?」
NGワードだったのか、とつぜん憤慨しだすリアさん。
シャルの煽りも凄くて、完全に喧嘩モードなんだけど大丈夫かなこれ。
止めたい……。
「ちょ、ちょっとシャル……言い過ぎじゃない?」
「あんたは黙ってて」
「わ、わたしの事なら気にしないで。別に何とも思ってないから……」
「は?あんたのこと何かどうでもいいから。わたしはこの女の高飛車な態度が気に入らなかっただけよ」
あ、わたしのことで怒ってくれたわけじゃないんだ……。
それはそれで寂しい……。
「私が誰か分かっていますの……!?魔法士を目指す者が“バルシュミューデ”を知らない筈がありませんわよね!?」
リアさんが赤い髪と同じくらい顔を紅潮させ、怒り心頭といった様子です。
「その発想が下品だって言ってんのよ」
――ブチィッ
と血管が切れるような音が聞こえた気がしました。
「なるほど、貴女の言いたい事はよく分かりました。要するにこの私に喧嘩を売りたいのですね!?」
急に部屋の温度が上昇していきます。
リアさんの炎魔法が体内で渦巻いているのが分かります。
「へえ……そっちがその気ならわたしは構わないけど?」
と思っていたら温度が下がって平均くらいに。
シャルの水魔法が防壁となって展開されようとしているのが分かります。
ま、まずくないですかコレ……?
魔法で戦おうとしてませんか?
「ちょ、ちょっと……リアさん?喧嘩は良くないですよ?」
「これは喧嘩じゃありませんわ。適性検査です」
「ええ……」
な、ならシャルに謝らせよう……。
「シャル、こんなの良くないって。ごめんなさいして穏便に済ませよう?」
「そもそもあんたがみっともない真似したからアイツを調子乗らせたんでしょ?あんたがわたしに謝りなさいよ」
ひええええ……、なに言ってるのこの子ぉ。
て、ていうか、先生は何しているんですか……?
「へ、ヘルマン先生。止めないんですか?」
「まあ。適性検査なら、いいんじゃない?」
お、おい……。
これが適正検査に見えますか……?
リアさん相当の火力を用意してますよ?全然最小威力じゃないですよ?
「それに俺、女の子の喧嘩って苦手なんだよね。どうしても理屈で仲裁することになるんだけど、それが向こうには響かないんだよね」
「それも仕事の内ではないんですか……!?」
「いやあ、かと言ってパッションとかテンションで話せるほどもう若くないし」
分かりません!
先生の言ってることが分かりません!
「それに魔法士になるには魔法での衝突は避けられない。優秀な子同士だし、変なことにはならないでしょ。命の危険さえなければ基本容認するのが魔法学園だよ、フラヴィニー」
「で、ですが……」
でもこんな内容で衝突する魔法は健全ではないと思われます……。
「いいでしょう!後悔させて差し上げます!」
するとリアさんがかなりの量の魔力を生成し、手をかざします。
どう予想しても最小威力ではありません。多分、最大出力に近いヤツです。
「おお……
なんかクラスメイトさんが呑気なことを言っています!あと底辺ってやめてください!
「いいわよ、かかってきなさい!」
シャルは望むところと言わんばかりに身構えています。
――ピチャピチャ
シャルの足元が水で滴り始めています。
もうこうなったら、わたしが止めるしかありません……!!
「――
わたしはその一言で全身に魔力を張り巡らせます。
特に両脚に集中させ、地面を蹴り上げました。
――グンッ!!
床の跳ね返る音が響き渡ります。
「喰らいなさい!灼熱の……」
「ケンカはいけません!!」
リアさんの腕を取り天井に押し上げました。
「えっ、あ、え……!?」
――ゴオオオオオ!!
詠唱途中だった不完全な魔法は炎の柱となって天高く舞い上がっていきました。
というか天井まで焼き焦がしています。
「……不完全な状態でコレってどういうことですか、シャルを丸焦げにするつもりですかリアさん」
「あ、貴女……」
わたしがこのような手段に出ると思っていなかったのか、リアさん目を丸くしています。
「お、おい……あのラピス、いつの間にリア様の手を取ったんだ……?」
「さ、さあ……?」
周囲の方は何か言っているようですが、喧嘩仲裁中のわたしにはそれを聞いている余裕がありません。
「貴女、今の魔術ですわね……?」
ギロリと睨んでくるリアさんの視線が怖いのです。
「え、あ、はい……魔法はダメですけど。魔術は使えますので……」
魔法と魔術は概念が異なります。
魔法とは、“魔力で法則に干渉し、現象を起こす技”
魔術とは、“魔力で術者に干渉し、変化を起こす技”
基本的に難易度は魔法が高く、魔術は低いと言われています。
「魔術だけで私に向かってくるなんて……貴女、命が惜しくありませんの?」
「いや……その、わたしも必死だったので……」
たしかにタイミング間違えたら防御魔法が使えないわたしは丸焦げですからね。
命がけの行為でした。
「いつまで私の手を握っていますの?いい加減、お放しなさいっ」
「あ、ごめんなさいっ……!!」
リアさんはわたしの勢いよく振りほどき、凝視してきます。
「さっきの貴女の魔術ですが……」
「?」
「……いえ、何でもありませんわ」
リアさん何か言いかけて、そのまま背を向けてしまいます。
「あっ、リア・バルシュミューデ!逃げる気!?」
要らないことを言い始める我が妹!
「興を削がれましたわ。今日は見逃してあげます」
そそくさと帰ろうとするリアさん。
「あんたの方こそ怖気づいたんじゃないの?」
それでも焚きつけるシャル。
「何とでも仰ってください。自分より順位の低い者の戯言など聞くに及びません」
「なんですって……!?」
でも、リアさんが上手いこと流して退散しちゃうのでした。
ですがリアさん、それなら最初からシャルに構わなければ良かったのでは……?と、言えないけど思っちゃいました。
「ふん。今に見てなさいよ」
その後に続くようにシャルも演習室を出て行っちゃうのでした。
「あ、おい……あの二人、適性検査まだ終わってないぞ」
ヘルマン先生の二人には絶対届かない小声が虚しく響きました。
「ま、いいか。さっきのでだいたい分かったし」
うん、先生けっこうアバウトですね。
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