第四章 憤りと葛藤

第1話


 話しかけられた時は正直「びっくりした」という気持ちが勝った。


 それは「喋った」とか「キレイな目をしている」とか色々な情報以上で……とにかく驚いた。


「なっ、なんでしょう」


 その驚きは思わず声が裏返ってしまった程だ。


「いや、少し気になる事が……あって」

「?」


 またも意外な反応だ。しかし、だからこそ気になる。


「……悪い。俺はその……あまり喋るのが得意じゃなくて……その」


 この反応を見た限り、相当口下手なのだろう。


「それなら気にせずとも。俺も……自慢ではありませんが決して口が上手い方ではありませんので……それに色々な人を見てきましたから、大丈夫です」


 自分で良いながら根岸はそう昔でもないアルバイト付けだった日々を思い出す……とふいに「本当鬼色々な人に会ったよなぁ」と謎に感慨深くなる。


「そ、そうか。色々と苦労しているんだな」

「おかげさまで」


 遠い目をしていれば大抵は励ましの言葉をくれる。本当に根岸自身は「そこまで気にしていないが、下手に謙遜するのもおかしな話だ」と思い、それなりに答える。


 もはや慣れたモノだ。


「で、気になる事って何ですか?」

「え、ああ。えっと……君。つい最近『神殺し』になったん……だよね」

「? はい」

「だったらその……知っておいた方が……というか気にしておいた方がいい……という事が……その一つあって」

「……」


 この言葉から根岸は何となく「神亀の事だろう」と悟った。


「ただコレは別に『神亀家』だから……って話じゃなく『神殺し』をしている全員に当てはまる事で……その、一種の心構えみたいな話で……」


 そもそも「人に説明をする」という事自体に慣れていないのだろう。男性は何とか説明しようと頑張ってはいるモノの、その声は小さく……そして早口だ。


「……」


 それこそこの場で小さい子供がはしゃいでいようものなら全く聞こえていなかっただろう。それくらい男性の声は小さい。


 しかし、根岸にとっては「心構え」よりも先に『神亀家』という言葉の方が気になった。


「……やっぱり、冥さんの家って有名なんですね」


 そう小さく呟くと、男性は少し驚いた様なリアクションを見せる。


「――あ、やっぱり『神殺し』をしていて知らない人はいないって感じなんですね」


 苦笑いをしながら尋ねると、男性は少し落ち着いた様子で「う、うん」と申し訳なさそうに言う。


「なんでそんな申し訳なさそうに言うんですか」

「え、だって……」

「そこは俺が無知だった……それだけの話ですよ。冥さんは基本的に自分の事は何も言わないし、俺もそれに対して追求もしなかった。だから知らなかった。ただ、それだけの話です」


 そう、本当にただ「それだけ」の話なのだ。


「だから、あまり気にしないで下さい」


 ニコリとワイながら言う根岸に対し、男性は「わっ、分かった」とぎこちなく答える。


「そっ、それで……その」

「気になる事の話……でしたね」


 言いにくそうにしている男性に代わり根岸がそう言うと、男性はどこか安心した様子で「うっ、うん」と話を続けた。


◆   ◆   ◆   ◆   ◆


「……大丈夫?」

「はっ、はい」


 ――結局のところ、大浴場で男性と話し込み過ぎた根岸は……完全にのぼせてしまい、神亀に迷惑をかけてしまったのは……言うまでもない。

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