王都交通整理隊第19班~王城前の激混み大通りは、平民ばかりの“落ちこぼれ”第19班に任せろ!~

柳生潤兵衛

1.王都交通整理隊第19班

 

 ピッピッピッピーッ!


「今日の任務はここまでにしよう! お疲れさーん!」


 ボウイング王国の王都エーバスに夕刻を告げる教会の鐘が響き、目の前の大通りが閑散としてきたのを確認した俺は、通りに散っている班員に指笛の合図と共に今日の仕事の終了を告げる。


「ん……」


 俺のすぐ隣にいるベルジャナが言葉少なに頷く。

 部下の中で一番小柄な黄褐色の肌に緑眼の女児――女性班員で、ボブの青髪が微かに揺れた。


「「はぁ~い!」」


 担当区域の中間地点に立ってもらっていた二人組のスキンヘッドに細髭大男、サンドとポルトが明るく応えてくる。

 片手を高く上げてもう片方の手で脇を隠しながら陽気に返事をする双子の彼らは、仕事を終えると“彼女ら”になる。


「りょうかぁーいっ!」


 俺から最も遠い持ち場から誰よりも大きな声で返答し、駆け足で颯爽と双子を追い越してくるのがエヴァレット。愛称エヴァ。

 副班長を任せている彼女が、桃色に近い茶髪のポニーテールを跳ねさせながら戻ってくる。


「班長殿! エヴァレット、ただ今戻りました!」

「もぉ~エヴァちゃんったらぁ、一緒に戻ろうっていったのにぃ~!」

「そうよぉ。抜け駆けはダメッ! 班長はみんなの班長なんだからぁ!」

「なっ! ち、違うっ! 私はただ部下であるから当然の事として走って来たのだ!」


 集合して早々、ベルジャナを除いて騒がしくなるこの班は――

 俺、マーティンを班長とする『王都交通整理隊第19班』という衛視チーム。歴とした国家公務員だ。


「ハイハイわかったわかった! 全員集合したところで、庁舎に戻って隊長に報告だ」


 俺は銀灰色の短髪を掻きながら、落ち着くように促す。

 白髪が生えちゃって、白が入ってるけど、まだ銀髪でいける……はず。まだ35歳だし……。


「はい」

「ん」

「「はぁ~い」」


 交差点の中央に設置されている石組みの監視台から、棒の両端に赤い旗が付けられた信号旗と砂時計を回収して、揃って庁舎へ戻る。

 庁舎は王城の敷地内にあり、他の担当区域の班もゾロゾロと歩道を歩いているのが見える。


 むにゅう! モミモミ。

 双子の大男のサンドとポルトが、俺を両側から挟んで、尻を触ってくる。

 この国の成人男の平均をちょっと超える175ソンタc mある俺でも、200ソンタを超える巨漢マッチョに挟まれれば、子供同然だ。

 成す術が無いって言うか、成しても無駄って言うか……。

 それにしてもいつも思うが、双子とはいえ趣向が違うのか、触り方には違いがあるもんだな。

 ――って、言ってる場合じゃない。


「サンド、ポルト、やめなさい。公然だぞ」


 いや、密室だともっと怖いけど……。

 俺の注意に合わせて、後ろを歩いているエヴァとベルジャナが俺の尻を撫でる双子の手をパチンと払う。


「そうだ! なにをうらやま――けしからん事をしているのだ!」

「ん。……こ…すぞ」


「「もう、マーちゃんったらぁ~! お仕事が終わったんだから『サンディー』『ポーラ』って呼んでぇ?」」

「マーちゃん……。いやいや、まだ仕事中っ! 隊長に報告するまでが仕事です」

「「はぁ~い。じゃあ後でね?」」

「無い」

「「ええー!」」


 庁舎に着くと、毎度ながら隊長への報告待ちの列が出来ている。

 大人しく並んで待っていると――


「おっ? “平民落ちこぼれ”の19班じゃねえか。なに他の班と同列で並んでやがる! お前らは俺達が報告を終えた後、最後の最後だろ? とっとと退きやがれ!」

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