11.キヨドールの嫌がらせ

 

 王城前の大通りは、上り下り各三車線。

 普段の上り車線は高位貴族用、下り車線を下位貴族が城へ向かう。

 第6班が手際よく振り分け、誘導してくれているので、概ね良好だった。


 そうして大通りに入ってきた車列を、俺とエヴァが最奥の交差点の中央にある監視台の上に立って、目視で確認する。

 誤りを見つけたら、それを正すように第4班に指笛と旗で指示を飛ばす。

 ベルジャナや双子も通りに立っているので、キヨドールに間に合わない指示は彼女らの補完が間に合っているから大丈夫だ。


 また、複数台の馬車がそれぞれ違う速度で走って来るので、それも見ながら順番を調整する為に加速・維持・減速の指示も第4班と19班で各馬車に伝える。

 貴族の序列については、俺もずいぶん叩き込まれているし、エヴァがもとから詳しい上に一生懸命覚えてくれたので、問題は起きなかった。


「……少しずつ馬車も増えてきたな。これからピークが来るけど、大丈夫か? エヴァレット」

「はい! それにしても、貴族の序列が全部頭の中に入っているなんて、班長凄いです!」


 エヴァが尊敬の眼差しで見てくるけど……俺だって20年も交通整理の衛視をやってんだから、それくらいはね。


「そろそろよそ見している暇が無いくらい忙しくなるから、気合入れていこうな?」

「はいっ! 頑張ります!」



 大通りに車列が増えて、俺もエヴァも頭をフル回転させたその時――


 ヒヒヒィ~ンッ!

 下位貴族用の車線から馬のいななきが聞こえてきた。


「――どこだ?」

「班長、あそこです!」


 下位貴族用車線の端、そこでとある男爵家の2頭引きの馬車が、1頭が棹立さおだちになって止まってしまっていた。

 馬が混乱してしまうような何かがあったんだ!

 近くにいる衛視に対応させよう。


 近くには……いた!

 キヨドールだ。歩道に植えられた街路樹に寄りかかりながら、不敵な笑みを浮かべている。

 そして……なにやら手でもてあそんでいる。

 親指で上に弾いて……パシッと宙で掴んで。


 ――飛礫つぶてだ!

 でも、あそこは何人もの衛視がゴミ一つ、それこそ石ころ一つ落ちていないように点検したはずだ……。

 あの野郎っ! 魔法で創り出した飛礫を馬にぶつけやがったな?

 奴は土属性魔法の使い手……『結界』の中であっても、あのくらいの石は創り出せたか!


 ここエーバスは王の御座おわす都だけあって、全域に魔法防御結界が張られていて、外からの魔法も防ぎ、中での魔法使用も大きく制限・弱体化を受ける。

 教会の光魔法使いと騎士団の中の光属性の騎士の手によって、維持されている物だ。


 キヨドールが飛礫を載せた親指をもう1頭に向けた!

 そして俺に顔を見せて……笑いやがった。

 その瞬間に、奴の親指から飛礫が馬へ。


 ――やりやがった! 嫌がらせってレベルじゃねえぞっ!


 ヒヒィ! ヒヒィーンッ!

 後ろ脚への強烈な一撃に、その1頭も混乱を来たして、御者の制御も効かずあらぬ方向へ向きを変え走り出した!

 馬車は通りを横切り高位貴族家の馬車が走る車線へ向かう! 御者も制動装置ブレーキのレバーを引くが、止まれそうもない

 急に前を横切られた他の馬達も驚き、嘶きをあげる。


 不味いぞ。

 このままだと多数に危害が及ぶ!


 ――仕方ない!

 通りに立つ第19班員に指笛で合図を送る。

(対応せよ)


 俺の合図に双子もベルジャナも目線を寄越して頷いた。


 ベルジャナは位置的に反対の歩道、しかも遠過ぎてとても間に合いそうもないが、大通りの中央緩衝地帯にいた双子が馬の進行方向に先回りし、馬がすり抜けられるほどの間隔を空けて待ち構える。

 そして、馬が二人の間を駆け抜けようとしたその時、一斉に馬の首元に飛びついた!

 跳び付き、少し引き摺られながらも、片手で馬の頬を撫で、猫撫で声で語りかける。


「「お馬さん可愛いわね~? 怖かったわねぇ~、が側にいるから、もう大丈夫よ。ドウドウドウ……」」


 大男が……もっといい声掛けは出来ないのかと、茫然としかけたけど……効いたみたいだ!

 馬が2頭とも速度を緩め、速歩はやあし常歩なみあし、足踏みになって、止まった。


「お、おおっ! 何とかなった!」


 双子も止まった馬を撫でてやりながら、俺に手を振ってくる。

 俺も胸を撫で下ろした時だった――


 ドォオンッ!


 轟音と共に火の手が上がった!

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