第四章

第16話 同族経営・有か無しか

 フシギさんが辞めてすぐ院長の身内(セッカチさん)が受付に入ってきた。


 「驚くほど仕事が出来るスーパーマンの様な人だから」


 「それと身内贔屓になってしまうけれど大切にしてください」

 彼女がやってくる前に、院長から何回も聞かされていた言葉だ。


 ここまで露骨に「身内だが〜」と言われると非常にやりにくい。


 気を使うな~



 ところが思っていた印象とは違い、セッカチさんは感じが良く・仕事の覚えが良く・理解力も高い。


 そして身内なので、受付が欲しいといった物品を彼女の権限ですぐ買ってくれた。


 他部署もセッカチさんに気を使うようになり、受付の立場が飛躍的にあがるようになっていった。


 「良い人が入って来たね。彼女を大切にしよう」

 暫くは、ヤンキーさん・シズカさん・私の三人は大喜びしていた。


 だがその喜びは長くは続かなかった。


 セッカチさんはウルトラセッカチだったのだ。



 受付の仕事は、二人で協力してやることもあるのだが、ほとんどが自分のポジションの仕事を段取りつけて自分のペースでやっていく。


 ところがセッカチさんは、自分の仕事を仕上げるのが早いゆえに、人の仕事を横から奪うように割り込んでやってしまう。


 それも虫食い的にやるので、こちらのペースが狂わされてしまいとてもやりにくい。


 ありがたい時もあるのだが、自分がどこまで仕上げたかわからなくなってしまうので、手を出されるのは困る。


 しかも、せかせか手伝うのでミスもする。

 そのミスはこちらのせいにされてしまうことが多かった。


 「手伝わなくていいから」

 遠まわしに言ってみる。


 「気にしないで、私がやりたいからやっているの。楽できてラッキーと思って」

 そんな返事がかえってくるのだ。


 それが楽じゃないの。


 ミスされるとかえって仕事が増えて大変なの。



 しかし、院長の身内なので、そんな事は言えない。


 「いつも手伝ってもらっていたら、私の仕事能力が落ちてしまうから私にやらせて」

 だから手伝わないで~お願い察して~


 だが……


 返ってきた言葉は……


 「私、動いていないと死んじゃうから無意識に手が動いちゃうの」

 だった。


 嫌がらせか? と疑いたくなる程傍若無人に振る舞うセッカチさん。


 そうなのだ。


 彼女は人と歩調を合わせる事が出来ないスーパーウーマンだったのだ。



 仕事はチームワークが大切だ。


 良い人が入って来たと喜んだのも束の間で、毎日の仕事がストレスとなっていった。


 セッカチさんは、急ぎでない仕事でも、隣でバタバタと忙しく動くので、こちらもいつも忙しく何かをしていなくてはならない。


 そして、診察室から垣間見える院長には、セッカチさんばかり忙しく働いて見えていた。


 その他にも、マイルールが多く、急に色々変えてしまってその変化に合わせるのにも一苦労。


 午前と午後の受付配置がガラリと変わっていることもしばしばあった。


 セッカチさんのやりやすいようにしてしまうのだが、他のメンバーにはやりにくい事の方が多かった。


 この状況では、セッカチさんが入ってもフシギさんがいた時より良くなったかどうかわからない。









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