第4話
それまでの根岸の人生は「ありきたり」とか「普通」という言葉がお似合いだった……という程長くその人生を送っていたわけじゃない。
でも「幸せだった」というのは嘘じゃない。それこそ「普通で……ずっと続くと思っていた」それほどに。
「それで行くと君は生みの親を亡くしているね。しかも君の誕生日に」
彼女の言葉を噛みしめる様に聞き頷くと同時に頭の中ではその頃の記憶が蘇る。
「……」
事故に遭ったのは彼が小学校に入る前の誕生日の当日。
その日はとても寒くて雪も降っていた。だから、本当は外に出かける予定だったけれど、その予定を変更して既に注文していたケーキを受け取るだけになった。
実は両親がプレゼントを既に購入して家に隠していた事を知っていた根岸は申し訳なさそうに言う両親に対し「大丈夫だよ」と答えた。
でも、それが間違いだったらしい。
「本当はもっと人が行き交う昼頃に行く予定だった。でも、俺がテレビゲームに夢中になってしまって時間がズレこんでしまった」
そして気がつけば予定よりも三十分も予定の時刻より過ぎていた。
両親としては「誕生日に叱るのも」と思ってくれたのだろう。それくらい優しい人たちだった。
「元々予定より早めに以降って話だったから特に問題はなかった。ただ……」
実はその時間帯はトラックが多く行き交う時間帯で、根岸と両親は外を歩いていた。
「俺たちは雪でスリップしたトラックに巻き込まれる形で事故に遭った」
しかし、その事故を起こしたトラックの運転手はその場から逃走してしまい、事故を見ていた人がすぐに警察と救急車を呼んでくれたおかげで根岸は助かる事が出来た。
「俺は助かることが出来たけれど……」
「ご両親は亡くなってしまったんだね」
「……」
彼女が言ったその言葉は……事実だと分かっていても、やっぱり根岸には重く感じる。
「行く当てをなくした俺は遠縁の親戚に引き取られる事になった」
親戚の人たちがコソコソと話しているのを聞いたところによると、何でも父方の遠縁であるその人の奥さんは子供が出来にくい体だったらしく、どうしても子供が欲しかったそうだ。
「でも、いざ俺を引き取ってみると……やっぱり色々と違ったんだろうな」
引き取られて一年も経たない内に根岸は暴力を振るわれるようになった。
「元々浪費癖もあったのか給食費も払う事も出来ず、最終的には……はは」
自分で言っておきながらなんだか泣けてきた。
「……そっか」
女性はそう言うと、優しい手つきで根岸の頭を撫でる。
「……」
こうして頭を撫でられるのはいつぶりだろうか。それを考えてしまうと、なんだか泣きそうになった。
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