紅物語~零~

静沢清司

第1話 真堂雅之について。

第一部 プロローグ 真堂雅之について。


 ──雨が降っていた。そして男は、泣いていた。


 まだ瑞々しさを残すその顔をしわくちゃにして、ただ悲壮に打ちひしがれ、ただ喪失に心を砕かれ、ただ後悔に切り傷に塩を塗られて、いまは涙を流している。


 力はあった。それを行使する勇気も、冷静さも兼ね備えていた。

 だがそれは慢心だった。

 力はあれど、勇気や冷静など彼にはなかった。幼かった。まだまだ未熟だった。


 それを、もしあの時に思い知っていたのであれば。そう気づいていたのであれば。救えるものはたしかにあったはずだ。


 そう、男は嘆く。


 勇者になど、なれない。

 戦士になど、なれない。

 

 救世主ヒーローになど、なれない。


 ──ああ。


 俺は決して、ヒーローにはなれない。

 男はつぶやき、雨に打たれつくして死んでしまおう……そう決心した。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る