第15話 街道から外れた件

 僕とエルは大きな街道から外れて、エルの知識にある細い道に馬車を進ませた。

 それに気がついたレイラさんが小窓から馭者ぎょしゃ席に顔を出して言った。


「あの、コチラは街道ではないようですが…… 進行方向もヤカラ町の方向では無いような…… ハッ! もしや人気の無い場所に私を連れ込んで、あんな事やこんな事をなさるおつもりですかっ!?」


 うーん…… 物凄く整ったキレイな顔立ちだし、黙って立っていたら完璧な侍女さんに見えるレイラさんはかなりな【残念さん】のようだよ……


「えっと、誤解してるようだからちゃんと言いますね。この道を進むのは伯爵家の刺客から逃げる為です。僕とエルの2人だけでお2人を守って無事にたどり着けるように、あまり知る人の居ない筈のこの道を進んでるんです」


 僕が丁寧に説明すると少し残念そうに、しかし笑顔でレイラさんは返事をした。


「そうですか(残念です……)。分かりました。お2人にお任せします。ハイリ様にもお伝えしておきますね」


 そう言って小窓から顔を離したレイラさん。僕の横でエルがブツブツと言っている。


「あの侍女は要警戒…… ユージ様を狙っている…… 途中ですきを見て排除するか……」


「エル、ダメだからね。排除は却下だよ」


「ハッ、私の心がユージ様に読まれた! こ、これは愛の証!!」


 いや、違うから…… 声に出してたよ、エル。僕はハハハと力なく笑う事で誤魔化したよ。


 そんな感じで軽くやり取りをしながら道を進んでいたらエルが何かを感じたようだ。


「ユージ様、この先にとても素敵な洞窟だんじょんがあるようです。護衛依頼の最中ですが、護衛対象者にも力をつけて頂く事で任務遂行が楽になるかと思います。そこで、護衛対象者も連れてその洞窟だんじょんに潜り込みませんか?」 


 えっと、危険じゃないかな? 魔物がいるだろう洞窟だんじょんに護衛対象者を連れて行くなんて。僕はそう思ってエルに確認してみた。


「依頼の遂行中だし、護衛対象者を危険な目に合わせるのは良くないと僕は思うんだけど、エルはどうしてその洞窟だんじょんに行きたいの?」


「ユージ様、私の察知能力ではスライム洞窟だんじょんだと認知いたしました。つまり、危険はかなり少ないかと思われます」


 おおっ! こんな場所にもあったんだ、スライム洞窟だんじょん。それは是非とも行ってみたいね。僕は馬車を一旦停めてハイリさんとレイラさんに聞いてみる事にしたんだ。


「ハイリさん、レイラさん。レベル上げに興味は無い? 少しでも強くなっておく事もこの先、生きていく上で便利だと思うんだけど、どうかな?」


 僕がそう聞くとハイリさんが答えてくれた。


「まあ、レベル上げが出来るんですか!? 私、ずっとレベルを上げたかったんです!」


 そしてレイラさんも、


「私もお嬢様と一緒で、レベルを上げる事に興味があります! 女として磨きをかけたいです!」


 と言うけど、レイラさん。僕の言ってるレベル上げは身体的に強くなる為のレベルなんですが…… ま、まあ強くなると内側から自信が溢れてキレイになるかも知れませんね…… 


「それじゃ、少しだけ寄り道するね。この先に低いレベルの人でも安全にレベル上げが出来る洞窟だんじょんがあるみたいなんだ。そこに向かって2人のレベルを上げよう。あ、2人とも初級魔法の火炎は使えるかな?」


「はい、私は使えます」

「私も使えます」


 2人の返事に安心した僕は馭者ぎょしゃ席に戻ってエルに伝えたよ。


「分かりました。それでは洞窟だんじょんに向かいましょう」


 そしてやって来た洞窟だんじょん。ちょうどいい感じに前に広場があって、馬車と馬を繋いでおけるみたいだけど、そのまま置いておくのはさすがに不安だなと思ったら、エルが洞窟だんじょん前の広場を囲うように何かを置いてる。


「コレでS級を超えるような魔物が来ない限り、馬車も馬も大丈夫です。もちろん、人にも見えなくなってます。コレはトウジ様からお母様が授かった【無在の石】です。こんな事もあろうかとお母様が私に預けてくれました」


 ほえ〜、ご先祖様トウジの無の能力の一つ【無在】が込められた石なんだ。凄いね、ソレは。僕が感心してるとハイリさんとレイラさんが驚きの声を上げたよ。


「えっ!? トウジ様ってあの500年前の英雄のトウジ様の事でしょうか?」


 とハイリさんが言うと、


「あのサンマ・トウジ様の能力が込められた石を手にするエルさんは一体何者……」


 とレイラさんが言うから、僕は2人に説明する事にしたんだよ。僕が元々シェンマー侯爵家の者で、サンマ・トウジの子孫だって事、シェンマー侯爵家を追放されて、金精様に出会って鍛えていただいた事、その際に神様からの許可を得てサンマを名乗る事になった事などを話して聞かせたよ。エルも自分の事を2人に話していた。

 そしたら2人とも僕とエルの事は誰にも言いませんって有の女神メノミ様に誓ってくれたんだ。

 

 そこまで言ってくれた2人に僕とエルはそれぞれのステータスを明かす事にしたんだよ。2人も僕たちにステータスを見せてくれる事になった。

 洞窟だんじょんに入る前にこうして明かして貰えるなら、より安全に洞窟だんじょんを進んで行けるからね。


 で、2人とも僕とエルの能力を見て固まってるよ?


 エルはともかく僕の方はそんなに高く無い筈なんだけどな? 僕がそう思ってたら、エルが説明きてくれたよ。


「ユージ様、お父様が言ってた弱いというのは500年前にトウジ様と一緒に戦っていた人たちを基準にした物言いです。今のユージ様は決して弱くはないんです。ただ、まだまだ強くなる余地があるというだけですよ」


 ってね。そうなんだ。僕は金精様からまだまだ弱いって聞いてたから弱いんだと思いこんでたよ。


 


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